第7話 サバイバル機能にはこんなものもあります
「アーク。オーダー、浄水化装置を」
「了解」
ユーリの指令を受けたアークは、井戸の縁の部分にちょこんと着地する。
そしてボディの頭頂部から半透明のタンクのようなパーツがせり出し、後方部分からは長いチューブ状のパーツが伸び出し、井戸の中へと降りていった。
低い駆動音のような音がして、アークのボディの表面に、処理中を示す赤い光のサインが点滅する。
「ユーリ? ▼★◎△▼△▼?」
そのアークの動きを見たレティーナが、ユーリの名を呼んで質問してくる。
相変わらず、ユーリの名以外の言葉は分からない。
「僕に任せて下さい!」
ユーリは殊更おおきなモーションで、胸をどんと叩いて任せろ、という意思を伝える。
アークにはフライトボード以外にも、必要に応じてマスターの助けになる機能が搭載されている。
これもその一つ。
事故や災害など緊急時に、飲み水を確保するサバイバル機能の一つだ。
汚染物質を除去して安全にしたり、海水の塩分を除去する事も出来る。
レティーナと共にアークの様子を見守っていると、せり出した半透明のタンクの部分に、段々と水が溜まっていく。
アークのボディ内で浄化された処理水だ。
「一定量の蓄積完了。外部送水可能です」
アークのボディーの処理中ランプが、グリーンライトへと変わる。
「ありがとう、アーク」
タンク部分にはレバー式の蛇口が取り付いており、それを引くと水が出てくる。
ユーリは出てきた水を手で受け、一口口にする。
塩味はしない。真水の飲料水だ。
「うん。美味しい水だよ、アーク!」
「正常動作を確認。正常動作を確認」
「レティーナさんもどうぞ!」
ユーリはレティーナの手を取り、アークのタンクの水を手で受けてもらう。
レティーナはそれに恐る恐る口をつける。
また塩辛いのではないかと、警戒しているようだが――
「!?」
当然それは、ユーリも口にした普通の美味しい水だ。
「△▼△▼★▼★▼! △▼△▼★▼★▼!」
レティーナは顔を輝かせ、大きな声を上げる。
それを聞いた村人達が、わっとユーリとアークの元に集まってくる。
「さあ、皆さんもどうぞ! 飲んでみて下さい!」
ユーリは次々と村人達に処理済みの飲料水を飲ませていく。
すると皆顔を輝かせ、暗かった雰囲気が俄に活気づいていく。
「▼★△▼△▼★▼?」
水瓶を持ってきた村人がおり、瓶を指差して尋ねてくる。
何が言いたいのかは当然分かる。水に困っていたのだろう。
「はい、勿論ですよ!」
ユーリはそれに水を満たし、返してあげた。
「さあ他の皆さんも、お水が必要な 方はどんどん持ってきて下さい!」
「説明資料映像を添付」
アークのボディから、立体ホログラフィの映像が出力される。
水瓶を持った村人達が列を作って並び、ユーリがそれに水を注いで手渡してあげる姿だ。
ユーリはそれを見ながら大きく頷き、村人達ににっこりと笑顔を向ける。
「「「▼★△▼△▼★▼!」」」
村人達は一斉にそう声を上げる。
そして横から、誰かにぎゅっと抱き締められる。
レティーナだった。ふんわりといい香りがしたような気がした。
「▼★△▼△▼★▼!」
満面の笑みの端には少し涙が滲んでいたりして、本当に嬉しそうだった。
「ユーリ。彼らの言語体系の一次解析が完了。α版ですが『MS-1人語翻訳プログラム』を生成します。すぐにダウンロードしますか?」
「おぉ……!? さすがアークは仕事が速いね! 早速お願い!」
「了解。ちなみに、今彼らやレティーナさんが口にしていた言葉は……」
「いや、それはさすがに分かるよ?」
言葉が分からなくても、伝わる表情や気持ちというものがある。
そしてそれを生で感じられる事が、フィールドワークの醍醐味というものだろう。
「ありがとう、でしょ?」
「いいえ、ちがいます」
「え!? 違うの!?」
ユーリはびっくりしてしまう。だとしたら何を言っているのだろう?
「……いえ、ユーリの言う通りで合っています」
アークは時々こういう茶目っ気を発揮してくる事もある。
だから単純なサポート、機械的なものとはユーリには思えず、大切な相棒であり家族のようなものだ。
「もう、びっくりしたなあ」
ともかく、困っているマナ文明の人達を手助けできたようで、非常に喜ばしいことだ。
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