第40話 |竜人《ドラゴニュート》の長バールデル
「わ。凄いオーラが出てる! 所謂魔法の武器というやつですね。マナ粒子の動きはどうなってるのかなあ!」
マナ文明の中でも神器とか聖なる武器とか呼ばれているような、特別な代物だろう。
とても興味深い。マナ粒子の動きを観察したり、金属自体の物質構造を解析したりしてみたい。
「危険、危険! ユーリの生命維持を最優先に、緊急退避モードも検討――」
「いや大丈夫!」
勿論あの武器は興味深いが、竜人の首領の動きも『連邦上級剣闘プログラム』は捉えている。
いや今は『マナ粒子視認観測プログラム』と組み合わせてアークとユーリで協力して改修を加えた『斬魔剣術プログラム』が動作している。
『斬魔剣術プログラム』の動作確認の意味でも、これまでの所は上々だろう。
ゴアァァッ!
ユーリの頭上から落雷のような勢いで振り下ろされる斧の刃。
まともに受けては力負けは免れない。
ユーリは身を屈めるように斜め前に一歩を踏み出す。
斧の刃の軌道からギリギリ紙一重で身を躱す位置だ。
高周波ブレードの位置は、肩口に沿うように切っ先を下にして縦に。
振り下ろされる斧の刃とブレードの腹が擦れて、火花が散った。
これは斧の軌道の見切りを誤った時の、保険の盾代わり――ではない。
「ええぇぇいっ!」
身を屈めて溜めた体のバネで、目一杯に刀身の腹を押し込む。
それが斧の攻撃を空振りした直後の首領に触れて、姿勢を横に大きく崩した。
オォォォォッ!?
驚くような唸り声を上げながら、もんどり打って地面に墜落する竜人の首領。
まともに力比べをするのでは無く、相手の攻撃を見切り別ベクトルを加えて逸らす。
単に回避するよりも、回避後の相手の追撃を封じる事も出来て一石二鳥だ。
「うん、『斬魔剣術プログラム』もいい調子だね!」
今の回避しつつブレードで相手の姿勢を崩す動きは、首領の動きを視認してではなく首領が握る斧が発するマナ粒子を観測して反応した。
肉体では無くマナ粒子を見て反応したほうが、こちらの反応速度は速くなる。
とはいえ『マナ粒子視認観測プログラム』と『連邦上級剣闘プログラム』が独立した状態ではプログラム間のデータ転送の待ち時間が発生し、最終的なパフォーマンスは同じかマナ粒子での反応のほうが遅くなっていただろう。
そこをプログラムを『斬魔剣術プログラム』に統合する事により、理論的に最速の動きを実現し、あの早い攻撃にも反応出来た。
プログラム本来の目的とは違う効果だが、これはこれでいい事だ。
グオアアアアァァァァッ!
竜人の首領はすぐに飛び起き、再びユーリへと向かってくる。
地面に激突した影響など微塵も感じさせない動きだ。
何だか顔つきや声も、むしろ喜んでいそうな嬉しそうな雰囲気を感じる。
右斜めからの打ち下ろし、左斜めからもう一撃。
それをバックステップで紙一重で避けた所に、大きく踏み込んで横薙ぎの一閃。
ユーリは軽く真上に跳躍して、斧の軌道の紙一重上に身を運ぶ。
「やあぁぁっ!」
そして斧が足の真下を通り過ぎる瞬間、足を伸ばして斧の腹を足場にし、高く遠くに飛び上がる。
それにより一旦首領から大きく距離を取る。
「オオォッ!? 何と一枚の羽根のような身のこなし――見事なものだ!」
「ん……!? 声が聞こえる!?」
竜人の首領の言葉が理解出来るようになっていた。
「データ収集率100%! 更新プログラムをダウンロードしました!」
そのアークの声が耳に入る。
「ありがとう、アーク!」
ユーリはアークに笑顔を向ける。
もうこれ以上戦う理由はこちらにはない。
ユーリは高周波ブレードをその場に突き立て、大きく手を広げる。
「こんにちは! 僕はユーリ・フォイル、森を出た所にある集落にお世話になっている者です。よろしければ少しお話をさせて頂きたいのですが!」
その目はキラキラと何の敵意も感じられず、純粋でまるで子供のような眼差しである。
「うぬっ!? これは面妖な、人間の少年が我々の言葉を話すとは……!?」
竜人の首領はそんなユーリに驚いた様子だった。
大きな両刃の斧を片手で軽々振り上げた姿勢のまま、動きを止めてしまっている。
「先程までは皆さんの言語データを収集させて頂いていまして……何とかこうして お話しできるようになりました。お騒がせして申し訳ありません」
ユーリはぺこりと頭を下げる。
「言語でぇた? 我等と言葉を通じる魔法に必要な術式を練っていたというのか……!?」
「ああ、そんな感じで理解して頂けると助かります!」
向こうで考えて、納得のいく論理をつけようとしてくれる。
見た目は如何にも屈強な戦士で話が通じないタイプと思いきや、どうやらこの竜人の首領はレティーナと同じで思慮深い性格をしているのかも知れない。
「ユーリと言ったな。そのような真似をして来た人間はお前が初めてだ……! それに俺の攻撃をああも見事にいなしてみせる技量! さてはさぞかし名のある魔法剣士か……いや、もしや次代の勇者の可能性も――だとすれば魔王様もまた現れるという事か……」
「い、いえいえ僕はそんな大それた者では。ただの遭難者ですので」
そもそもこのMS-1の人間でもない自分がそんな風に勘違いさせてしまったのなら逆に申し訳ない。
「俺はバールデル……! かつては魔王様にお仕えした魔族四天王が一人ッ!」
「えぇっ!? 魔王っ!? 四天王!? す、凄いですね! その学術的価値は計り知れませんよ! 実は僕マナ文明の――いや考古学の研究者をしていまして! 是非とも色々とお話を聞かせて頂けると……! 取材源の秘匿は必ずさせて頂きますので……!」
ユーリは夢見るような瞳でバールデルににじり寄る。
マナ文明は所謂剣と魔法のファンタジーの世界。
その花形が勇者であり魔王でもある。
マナ粒子の偏りが生み出す、生物の個体差のムラの極地。二大巨頭だ。
ユーリにとってはこの宇宙で一番のアイドルだと言っていいだろう。
そんな存在の重臣であったバールデルもまた、とてつもない大スターだと言えるだろう。
それを目の前にして平静ではいられないのである。
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