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銀河連邦学術士官ユーリ・フォイルの、剣と魔法のフィールドワーク  作者: ハヤケン


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第3話 |MS-1《マナ・スター・ワン》のレティーナ

「たしかに現状保存の観点からは、それが的確ですが……!」


 アークの主任務はマスターであるユーリをサポートし、守る事である。

 どうしてもユーリの身の安全が第一になり、提示してくれる行動選択の内容もそれに準じたものになる。

 しかしそれに感謝をしながらも、押し通すべきものがある時には押し通すのがユーリ流である。


「動作解析……ユーリの作戦の実現可能性を検証――既に樹木型の危険生物の動きは15%低下しています。このまま作戦継続する事に明確な反論理由無し」

「やった、お墨付き!」


 俊敏な動きで樹木型の魔物をきりきり舞いさせつつ、ユーリはニコッと笑顔を見せる。


「それにこうしてれば、一番近くで生態観察が出来るよ! この生物みたいな枝と根の動き、すごいや! ちゃんと記録映像も撮っておいてね、アーク!」

「了解です、ユーリ!」


 ユーリの指示にアークが応じた瞬間――


 ザシュウウゥゥッ!


 音を立てて剣閃が走り、樹木の魔物が真っ二つになった。


「な……っ!?」


 力を失い地面に崩れ落ちる樹木の魔物。

 その斬られた断面は、焼け焦げたように炭化している。

 そしてその向こう側には、一本の剣を携えた女性の姿が。


 長い黒髪を後ろで纏めた髪型で、凜とした威厳のある美しい顔立ち。

 年齢は14歳のユーリより3つ4つは上だろう。

 軽装の鎧を身につけた、如何にもマナ文明の剣士と言った風体の少女だった。

 そして彼女の握る剣には、先程の一太刀の余韻なのか、炎が纏わり付き揺らめいている。


「す、すごおぉぉぉぉいっ!」


 恐らく魔法。魔法を応用した何かだ。

 マナ文明にしか存在しないスーパーパワー。超能力だ。

 そしてこの彼女はその力を使い、ユーリを助けてくれたのだ。


 通りかかった彼女から見れば、ユーリが魔物に追い詰められ、命が危ないように見えたのだろう。

 あの樹木の魔物には申し訳ない事をしたが、ユーリが悪いのであって彼女は何も悪くない。


 それよりも何の発火機構も火炎放射器も搭載していなさそうな普通の剣で、炎を纏わせ斬撃を放つこの少女の技術――

 是非話を聞かせて貰いたい。

 可能であればデータ収集をさせて貰いたい。


 それまで文献や資料から想像するしか無かった本物の魔法技術だ。

 どんなアイドルや偉人よりも、目の前に現れてくれて嬉しい人物だ。

 最大最強の知的好奇心の対象が、目の前で生きて動いていてくれるのである。


 こんなに素晴らしい事は無い――!

 ユーリは逸る気持ちを抑えて、少女との対話を試みる。


「あ、ありがとうございます、助かりました!」


 深々と一礼すると、少女は心配そうにこちらを見て、ぽんと肩を叩いてくる。


「〇△□××※◎△?」

「…………」


 ――言葉がまるで分からない。

 それは、そうだろう。考えてみれば当たり前だ。

 銀河連邦内では銀河連邦の公用語があるが、それぞれの星に土着の言語も存在したりもしているのだ。殆ど使われる事は無く、習得は文化の継承や学術的な意味が大きいが。


 どことも知れぬマナ文明のこの惑星――仮にMS-1(マナ・スター・ワン)と呼称するとして、銀河連邦の公用語がMS-1(マナ・スター・ワン)で通用するはずが無かった。

 取り合えず大丈夫かと尋ねてくれているものと推測をし、ユーリは笑顔で元気だ、大丈夫だと身振りでアピールする。


「……!」


 向こうも頷いて、少し微笑んでくれたので、大丈夫だとは伝わってくれたのだろう。


「△□×〇△□××※※◎△◎※◎△△◎△◎※◎△△?」


 また何か聞いてくれているようだが、当然分からない。


「ユーリ。説明資料を作成しました。彼女への開示許可を」


 と、アークが進み出てくれる。


「ん? うん。じゃあお願い、アーク」

「了解」


 アークが少女の前に進み出る。 

 そして空中に、立体ホログラフィの映像を出力し始める。


「……?」


 きょとんと首を捻りながらも、少女はそれに注目してくれる。

 そして、映像の中に現れたのは、デフォルメされた縫いぐるみのようなユーリとアークだ。

 ユーリ達は空を飛んでいたのだが、森に墜落。


 いたたたた、と言わんばかりに身を起こした所を先程の樹木の魔物に襲われて――

 悲鳴を上げながら逃げ回る所を、目の前の少女がやって来て、ズバッと斬り倒した。


「◎※◎△△!」


 少女はぽんと手を打ち、うんうんと頷いてくれた。

 どうやらアークの資料でこちらの状況は伝わってくれたようだ。

 実態と完全に合っているかというと、それはまた別問題だが。 


 だが流石アークだ。言葉が通じなければ絵で伝えればいい。

 古代まだ言葉を持たなかった人類が、 壁画などの絵でコミュニケーションを取ったのと同じ事だ。


「※◎△△レティ……ナ◎※◎◎※◎?」


 少女は豊かな自分の胸に手を当てながら、そう言ってくる。


「レティ……レティーナ……?」


 彼女の名前だろうか? それは聞き取れた気がする。

 ユーリが言うと、向こうはこくこくと何度も頷く。


「なるほど、レティーナさんと仰るんですね……! 僕はユーリ・フォイルです! ユーリ、ユーリ!」


 ユーリは少女と同じように胸に手を当てて、自分の名を名乗る。


「……ユ、ユーリ?」


 伝わった!

 発音のイントネーションは、銀河連邦の公用語と全然違うが。

 しかしマナ文明の現地の人とこうしてコミュニケーションを取れるなんて、何て貴重な体験だろう。それだけでワクワクと興奮が止まらない。


「わあああぁぁぁ……僕、マナ文明の人と直接話してる! すごいすごいすごい……! 生きてて良かったあああぁぁぁ!」


 興奮するユーリに、少女はきょとんと首を捻っている。


「……これは、言語の不一致が幸いしたかも知れません。齟齬無く伝わると、不審人物と見做される危険性大、危険性大」

「別にそんな変な事はいってないと思うけどなぁ。あ、こちらはアークです、レティーナさん! アーク! アーク!」


 と、ユーリはアークをひょいと抱き止めて、レティーナに向けて見せる。


「アーク!」


 これも伝わった!

 この喜びが異文化コミュニケーションの醍醐味だろう。

 嬉しそうにニコニコしているユーリに、レティーナも微笑んで、すっと手を差し出してくる。白魚のように美しい、滑らかな手だ。


「××※※××※※◎△◎△◎△」


 これは、何を言っているのだろう?

 どこかに案内しようとしてくれているのか?

 ユーリとアークが森で遭難していた事は、恐らくアークの説明資料で伝わっただろうから、彼女の住む人里へ連れて行こうとしてくれているのかも知れない。


 マナ文明の人の街!

 それは失われし古代のロマン!

 その息づいている姿を、この目で見れるかも知れない!

 つまり、行かざるを得ない!

 言葉の意味はよく分からないが、飛び込んで行くのみだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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