第34話 アルカのお礼
そして数日が経った日の昼下がり――
ユーリは一階リビングの切り株の大テーブルで作業していた。
アルカが魔法を使えるようになる前と全く同じ光景である。
「ユーリ。まだアルカの魔法を研究しているのか? 何か問題でも?」
洗濯物を両手に抱えたレティーナが通りかかり、きょとんと首を捻る。
「いえ、これはまた違うテーマの研究なんです。アルカには何の問題もありませんよ。今日は一人で水の配給をするって言って、僕もアークも休ませて貰っていますし」
アルカの魔法が使えるようになったのでユーリ達とアルカが協力して水の供給を行っていたのだが、今日は自分がやるから休んで欲しいとアルカが言い出したのだ。
休みをプレゼントしてくれて、ユーリとしては嬉しい限りだ。
「いや、それは休んでいるのか?」
「はい! 僕は元々研究者なんです、休日は好きな事を研究するのが一番ですよ!」
ユーリはニコニコとしながら答える。
「ははは……そうか、まあ確かにとても楽しそうだな」
「今日はアルカのおかげで休ませて貰っているので、とても捗りました! もう少しで仕上がりそうです! あ、手伝いますね」
と、ユーリは立ち上がってレティーナの洗濯物を半分受け取ろうとする。
「いや、せっかくアルカがユーリ達を休ませているのに私が使うわけにはいかん。続けていてくれ、後で差し入れを持ってくるから」
レティーナは微笑みながらそう言ってくれる。
「ありがとうございます」
そんな風に穏やかな研究の一日は過ぎていき、もう日も暮れた夕食時――
「ユーリ、アルカは帰って来たか?」
「いえ、見ていませんね? 研究のほうも一段落付きましたし、僕が様子を見てきますね」
「頼むユーリ。もう少しで夕食も出来るからな」
というわけでユーリがレティーナの家を出て村の井戸のある方に向かっていると、向こうから小走りにやって来るアルカの姿があった。
「あ、ユーリくん! 今呼びに行こうと思ってたの!」
「アルカ。どうかしたの? レティーナさんが心配してたよ?」
「あ、うん。大丈夫だよ、水はちゃんと配れたけどその後でやりたい事があって」
「やりたい事?」
「そう! だから見に来てくれる? ユーリくんに見て貰いたくて!」
アルカは嬉しそうにユーリの手を引っ張る。
「うん。勿論だよ」
アルカがそんな風に言うなんて、何があるのだろう。
楽しみにしつつアルカに付いて行くと――
「ほら、あれだよ!」
アルカが指差すのは、井戸の近くに作られた石のサークルのような場所だった。
遠目に見ても、そこからもうもうと湯気が上がっているのが分かる。
「湯気? じゃあ中にお湯が入ってるの?」
「うん! 露天風呂だよ!」
確かにアルカの言う通り、近付いてみると石で作られた湯船の中になみなみとお湯が満たされた岩風呂が完成していた。
「うわぁ! これを魔法で造ったの!?」
「うん。魔法で穴を掘った所に岩礫を出して敷き詰めて、そこに氷を出して炎の魔法で溶かしてお湯にしたの! 石を敷き詰めるのはウィルさん達にも手伝って貰ったけど」
「凄いや! アルカは色んな魔法が使えるから、こういう事も出来るんだね!」
穴を掘る魔法、岩を出す魔法、氷を出す魔法、お湯にする炎の魔法。
少なくとも四種類の魔法を組み合わせて出来上がった大工事だ。
「ユーリくんのおかげでこんな事が出来るようになったから、最初はユーリくんに入って欲しくて! 入ってくれる?」
「うん、勿論だよ。ありがとう! 僕こんなのはじめてだから、凄く楽しみだよ!」
銀河連邦人には入浴の習慣は無く、基本的にシャワーだ。
何ならシャワーすらボディケアマシンがあれば不要であり、ベッドに一体型のボディケアマシンがあればシャワールームすら必要ない。
勿論身体を清潔に保つ事は必要だが、寝ている間にそう言った諸々のケアは済ませて時間を別の事に使おうという方向性に発展してきた結果だ。
「よし! じゃあ早速!」
ユーリは自分の服に手をかける。
今目の前にある光景は、ユーリにとってとてもアナログで魅惑的な光景である。
それがマナ文明のロマンである魔法で生み出されたものであれば尚更だ。
「ま、待ってユーリくん! わ、わたしは向こうに行くから、その後で服は脱いでね……!」
既に上半身裸になっているユーリを見て、アルカが顔を真っ赤にしている。
もう少しで下まで脱いで下着のみになる所だった。
「ああ、うん。そうだね、ごめんね凄く楽しみだったから」
アルカの姿が露天風呂の近くの木陰に隠れてから、ユーリは服を全部脱いでお湯の中に浸かった。
「うわぁ! 凄く気持ちいいや!」
全身を包んでくれるお湯の肌触りと暖かさ。
ユーリ一人では到底埋まらず、他に十人以上は入れてしまいそうな岩の浴槽の開放感。
そして見上げると満天の星空。
これは極上の心地良さだ。入浴とは身体を清潔に保つために行うために行うものだが、単なるヘルスケアでは片付けられない魅力があるような気がする。
「ユーリくん、お湯加減はどう?」
アルカがお風呂の脇までやって来てそう尋ねてくる。
ただしユーリの方を直接は見ずに、背中合わせのような形である。
「うん、凄くいいよ! 大きなお風呂ってこんなに気持ちいいんだね、体がぽかぽかしてきて、こんな感じ始めてかも。ありがとう、アルカ!」
「良かった、喜んで貰えて。何かわたしが出来るお礼をしたかったから」
「そんな、気にしなくてもいいのに。今日休ませて貰っただけでも十分だよ。無理してない?」
「ううん、全然大丈夫! 今までマナが一杯あるのに使わずにいたんだから、まだまだ有り余ってるよ? ユーリくんはちゃんと今日は休めた?」
「うん。おかげで凄く研究が捗ったよ!」
結構根を詰めていたので、アルカの用意してくれたこの露天風呂は体に効く感じがする。
体がぽかぽかして、その心地良さがどことなく眠気を誘うような、そんな感じだ。
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