第36話 宇宙船の状態確認
「……うわあ、どこも結構ボロボロだね」
ユーリは焼け焦げて真っ黒になっているエンジンルームを見てそう呟く。
この日も給水はアルカに任せて、森の中の宇宙船に戻ってきていた 。
アルカもアークも給水が出来る状態なら、必ずしも張り付いている必要はない。
一度本格的に宇宙船の損傷具合を見ておこうというわけだ。
「爆発しなかっただけ良かったまであるね、これは」
ここに来る前に通信機器部分や艦載兵器のフェイズキャノンの様子も見てきたが、どれもひどいものだった。
とても応急処置で直せるレベルではなく、パーツの取り替えや新調が必要になってくるだろう。
「ユーリ。ここまでの調査における故障部のリストです」
「あ、うん。ありがとうアーク」
アークが投影式ディスプレイで各種パーツの品目を表示してくれる。
「うーん機関部も通信部も艦載武装も、まんべんなく壊れてるよね。あ! いやでも……!」
「どうかしましたか? ユーリ」
「アーク! 逆に無事な構成部材のリストを出せる!?」
「了解。少し待ってください――高精度レーダー式照準器。マルチプルエネルギーブースター。反重力発生装置……なるほど、ユーリの意図を理解しました。船体各部の無事な部材を組み合わせて、機能のレストアが可能かどうかですね」
「うん、そうそう! で、どうかな?」
「可能と思われます。ただし、復旧可能なのは航行機能、超長距離通信機能、艦載武装のいずれか一つです。そして他の機能の部材を転用しますので、そちらはレストア不可能になります」
「じゃあどれか一つだけ選ぶとなると――航行機能を修復出来たとしても、MS-1の全天座標が分からないんじゃどこへ行けばいいのか分からないよね」
「同時に超長距離通信が可能になっても、銀河連邦所属組織へ連絡がつく可能性は未知数です。現在位置が通信可能圏内である保証はありません」
「そうだね。僕達の座標が分からないんだしね。やっぱり推測はつかない?」
「はい。夜間の天体データ収集は続けていますが、そこまでデータが増えません」
「そうだね。定点観測だしね。それなら長いスパンでデータを取らないと変化がないもんね」
「ユーリの言う通りです」
「フェイズキャノンなんか修復する意味はないし……」
宇宙船の艦載砲など、このMS-1に持ち込んでも何の意味もない。
「僕はフィールドワークをしに来たのであって、戦争をしに来たわけじゃないからね」
「いえ、そもそも遭難してここに来た事を忘れないで下さい」
「はははっ、それはそうだね。でも、現時点じゃ何をレストアするかは決められないかなあ。もう暫くはこのまま保留だね?」
「それを推奨します。早期に帰還したいのは山々ですが、不明瞭な点が多すぎます」
「うん。まだまだMS-1で研究したい事も調査したい事もあるからね。いきなり帰れるようになっても困るよ!」
「緊急時のメンタルヘルスは重要です。現状を肯定的に捉えられるのは良い事かと」
「取り合えずどれか一つはレストア出来そうなのが分かって良かったかな。じゃあ村に戻ろうか」
「了解」
ユーリは宇宙船の外に出て、アークのフライトボードへと乗り込んだ。
「水場には近付かないように、慎重にね」
前回は森の中にある泉に近付くと襲われたので、それは避けようと思う。
「ユーリ、高度はどうしますか? やはり低空を?」
「いや、逆に一気に高く飛び上がろうか。その方が見つかっても逃げやすいかも」
「了解。では」
アークは一気に高度を上げて、ガルドラス島の全景が見渡せるくらいに視界が開けた。
森に視線を下ろすとやはり、奥に鎮座している他とは比較にならない程大きな大樹が気になる。恐らく百メートル近くはある巨木だ。
一体樹齢何年経てばあそこまで大きくなるのか分からない。
「やっぱり凄いなあ、あの木。何なんだろうね? あれ」
この島のランドマーク、象徴だろうことは分かる 。
ただ竜人 達が守る森の奥にあるので、レティーナ達も何も分からないらしい。
「改めて見るとマナ粒子の動きも明らかに自然のものじゃないよね」
『マナ粒子視認観測プログラム』ではマナ粒子が光の粒として視界に映るのだが、自然に遊離しているマナ粒子はごく弱い輝きでほんのりと光りながらふわふわと大気中を漂っているものだ。
しかしあの巨木の周囲にはマナ粒子が強い輝きを発しながら渦を巻くように収束しており、また魔法が発動する際の臨界点が現れては消え、現れては消えとしているように見える。
「ユーリの言う通り、魔法の臨界点が明滅しているように見えます」
「って事は何らかの魔法の効果がかかり続けてるって事なのかな? それが竜人の皆さんの行動と関係してるとか?」
「現状では何とも言えません。情報が少な過ぎます」
「このガルドラス島だけでも、分からない事や気になる事が一杯だね! これはまだまだ帰ってる場合じゃないよ!」
ユーリはキラキラした瞳で大樹を見つめていた。
「……それよりも見つかってはいけません。村へ急ぎます」
「あ、そうだね。アルカに水の事を任せちゃってるから、様子を見に行かないと」
「では井戸の近くに着陸を」
「うん、お願いね」
そしてユーリが村の井戸の近くに降り立つと、そこには人だかりが出来ていた。
「だ、大丈夫か!?」
「ここの所働きづめだったから――」
「と、とにかく姫様に……!」
慌てている様子の村人達にユーリは声をかける。
「皆さんどうかしましたか?」
「あ、ユーリちゃん! アルカちゃんが大変なんだよ!」
ナディアおばさんがそう声を上げる。
「アルカが……!?」
村人達の輪の中心には、青ざめた顔色で気を失ったアルカの姿があった。
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