第42話 竜人達の来訪
バサッ。バサッ。バサッ。バサッ――
いくつもの翼が羽ばたく音と共に、竜人達が地上に降りていく。
その降りていく場所は、レティーナの村の広場だ。
そして彼等は中身の入った大きな水瓶を、いくつも持ってきてくれていた。
中身は森の中の泉の水だ。
「フゥ~。ここまで運ぶのは結構しんどいッスね」
「まぁ戦うよりはいいんじゃないっスか?」
「うん。平和が一番ッスからね」
「お前達、無駄口を叩くのもいいがしっかり運べよ! 落とすんじゃ無いぞ!」
「「「はいっ!」」」
とバールデルが指揮を執りながら、広場にいくつもの水瓶が並べられて行く。
言語プログラムの更新で言葉が理解できるようになってみると、竜人達というのは割と温和で、和気藹々としている。
ただし、言葉の分からないレティーナや村人達にとっては厳めしい竜の顔をした魔物がギャアギャアと声を上げているようにしか見えず、恐ろしさを感じてしまうだろう。
「お、おお……竜人が――」
「み、水を運んできてくれたのか!?」
「わ、ワシらのためにか……!?」
「おいじいさん、みんな! あんまり不用意に近付くなよ! ユーリが一緒でも何があるか分からねえんだからな!」
門番のウィルが皆に注意を呼び掛けている。門番としては当然の行為でもあるだろう。
しかしその中で真っ先に飛び出してくる人影がある。
心配そうな顔をしたレティーナだ。
「ユーリ! 無事か!? 怪我はしていないか? 何か酷い事はされなかったか?」
「レティーナさん! はい、僕は何ともありませんよ。こちらのバールデルさん達のご厚意でこの通り森の泉の水を分けて貰ってきましたので、皆さんで使って下さい」
「おおお……そうか、ありがとうユーリ! 本当にユーリはすごいなぁ」
レティーナそう感心した後、バールデルに向き直って丁寧に頭を下げる。
「それからバールデル殿と言ったか。水を持ってきて頂いて感謝する。私はレティーナ、この村の長だ。元々貴公等が暮らしていた島に、後から来て騒がしくして済まない。どうか許して頂きたい」
「ん……? うぅむ? 何と言っているのだユーリ?」
しかし残念ながらレティーナの人語はバールデル達には理解出来ないのである。
これまで村人達と竜人達が対立してしまっていたのも、この言語の壁があったからだ。
だが今は、お互いの言葉を通訳できるユーリがいる。
「はい! 僕がレティーナさんの言葉を通訳しますね!」
これはバールデルに向けて魔物語で。
「はい! 僕がバールデルさんの言葉を通訳しますね!」
これはレティーナに向けて人語で。
どちらもキラキラと顔を輝かせてユーリは言った。
憧れのマナ文明の中で、今まさに始まろうとしている異文化交流。
その記念すべき現場に立ち会えるなんて貴重すぎる経験だ。
この状況にロマンを感じるなと言う方が無理だろう。
「「う、嬉しそうだな……」」
レティーナとバールデルが、違う言語で同じ事を呟いていた。
◆◇◆
挨拶を終えると、とにかく落ち着いて話をしようと言う事でレティーナはバールデルや配下の竜人達を家へと招き入れた。
ユーリも気に入っている一階リビングの切り株の大テーブルを、ずらりと竜人達が囲んで座っている。
その輪の中にちょこんと混ざって座っていると、いつも穏やかな木の香りにもう少し青臭い草木の匂いが増しているような気がする。
これが竜人達が纏っている香りなのだろう。
「バールデルさん達のお宅は、こういう建造物ではないんですか?」
ユーリはそう問いかける。
匂いから推測すると、森の中の樹の間で寝ているとか、樹の間に設置したハンモックのようなものを使っているとか、そんな光景を想像する。
「うん? そんな事が気になるのか?」
「勿論です! むしろそういう事が気になるというか、僕は研究者ですから何かを知る事が一番楽しいんです!」
「お、おう……まあ勿体ぶる事でも無いが、俺達の住処は封印樹の中だ。あの中の空洞で寝泊まりしているのが家代わりだな」
「封印樹?」
「お前達にもどこからでも見えるだろう?」
「ああ! あの巨大な樹ですか!」
ユーリはぽんと手を打つ。
このガルドラス島のどこからでも姿を見られるような巨木が森の奥には存在している。
あれが何なのかは気になっていたが、そこがバールデル達竜人の住処になっていたようだ。
そして名前は封印樹であるらしい。
「という名前であるからには、何かを封印していると言う事ですね!? あんな巨大な樹を使って封印をするなんて一体何が……!? と言うか、そもそも樹で封印なんて全く非科学的で意味が分かりませんね! そういう荒唐無稽さが実にマナ文明です……! 話を聞いているだけでワクワクが止まりませんよ……!」
「う、うむ……? そんなにいいものではないがな」
バールデルが困惑している。
「ははは。すっかり打ち解けて楽しそうだなあユーリ。何を言っているかは全然分からないがな」
笑顔のレティーナがその場にやって来た。
手には飲み物を載せた木のトレイを携えている。
そしてその後ろからは、アークも付いて来ていた。
ボディから作業用のアームが伸びて、同じトレイを運んでいるのだ。
最近はこうして、レティーナの家事の手伝いをさせて貰う事もある。
「レティーナさん。あの森の奥の大きな木は封印樹と言って、バールデルさん達も内部に住んでいらっしゃるそうですよ」
「封印樹? あれだけの巨木が何も無いとは思っていなかったが、如何にも何かがありそうだな……」
少々表情を引き締めながら、レティーナは竜人達に飲み物を配って行く。
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