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銀河連邦学術士官ユーリ・フォイルの、剣と魔法のフィールドワーク  作者: ハヤケン


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第41話 炎を割る剣

「ユーリ、ユーリ。取材の申し込みの前にする事があると思うのですが?」


 ニコニコしているユーリの後ろから、アークがそう囁いた。


「あ……! そ、そうだよね!」


 レティーナの集落の皆がここから水を汲ませて貰えるように交渉するのが目的である。

 安定的な水の確保が出来ないという事は死活問題であり、人命に関わる事態だと言える。

 流石にそちらを放置はしておけない。

 ユーリは一度ぶるぶると頭を振って考えを切り替える。


「バールデルさん! 実は別にお願いがありまして!」

「他にもあるのか! 注文の多いヤツだ……! 聞くだけは聞いてやらんでもないが、その前に俺の願いを聞いて貰うとしようか!?」

「ええ、何なりと!」


 問答無用で話を聞いてくれないよりも、条件をつけてくれる方が余程いい。

 それを満たせばいいだけなのだから。


「俺を倒してみろ! このガルドラス島に身を潜めて幾星霜。お前ほど俺の戦士の血を沸き立ててくれた者はおらんっ!」

「ええぇっ!? そんな物騒な血よりも、平和でアカデミックな知的好奇心を沸き立てて頂きたいのですが……!?」


 バールデルは見た目は無骨だが思慮深く、決して話しの通じないタイプでは無いとユーリは見た。

 そんな相手とあえて戦いたいとは思えないのだが――

 何よりバールデルの存在自体の学術的価値が計り知れず、それを傷つけかねない行為は研究者として恐ろしい暴挙に思えてならない。


「論より証拠と言う事もある。お前の願いが何か知らんが、俺を制する程の強者の言葉でなければここにいる配下共も納得せんよ。それが戦士の流儀だ」

「う、うーん……確かにそういう事もあるかも知れませんね」


 やはりバールデルの思考自体は論理的であり説得力がある。

 確かにこのMS-1において人と竜人(ドラゴニュート)達は友好的な関係ではないようである。敵対する異種族同士においては、こちらの力を見せねば要求は通らないというのはその通りかも知れない。


「郷に入れば郷に従え、ですか――」

「そういう事だな!」

「仕方がありません……ならばお相手致します!」


 ユーリは地面に突き立てた高周波ブレードを抜き、構えを取る。


「ですが時間をかけてお互いに傷が深まるのは望みません。ここは一気に、お互いの秘技をぶつけ合って決着としませんか?」

「ふむ――?」

「バールデルさんが一撃で赤い大猿の魔物を仕留めたあの技……是非僕に受けさせて下さい!」


 ユーリが笑顔でそう言うと、バールデルは鋭い牙を剥いて迫力のある笑みを浮かべる。


「ほぉう。俺の煉獄炎哮(フレアブレス)を受けたいとはいい度胸だ、死んでも知らんぞ?」

「それを制してこそ、皆さんに認めて頂けるのかなと思います! さぁどうぞご遠慮なく! 僕も全力で当たらせて頂きますので!」

「よぅし男に二言はないな!? あ、いやひょっとして女か? すまんな、種族が違うものでな!」

「お気遣い無く! 男ですし、同じ種族同士でも間違われる事もありますから!」

「うむ、ならば行くぞ!」


 腰を落とし足を踏ん張り、力を溜める姿勢を取るバールデル。

 そこから口の中に紅蓮の輝きが生まれて、マグマの噴火のような凄まじい炎が放出されるのだが――

 輝きの生まれる前、バールデルが腰を落とした時点で既にマナ粒子が渦を巻くように口元に収束していくのが見える。

 これも『斬魔剣術プログラム』の効果だ。

 攻撃が臨界点を経て具現化される前に、マナ粒子の働きからその動きを察知する事が出来る。


「すごい量のマナ粒子だ。マナ粒子で見ると色々見え方が違うなあ……!」


 それでいて、粒子それぞれの動きは整然として一部の乱れもない。

 それだけ洗練された、即ち必殺技である。


「かあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」


 バールデルの口の中に紅い輝きが生まれるのが見える。

 煉獄炎哮(フレアブレス)の臨界は間近だ。

 その予兆をじっくりと観察しつつ、ユーリは高周波ブレードを構えたまま動かない。


「おいおいおい。あいつ動かねえッスよ!」

「親分のあれを真正面から受けられる訳ねえッス!」

「死んだッスね! 間違いなく!」


 バールデルの部下達がこちらを見て話し合っているのが耳に入る。

 しかしそれでもユーリはあえて動かない。逃げない。その瞬間を待つ。


「行くぞっ!」


 バールデルが大きく口を開く。


「……! 今だっ!」


 ユーリは真っ正面からバールデルに突っ込む。

 完全に煉獄炎哮(フレアブレス)の範囲内であり、その場の竜人(ドラゴニュート)達には自ら超火力の渦に飛び込んでいくようにしか見えない。

 攻撃を加えて煉獄炎哮(フレアブレス)の放出を止めるにしても、タイミング的に遅すぎる動き出しだった。


「遅いッ!」


 バールデルがそう声を上げるのも尤もだろう。


「いいえ、これでいいんです!」


 言いながらユーリが繰り出した高周波ブレードの切っ先も、バールデルに届きもしない間合いだった。

 しかし――


 ズゴオオオオオオオオオオォォォッ!


 バールデルの口から放出された紅蓮の炎は綺麗に左右に別れてユーリを避け、奥へと通り過ぎて行った。

 バールデルの真正面に立つユーリは、完全に無傷だった。


「な、何ィ……っ!? 俺の煉獄炎哮(フレアブレス)を!」


 目を見開いて驚くバールデル。


「お、親分の炎を切ったッスよあいつ!?」

「な、なんであんな真似が出来るッスか!?」

「どんな凄い盾や結界もブチ壊して来たのに……!」


 バールデルの配下の竜人(ドラゴニュート)達も驚いてざわついている。

 見た目には、ユーリの高周波ブレードがバールデルの煉獄炎哮(フレアブレス)を真っ二つに切り裂いたように見えるだろう。

 実際はバールデルの目の前に生まれた煉獄炎哮(フレアブレス)のマナ粒子の臨界点を高周波ブレードで斬ったからだ。

 臨界点を切り裂く事によって、マナ粒子が具現化する際の現象が歪み煉獄炎哮(フレアブレス)が割れたように見えたのだ。


 臨界点の発生が別の位置であればまた別の位置にブレードの斬撃を放つ事になり、全く別の様相になっただろう。

 ともあれこれが『斬魔剣術プログラム』の本来の機能――マナ粒子が生み出す超自然的現象の臨界点を事前に察知し、そこをマナ粒子の動きを乱すメテオチタン合金製の高周波ブレードで斬る事により、魔法やそれに類似する現象を妨害、無効化するものだ。


 つまり魔法を斬る――斬魔剣術という事である。

 その組み上げたプログラムが、想定通りの性能を発揮したという事だ。

 こんな事もあろうかと作成しておいて良かった。

 戦いは好きでは無いが、事前の備えがばっちり嵌まるのは研究者として鼻が高い。


 ぴたり。


 ユーリは驚愕しているバールデルの喉元に高周波ブレードの刃を突きつける。


「ぬぅっ……!?」

「いかがでしょう、これでこちらの話を聞いて頂けますか?」


 にっこりと笑顔を向けると、バールデルは大きな肩を震わせはじめる。


「ククク……はーっはっはっはっはっは! いやあ一本取られたぞ、アレを切り裂いて防いでしまうとはな! いいだろう聞いてやる、お前の願いを言ってみろ!」


 バールデルは豪快に笑い、そう申し出てくれた。

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