第29話 アルカの魔法も解析して見よう
「そうだな。普通は人それぞれ得意な系統があるものだ」
「俺だったら一応風の魔法かな。俺は姫様ほど魔法が上手くないけどさ」
ウィルが補足してくれる。
「大体は一人一系統という感じだな。照明の魔法は簡単だから皆使えるが」
「なるほど。魔法を使うには体内に蓄積したマナ粒子を使うから、声紋や指紋のように人それぞれに特徴があるわけですね」
その特徴が魔法との相性になってくるというわけだ。
個人個人のマナ粒子自体の詳細分析も必要になってくるかも知れない。
「アルカは様々な系統の魔法を契約出来ていてな。その数多さは宮廷魔術師のアルカのお祖父さんを上回る程だったんだ」
「不思議ですね。アルカ、とにかく一度魔法の詠唱をする所を見せて貰ってもいい?」
「うん、分かった」
と頷くアルカはレティーナと同じように呪文を唱える。
「天より堕ちし紅蓮の炎よ……我が意に従いその姿を顕現せよ――」
詠唱を開始したアルカを『マナ粒子視認観測プログラム』で見ていると、その体からマナ粒子が放出されているのが見える。
「……! マナ粒子は動いてるね」
全く反応しないのかと思ったが、そんな事はなく元気がいい。
粒子の動きの勢いはレティーナに決して引けを取らない。
ただ、レティーナのマナ粒子に比べると動きの軌道に乱れがあるだろうか。
大まかな動きは似ており。上空3、4メートルのところに球状にマナ粒子が収束していくのだが、やや歪な歪んだような形だ。
アルカの綺麗な声と滑らかな呪文の詠唱の印象とは裏腹に、レティーナの魔法を見た後だとかなりマナ粒子の動きが雑然としている。
「我は汝に、焦土と哀れな贄を捧げんっ!」
そして詠唱が終わると同時に――
マナ粒子は特に何事も起こす事はなく、その場から散ってアルカの体に戻っていった。
「! マナ粒子が戻っていくね……!」
「こちらでも確認しました、ユーリ」
何も起きなかったが完全に何も起きないわけでは無くマナ粒子は運動している事は分かった。多少歪だがそれらしい動きをしている。
「はぁ。やっぱりダメだなぁ、何も起きない……」
アルカはため息をついて肩を落としている。
「いや、でも凄く参考になったよ! それに何も起きてないわけじゃ無いし!」
「?」
アルカがきょとんと首を捻っている所を見ると、マナ粒子の細かい動きは魔法を使っている本人達にも把握出来ていないらしい。
「魔法が具現化せずにマナ粒子が散ってしまったのは何でだろう? レティーナさんの場合と比べると、最後のキラッと光るのが無かったね?」
レティーナの魔法が発動する寸前には、何かマナ粒子が大きな輝きを発していた。
あれが発動の中心点、マナ粒子が実際の現象として具現化する臨界点とでも言えば良いのだろうか?
「レティーナさん。レティーナさんの魔法が発動する前に上の方でキラッと輝いていたのは何ですか? 魔法が発動する予兆のようにも見えましたけど……」
「ん? いやそんなものは私は知らないが……?」
これも首を捻られてしまう。
マナ粒子の出力が強くなって、観測プログラムが強い光のように見せていただけなのかも知れない。
「じゃあアーク、さっきのレティーナさんの魔法の映像をキャプチャ付きで出してくれる?」
「了解」
と、アークがレティーナが魔法を放つシーンをホログラフィのように再生する。
「! これは先程の私か?」
「はい、アークが記録したものです」
「すごい、こんな事も出来るんだ」
「ああ。こんな魔法は聞いた事が無いが、本当にギンガ連邦という国は進んでいるな」
まずその時点で驚かれてしまう。
確かに録画や再生の機能自体がレティーナ達にとってみれば未知の技術だろう。
しかし見て貰いたい本題はそこではない。
「これを見て下さい。詠唱を開始したレティーナさんの体からマナ粒子が放出されています」
「こんなものは私には見えなかったんだが……?」
「レティーナさん達が言うマナを可視化したものだと思って貰えればいいと思います」
「私達が何となく感じているものを見えるように、か。こんな事まで……」
「それでこの最後の所。発動直前に一点だけ一際強く光るんですが、ほら、ここですね。何か心当たりはありますか?」
「いや分からないな。済まないユーリ」
レティーナは首を横に振る。
レティーナ達は細かくマナ粒子を視認出来ているわけではないようなので、特に意識しなくとも魔法の行使には問題ないと言う事なのだろう。
それを科学的に分析すると、こういうマナ粒子の動きになっているというだけだ。
「そうですか。アルカの場合はこれが無くて魔法が発動していないように見えるんですが」
とはいえその違いを説明しても意味はなく、戸惑わせてしまうだけかも知れない。
そもそもあの魔法の臨界のサインについて、レティーナ達も何も分からないのだから。
「再生モード終了しますか?」
アークの論理思考回路もそう結論づけたのだろう。
しかしユーリは首を振る。
「いや、アーク。アルカが魔法を唱えるシーンも出して」
「了解しました」
そして再生されるアルカの姿。
魔法の詠唱が始まるとやや歪な動きながらも、マナ粒子はアルカの体から飛び出して活発に動き回り始める。
「あ! わたしが魔法を詠唱してもマナの光は出てるんだ!」
それを見たアルカの感想である。
結構驚いた様子である。もっと箸にも棒にも棒にも引っかからないような状況を想定していたに違いない。
「そうだよ。レティーナさんの 時と比べると動きは荒いけど、全く何も起きてないって訳じゃないんだ。マナ粒子はちゃんと運動してる。けど、最後魔法が発動する時の臨界点のようなものが形成されていないんだ」
「う、うん……! そうだね、光の粒が姫様の時と近い動きをしてるね」
「見た目には何もなかったように感じてたかも知れないけど、実は結構惜しい所だったと思うんだ。きっとほんの僅かな切っ掛けでアルカは魔法が使えるようになるよ」
「ユーリくん……そ、そうなのかな?」
「きっとそうだよ! だから、気を落とさずに頑張ろうね?」
ユーリはにこりと微笑みかける。
「はい! がんばります!」
アルカは元気を取り戻した表情で頷いてくれる。
アルカの魔法詠唱のシーンは問題解決には繋がらないかも知れないが、彼女のモチベーションを高める効果はある。
そう思ってアークに再生して貰ったが、効果はあったようだ。
「よし、じゃあアルカの知っている魔法を全部試してみようか! 何かもっと分かる事があるかも知れないから」
「ぜ、全部!? け、結構あるけど……!? きっと退屈だよ、大丈夫?」
「大丈夫だよ、総当たりは研究の基本だからね。細かなデータの違いを見比べるのが楽しいんだよ!」
ユーリは目をキラキラと輝かせて断言する。
しかもその対象が憧れのマナ文明の最大のロマンとも言える魔法だ。
これを生で見て研究出来る機会を得られるなんて、研究者冥利に尽きるではないか。
「は、はははは。そのユーリくんの気持ちはちょっと分からないけど……」
アルカは何故だか苦笑をしていた。
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