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銀河連邦学術士官ユーリ・フォイルの、剣と魔法のフィールドワーク  作者: ハヤケン


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第31話 閃きは、考えていない時にやって来る

「そのまま動いてはいけないぞ、ユーリ。手元が狂ってしまうからな」

「ええ、分かりました」


 レティーナの耳かきがユーリの耳の中をごそごそとまさぐり始める。


「あはははっ。くすぐったいですレティーナさん」

「ほら、動いてはいけないぞ? だけどあまり汚れてはいないな。さすがユーリはどこを見ても綺麗だ」


 何が流石かは分からないが、ボディケアマシンのおかげだろう。

 だが暫く宇宙船にも帰っておらずマシンを使えていないので、段々とそれも維持出来なくなってくるのではないだろうか。


「はい、こちら側は終わりだな」


 そう言いながら、レティーナがユーリの耳元にふっと息を吹きかける。


「ひゃあっ!?」


 驚いてユーリは思わずレティーナを見上げる。

 ユーリの姿勢からは大きな胸の膨らみの向こうにレティーナの顔が見え、悪戯っぽい表情でこちらを見下ろしていた。


「ふふっ、仕上げにはこうしておかないとな?」

「もう。ホントにくすぐったいですよ、レティーナさん」


 ユーリは少々恨みがましい表情を浮かべる。


「そんなに恨めしそうな顔をしないでくれ、悪かったから。さ、次は逆だぞ? 向きを変えて――」


 逆側の耳掃除をしながら、レティーナはユーリの耳元に囁く。


「もう慣れてきたか、ユーリ? くすぐったくないか?」

「はい、何だか気持ちいいですね」

「お? そうか、気に入ってくれたか?」

「ええ。それにこうしていると落ち着く気がすると言うか」


 こういう雰囲気や空気感をどう表現するのかは難しいのだが――


「僕にお母さんがいたら、こういう風にして貰う事もあったのかなぁ」

「おかっ!? い、いやそこは別の言い方がだな。ほら、恋人とか、妻とか……」

「? 僕何か変な事を言いましたか?」

「い、いや……それより、ユーリはお母さんがいないのか?」

「ええ。両親共に僕が小さな頃に行方不明だそうです。生まれたばかりの僕に託してくれたのがこのアークで」


 アークのボディは基本的に球体に近い形だが、微妙に角を模したような突起や二つの目のようなセンサーアイがあるデザインになっている。

 このモチーフはマナ文明における最強生物――すなわちドラゴンだ。


「アークはドラゴンをモチーフにしているんです。でも僕らの住んでいる所にドラゴンはいませんし魔法もありません。だからこちらの事に興味があって」

「なるほど。だからユーリはいつも楽しそうなんだな」

「ええ。子供の頃からの憧れですから」


 と話していてふと思い出す。


「そう言えば子供の頃と言えば……レティーナさん、確かアルカは子供の頃は魔法が使えていたと言っていましたよね? その時の様子ってどうだったんですか?」

「ん? 本当に小さい頃だぞ。アルカ自身も忘れているかもしれんくらいだ。3、4歳くらいかな? あの時のアルカはまだムラハン訛りが残っていてな。正しく呪文が言えていなかったが魔法が使えていたんだ」

「ムラハン……?」

「大陸の西の方の地域だよ。リューシュに越して来るまでのアルカはそちらに住んでいたそうだ」

「なるほど、方言ですか」

「ああ。あれを見て将来は凄い魔法使いになると確信したから、とても良く覚えている。実を言うとあの時は私も魔法使いになりたかったのだが、アルカを見てとても敵わないと思って剣の練習も始めたんだ」

「そんな事があったんですね」


 これはとても重要な情報かも知れない。

 呪文とはマナ粒子の制御コードだ。制御コードによって操られたマナ粒子が魔法に即した動きをする事によって臨界点が生成され実際の現象が顕現する。

 しかしその制御コード自体はこのMS-1の先人達が体験的に積み上げてきた言わば経験則だ。

 経験則はつまり一般論でもある。

 一般論はそれに当て嵌まらないマイノリティは切り捨てるもの。

 個々人の事情までは考慮されていない。

 子供のアルカのムラハンなる方言混じりの詠唱で魔法が発動していたと言うなら、アルカにとって最適な呪文というのは――


「うんそうだ! きっと!」


 ユーリは勢いよく身を起こそうとする。


「わっ! ユーリ、急に……!?」


 驚いたレティーナがバランスを崩して倒れてしまう。


「あ、すいませ――!」


 ユーリも一緒にバランスを崩し、結果的にユーリがレティーナを押し倒すような形になってしまった。

 レティーナの凜と整った顔立ちが目の前だ。

 息遣いが聞こえてくるくらいに。


「ユーリ……そうか、お母さんなんて言っていたのは照れ隠しなんだな。わ、私は構わないぞ……私にも責任があるしな――」


 レティーナは少し顔を赤らめながら、そっと目を閉じる。

 しかしユーリはすぐに体ごとレティーナから逸らして、アークの方に向いていた。


「アーク、アーク! オーダー変更、単語を言い換えるんじゃ無くて元の言葉をムラハン訛りって言われる形態に変更してみよう!」

「了解。先程の証言からその方が可能性が高いと推測します」

「レティーナさん、ありがとうございます! 上手く行くかも知れませんよ! 早速ムラハン訛りについて具体的に教えて頂けますか!?」


 ユーリはニコニコとレティーナに笑顔を向ける。


「あ、ゴホン。いや……そ、そうか。分かった」


 レティーナは何故か、ばつが悪そうにそう言うのだった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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