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銀河連邦学術士官ユーリ・フォイルの、剣と魔法のフィールドワーク  作者: ハヤケン


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30/45

第30話 耳かきというヘルスケアがあるらしい

 そして更に何日かが過ぎた夜遅く――

 ユーリはレティーナの部屋の一階にいた。

 一階にはレティーナが食事を振る舞ってくれたダイニングに加えて、大きな赤い絨毯が敷かれたリビングがある。

 その中心には大きな木の切り株を利用したテーブルが置いてあり、多人数が集まれるようになっていた。

 切り株のテーブルは背が低く、絨毯に直接座って利用する形だ。

 この絨毯の手触り肌触りがとても良く、切り株の大テーブルの木の匂いも気に入っているため、ユーリは二階の自分の部屋よりもこちらで作業をする事が多かった。


「うーん。アルカが契約してた全ての魔法と、この魔道書に載っている魔法も合わせて48種類……全部臨界点のマナ粒子が生成されずに、魔法が発動しない現象は共通」


 アークが蓄積したデータと、アルカの古文書とを見比べて睨めっこしているのだ。

 アークはボディから投影式のキーボードとモニターを出力し、ユーリの作業をサポートしている。


「それぞれの魔法行使時におけるマナ粒子の運動パターンの差分は――」

「コンマ0.01以下。有意差は認められません」

「レティーナさんに採らせて貰った他の魔法のデータと、アルカの場合のマナ粒子の差分は……」

「全て誤差25.1%から25.5%圏内」

「レティーナさんの魔法の時のマナ粒子の動きを理想パターンとすると、そこから全て安定的に25%ズレてるんだね」


 そして25%も動きがズレると、魔法が魔法として成り立たないと。


「しかし全部綺麗にずれてるなあ。48種類もあれば、何かしらアルカのマナ粒子の運動に合致する魔法がありそうなのに」

「これだけ共通していると、逆にマナ粒子の性質は非常に安定していると言えます」

「うん。アルカのマナ粒子自体にはきっと問題がないんだよ。だからズレも安定するんだ」

「となると問題は――」

「制御コード。つまり呪文だね」

「私もユーリと同意見です」

「だけどどこをどう変えるかって事になってくるね」


 呪文はマナ粒子の制御コード。一言一句に意味がある。

 どこかの1フレーズを変えれば、出来上がる魔法は変わってくる。

 そもそも魔法として発動する代物になるかすら分からない。


「そうなってくると安定してズレてるっていうのはまた厄介だね」


 ズレにムラや揺らぎのようなものがあれば、より臨界まで近い単語は何かを推測出来るのだが、現状どの呪文に対するズレも同じなので推測の立てようがない。


「意味を別の単語で言い換えていくパターンを作ろうか。どこか1つずつ変えて行って、それを明日からアルカに試して貰おう」

「了解。ではパターンをリストアップします」

「うん。お願い」


 そうしてアークのテスト用呪文詠唱データの出力を待っていると――


「ユーリ? まだ眠っていなかったのか?」


 レティーナが姿を見せて、ユーリに声をかけて来る。


「あ、レティーナさん。済みません五月蠅かったですか?」

「いや、そんな事はないが……まだ何か調べているのか?」

「はい。明日アルカに試して貰う改造版の呪文を考えていたんです」

「そうか。アルカのために済まないな、ユーリ。いつもありがとう」

「いえいえ! 僕もやりたくてやっている事ですから。ただ、アルカをぬか喜びさせてはいけませんから、しっかり結果は出さないといけません」


 と、ユーリは少々表情を引き締める。


「ユーリは本当にいい子だ」


 レティーナはそう言って微笑んだ。こちらを見る瞳がとても優しい。


「そうだお腹が空いていないか? 飲み物は? 何か持ってこようか?」

「ありがとうございます、でも大丈夫ですよ」

「では、私も見学させて貰おうか。構わないか?」

「ええ構いませんよ」


 ユーリがそう言うと、レティーナはユーリの側にすっと座る。

 するとふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。

 レティーナは側にいて心地の良い、いい匂いがする。

 銀河連邦人は人と人との距離が遠いから、こうしてすぐ側に人がいるシチュエーションも あまりない。

 人がその人固有の香りを持っているという事をはじめて意識したかも知れない。


「これは今、何をやっているんだ?」


 レティーナは投影式ディスプレイの画面を指差す。


「実はアークに呪文の候補を作って貰っている最中で、僕はそれを待っているだけですね。だから休憩中です」

「そうか。だったら横になって休憩でもしたらどうだ? ほら、ここに……」


 と、レティーナは絨毯にぺたんと座った自分の太腿のあたりをぽんぽんと撫でる。


「?」

「私が膝枕をしてあげよう。それから、な」


 と、細い木の棒のようなものを取り出す。

 その先には小さなスプーンのようなパーツがついていた。


「それは何ですか?」

「知らないのか? これで耳掃除をするんだ」


 レティーナが木の棒をちょいちょい、と掻くように動かす。


「へぇ! そういうものがあるんですね、知りませんでした」


 耳を含めた全身の洗浄はボディケア用のマシンが全て行ってくれる。

 大体のシャワールームに設置されている一般的なものだ。

 こういうアナログなヘルスケア用品は、逆にユーリは見た事が無い。

 マナ文明とは関係がないものではあるが、こういうアナログな物品も新鮮だ。


「ユーリは何でも好奇心旺盛だから、体験してみたいだろう? ほら、どうぞ」

「はい! では失礼します」


 ユーリはレティーナの太腿に頭を預けて寝転がった。

 枕代わりにしたレティーナの太腿の感触はふんわりと柔らかく、優しい温もりを感じる。

 先程からの彼女の良い香りもより強く感じられた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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