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銀河連邦学術士官ユーリ・フォイルの、剣と魔法のフィールドワーク  作者: ハヤケン


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第43話 封印樹と宝石竜

「どうぞ」

「どうぞ飲んで下さいバールデルさん、皆さんも」


 レティーナの言葉を通訳して伝える。


「おぉ、こいつは美味い酒だな」

「美味いッス!」

「どうやって作ってるんッスかね!」


 ユーリも飲ませて貰った葡萄酒のようだが、竜人(ドラゴニュート)達の口にも合うらしい。


「あ、バールデルさんもう空ですね」

「ん? ああ飲んだ事が無い程美味い酒だ。つい、な」

「ではもう一杯どうぞ」


 言葉は通じなくとも、レティーナが察してバールデルにお代わりの酒を注ぐ。

 それを見てユーリはうんうんと頷いた。

 飲食の好みが合うと言う事は、お互いの交流を図るためにも重要な要素だろう。


「それで、ユーリ。封印樹とやらの事を聞いてみて貰えないか?」

「ええ勿論です。バールデルさん、それで封印樹とは何を封じているのですか?」

「うむ。宝石竜だ」

「宝石竜!?」


 何だかとてもロマンを感じる名前の響きだ。

 元々ユーリはマナ文明の生物でドラゴンが一番好きである。


「うわぁ、凄そうな名前の響きです……! 宝石と言うからにはきっとキラキラして綺麗なんでしょうねえ、それにあんな巨大な樹で封印する以上さぞかし巨大で戦闘力もずば抜けていて……!」


 ドラゴンはドラゴンでもただの量産型では無く、マナ粒子の局所の偏りが生み出した一点もののドラゴンだろう。是非この目で見て調査してみたいものだ。

 そんな妄想を膨らませるユーリに、バールデルは少々困惑気味のようだ。


「う、うむ。それはユーリの言う通りなのだが……決して喜ばしいものでは無いのだ」

「と言うと?」

「宝石竜はかつて魔王様が勇者抹殺のために作り出した切り札とも言える存在だ。しかし余りに強力に作り過ぎたせいか、アレは狂っていた。魔王様の制御すら受け付けず、敵味方の区別も付かぬ。持て余した魔王様も封印樹を使って封じるのが精一杯だったのだ」

「……強く作り過ぎた失敗作だったと?」

「うむ。封印樹は瘴気を吸い成長する霊木だ。それがあんなに巨大に育つ程に奴の力は恐るべきものだと言う事――そして封印樹はまだまだ成長を続けている……だが余りに巨大になりすぎ、いつ自壊しても可笑しくない状態だ。この意味が分かるな?」

「宝石竜は確実にまだ生きていて、いつ復活してしまうかも分からない危険な状態だと?」

「そうだ。最近では漏れ出した瘴気が森の魔物を変貌させ、一層凶暴化させてしまうような場合もある。お前達の里を襲っていた奴もそうだ」

「ああ、あの。だからバールデルさんが仕留めに来ていたんですか?」

「瘴気が更に他の魔物に感染し、広がって行きかねないからな。目に付くものは俺達で狩っていた」


 ユーリの質問にバールデルは頷く。


「それでは、何故バールデルさん達はそんな危険な封印樹に住んでいるのですか?」

「宝石竜の封印は俺達が魔王様から与えられた使命だ。魔王様がお隠れになられたとは言え、それは変わらんよ。いやむしろ大きな争いのない時代だからこそ、あんなものは必要ないと言えるだろう」

「レティーナさん達や僕達を森の奥に近づけないようにしていたのは、封印樹に近付かないようにですか?」

「ああ。もし宝石竜が復活すれば、このガルドラス島などあっという間に消し去られてしまいかねん。だからユーリ、お前もこちらのお嬢さん方もすぐにこの島を離れるがいい。お前達は島に集落を作ろうとしているようだが、あまりに危険過ぎる。今回は特別に水を持ってきたが……これはこの島で暮らすためのものでは無く、別の土地へ移るための旅の餞別だと思ってくれ」


 バールデルは少々言い辛そうにしながら、葡萄酒の杯をぐいとあおって空にする。


「なるほど、そういう事だったんですね」

「ユーリ。どうした深刻な顔をして? 私にも教えてくれないか?」


 ここまではレティーナには分からない竜人(ドラゴニュート)の言葉で話していた。


「ええ勿論ですレティーナさん。バールデルさんがとても重要なお話をしてくれましたので、よく聞いて下さい」


 バールデル達はいざ言語を解析して話をしてみると、決して凶悪では無く理知的で対話が可能な種族である。

 それがレティーナ達集落の人々を森から追い払おうとしていたのは、その身を案じてくれていたからなのだ。


 だが言葉が通じないゆえに、少々手荒な方法を取らざるを得なかった、と。

 それが分かったのは良かった。

 良かったが――それはそれで問題である。


「そうか。封印樹というのはかつての魔王ですら制御不能だった宝石竜を封じるためのもので、それもいつ破られるか分からない。もしそうなれば私達の命は無いと考え、バールデル殿達は森に近づけまいと……」

「ええ。今回持ってきた水は、別の土地に移るための旅の餞別だと」

「よく分かった。襲いはするが追い払う程度だったのはそういう事だったんだな。そちらの行動に納得が行ったよ」


 レティーナはそう言いながら、瞳を閉じてふうと長く息を吐く。

 気が重いのは当然だろう。

 このガルドラス島を開拓して生活を築いていくつもりが、それに値しない場所だと明らかにされてしまったのだから。


 例えるなら、いつ爆発するかも知れない前時代の不発弾が埋まっていたとでも言えばいいのだろうか。

 もしかしたら知らないままのほうが気持ち良く過ごせていたのかも知れない。

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