第35話 視線の先には?
「ははは……休んでないよねそれ」
アルカにもレティーナと同じ事を言われた。
「それで今度は何の研究をしているの?」
「うん。ええと、そうだなあ」
今回の研究テーマは、ユーリ自身が体内インプラントにインストールして使う動作プログラムの開発だった。
プログラムの概念や体内インプラントだとかの説明はあまりに複雑怪奇になってしまうだろうから省くとして、一言で説明すると――
「僕用の剣技の開発、かな?」
「剣技?」
「うん! 魔法を斬るんだよ!」
魔法はその発動前にマナ粒子の動きは始まっており、臨界点が生成されて実際の現象へと変換される。
その動きを視認出来る『マナ粒子視認観測プログラム』と、マナ粒子の動きをジャミングする特性を持ったメテオチタン合金製の高周波ブレード、それに高度な剣捌きでブレードを取り扱う『連邦上級剣闘プログラム』。
それらを合わせれば、今言ったような魔法を斬るという技術の実現が可能では無いか?
それがユーリの閃きだった。
今はその閃きを具現化する新しい動作プログラムの開発中なのである。
名付けて『斬魔剣術プログラム』といったところだ。
「魔法を……!? そんな事が出来るの!?」
「うん、理論上はね。完成したらまた見せるね」
にっこり笑って、ユーリはそう答えた。
「ユーリくんは凄いなあ。次から次へ、わたしの想像もしていないような事が起きるよ」
「いや、僕とアークだけの力じゃないよ。レティーナさんやアルカと一緒に魔法研究した成果があってこそだから」
アルカ用の呪文を生み出す過程で得た魔法発動のプロセスの知識や、偶然だったがユーリの高周波ブレードの特性に気づけた事、それらの要因の積み重ねだ。
「そう……わたしも役に立ってるんだったら嬉しいな。でも魔法を斬るんだったら、もしわたしとユーリくんが戦ったらわたしは全然敵わないって事だね」
「僕とアルカが? 戦う事なんてないと思うけどね?」
ユーリは目を擦りながらそう答える。
暖まってきた体がいよいよ眠気を本格的に誘って、瞼が重くなってきた。
「うん、ないと思うけどね。でもユーリくんはわたしなんかじゃ敵わないくらいのほうがいいって言うか……そのほうが格好いいと言うか……」
「…………」
「あ、ごめんね変な事言って! ユーリくんは今のままでも十分――」
「…………」
しかしそれにもユーリは返事を返さなかった。
正確には返せなかった。
「ユーリくん? ユーリくん、どうしたの? あ……?」
アルカが意を決してユーリのほうを振り向くと、ユーリは浴槽の縁から上半身を乗り出した姿勢ですやすやと寝息を立てていた。
「ね、寝ちゃったの?」
「体温上昇と血行促進により急激な眠気を催したようです」
アークがユーリの状態を解説する。
「ふふ……気持ち良かったって事なのかな?」
ユーリの寝顔がとても幸せそうなので、アルカも思わず笑顔になってしまう。
「その通りかと推測します」
「じゃあ頑張って良かったです。ふふふっ」
男の子なのになんて綺麗な寝顔だろう、とアルカは思う。
この顔が見られたのはきっと頑張ったご褒美だろう。
「とはいえこのままにしておくわけには行きません。アルカ様、ユーリを運ぶお手伝いを願えますか? ユーリは一度眠ると中々目覚めませんので」
「あ、はい。そうですね、分かりました!」
「ではこちらにユーリを乗せて頂けると……」
と、フライトボード型に変形したアークが言う。
「はい、うんしょ、うーん……!」
アルカはアークのボディから伸びるアームにも手伝って貰って、ユーリの体をお湯から引き上げる。
当然お湯に浸かっていたユーリの体は一糸纏わぬ姿なわけで――
「…………」
「下腹部への視線の集中を確認」
「っ!?」
アルカの表情が一瞬にして火が出るように真っ赤になる。
「アルカ様、あまり一点を見つめると足元を取られて――」
「ち、ちちち違うんです! これはその……きゃあっ!?」
ばしゃん!
バランスを崩したアルカがお湯の中に落ちてしまう。
「大丈夫ですか、アルカ様!?」
「は、はいごめんなさい! だ、大丈夫です……!」
アルカは慌ててお湯から出ようとするが、それをアークが静止する。
「いえ、そのままで。そのまま外に出て活動すれば、湯冷めが体調不良を引き起こしかねません。ユーリを送り届けた後に、レティーナ様から着替えを受け取って来ますので少々お待ちください」
「わ、分かりました。ごめんなさい……」
アークはフライトボードにユーリを乗せ、その上にユーリの服を被せてレティーナの家へと運んで行った。
「ううぅ……わたし……恥ずかしいよぉ」
アルカは赤い顔のままお湯の中で膝を抱え、それを見送るのみである。
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