第28話 レティーナの魔法を解析して見よう
「見える見える! リアルタイムに見れるのは面白いね! ウィルさん、ウィルさんも同じ魔法を使ってみて貰えますか?」
「おう、いいぜ!」
ウィルも照明の魔法をぽんぽんと何度か連打してくれる。
色はノーマルの白色光。
だがその表の情報より、プログラムによって見えるようになったマナ粒子の動きだ。
見比べてみると、明らかにアルカの体内から放たれるマナ粒子のほうが粒が大きい。
粒子一つ一つの運動の勢いも強くて、動きの軌跡も複雑だ。
「ああ、なるほどアークの言うとおりだね!」
この魔法は基本的に体内から放出されたマナ粒子が照明の縁を象るように螺旋を描いて、そして照明の光が具現化するようだ。
照明の縁を象る螺旋の動きはアルカもウィルも共通している。
が、ウィルの場合はマナ粒子が螺旋軌道を真っ直ぐ進んでいく素直な動きなのに対し、アルカの場合は大枠の螺旋軌道には乗りながら細かな縦回転や横回転を挟んで動きが複雑である。
「なるほど大枠の動きに更に細かい縦運動で赤になって、横運動だと青になるのかな? レティーナさん。レティーナさんも赤い色の照明をお願いできますか?」
「分かった。行くぞ、それっ!」
レティーナが赤い色の照明を放つ。
そのマナ粒子の粒の大きさや運動の速さはウィルとアルカの中間くらいだろうか。
大枠の螺旋の動きの中に、細かい縦運動の動きが挟まれていた。
「あ、やっぱりこの縦運動が赤い色の秘訣なんだね。なるほどなるほど――」
ユーリは納得して何度もうんうんと頷く。
「つまり魔法っていうのはマナ粒子に特定の運動パターンを行わせる事によって、超自然的現象に変換する特殊技術っていう事になるね」
超自然的現象という言葉が正しいのかどうかは少々議論の余地があるかも知れない。
銀河連邦人から見れば間違いなくそう言えるが、MS-1をはじめとするマナ文明の人々にとってはマナ粒子が存在する環境こそが自然であって、自然にあるものを利用する技術である魔法もまた自然のものになるだろう。
「でもこんな事が出来るなんて本当に凄いなぁ。僕も出来るようにならないかなぁ」
やはり魔法はマナ文明最大のロマンだ。
「ユーリの『体内マナ粒子濃度』は0%です。魔法の行使は不可能」
「そうだよねえ。うーん、僕も『体内マナ粒子濃度』を上げられないかなあ」
「それは危険です。非推奨行為」
「うーん……僕にとってはそうかもね」
そもそも現在の銀河連邦人にとってマナ粒子は有害であり、長くマナ粒子の中にいると中毒症状を引き起こしてしまう。
だからMS-1に降り立つ前に抗マナ粒子のワクチン処理を行ってきたくらいだ。
「レティーナさん。あの牧場を襲ってきた魔物に撃とうとしていた魔法は、どんな魔法なんですか?」
ユーリは頭を切り替えレティーナに質問をする。
あの時は魔法の呪文の詠唱を行うレティーナに先んじてユーリがレーザーブラスターを撃ったため、レティーナの魔法は見られず仕舞いだった。
「ああ、攻撃用の魔法でな。相手の頭上から炎の塊を落とすものだ」
「強力な魔法だぞ。俺には使えねえ」
と、ウィルが補足してくれる。
「それは是非見せて貰いたいです! 見せて貰ってもいいですか!?」
「ああ、構わないぞ。だが危険だからみんな離れてくれよ、巻き込まれたら大変な事になるからな」
と、レティーナは皆を離れさせてから井戸から少し離れた土が剥き出しになった場所を指差す。
「ではあのあたりに撃つからな」
「はい、お願いします!」
「天より堕ちし紅蓮の炎よ、我が意に従いその姿を顕現せよ――」
レティーナが両手を前に突き出しながら、魔法の呪文を詠唱する。
『マナ粒子視認観測プログラム』で見ると詠唱の開始時点から既にマナ粒子は激しく運動を始めている。
レティーナの体から尾を引くように離れて行って、丁度レティーナが指定したあたりの上空3、4メートル程の地点へと収束。
その地点で激しく運動を繰り返して球体のような姿を象っている。
魔法は実際に発現する現象よりも一歩早くマナ粒子が動き軌跡を残す。
きっとあの上空に何かが起きるのだろう。
「――我は汝に、焦土と哀れな贄を捧げん!」
レティーナが詠唱を終えると、マナ粒子が集まる中心点にキラリと激しい輝きが生まれる。マナ粒子が肥大化し、輝きを増したのだろうか?
まるで夜空に輝く星の煌めきだ。そのくらい強い輝きだ。
それが気になった次の瞬間、マナ粒子は一斉に姿を消して無くなってしまう。
だがその代わりに大きな炎の塊が姿を現す。
マナ粒子が魔法として具現化したのだ。
「わぁ! すごい!」
この離れた位置からでも熱量を肌に感じるほどの、圧倒的な熱量だ。
詠唱にあるとおりの紅蓮の炎である。
そしてその巨大な炎の塊が真っ逆さまに地面に衝突する。
ズゴオオオオォォォッ!
炎は轟音を立てて弾け、巨大な火柱を巻き上げる。
それが消えた後に残るのは、黒く焼け焦げた地面だ。
素晴らしいものを見せて貰った。ユーリは思わずぱちぱちと拍手をしていた。
「ありがとうございます、レティーナさん! 凄い迫力ですね、これはあの時僕が手を出さなくてもあの魔物を止められていたでしょうね!」
「いや、それはその時になってみないと分からないさ。あの時ユーリの方が早く動けたのは事実だ。私だと詠唱の隙を突かれていた可能性もある。あの魔物は俊敏だったからな」
「詠唱の隙ですか――それは無くせないんですか? 照明の魔法の時は何も言っていなかったと思いますけど?」
「うん、あれは簡単な魔法だから詠唱は必要ないんだ。こういう複雑な魔法は詠唱によってマナの流れを制御してやる必要がある」
「なるほど、呪文の内容がマナ粒子の動きを決定づけるわけですね」
「ああ。先人達が培ってきた魔法研究の結果だな」
「なるほど……体感や経験則でそういったものを構築してきたんですね」
例えるならプログラムの制御コードのようなものだろうか。
それぞれの単語に意味があり、その組み合わせで動作する魔法の内容が変わるのだ。
「アルカはこの魔法の契約の儀式は出来ているの?」
と、ユーリはアルカに尋ねる。
「契約はね。だけど使えないの」
伏し目がちに応えてくるアルカ。
「一般的には契約が出来れば使えるはずなんだよね?」
「うん、そのはずだよ」
「ああ。アルカは私よりも遙かに多くの魔法の契約は出来ているんだ。私が使えるのは炎の魔法ばかりだからな」
「レティーナさんは炎の魔法が得意なんですね」
炎を剣に纏わせて魔物を一刀両断するような魔法も使っていた。
あれも見事な魔法だった。
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