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銀河連邦学術士官ユーリ・フォイルの、剣と魔法のフィールドワーク  作者: ハヤケン


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第2話 フィールドワークの心得

 小一時間後――


「よし……行こうか!」


 ボディジャケットの袖の部分を直しながら、ユーリはそうアークに声をかける。

 耐熱、耐衝撃、耐刃、全てを兼ね備えた強化素材の軍用ジャケットだ。

 その分厚手で硬く、着づらいし脱ぎづらいのだが。

 危険生物がどこにいるかも分からないマナ文明の野外に出るなら必須だと、アークに強く勧められた装備である。


 更にこちらも軍制式の高周波ブレードと鞘を腰の後ろにマウントし、腰の右側にはエネルギーパック式のレーザーブラスターを。

 ユーリとしては別に戦争をしたいわけでは無く、フィールドワークがしたいのだが、これもアーク推奨の装備である。

 武器の扱いは左目から体内に通じるインプラント・デバイスに『連邦上級剣闘プログラム』と『連邦上級銃撃プログラム』をインストールしておいた。

 それが体の動きを制御してくれるため、誰でも同じようなレベルの剣術や射撃の技量を再現できるというものだ。


 学術士官でも連邦士官の一員ではあるので、高度戦闘プログラムの使用資格もユーリは持っている。

 こうなってくると、同じプログラムをインストールした者同士の戦いは作戦の発想や応用力の勝負になってくるのだが、士官学校時代のユーリの戦闘訓練の成績は良かった。

 と言うよりも主席だった。

 飛び級で年齢も若く、その上成績優秀であったため、各地の博物館や資料館の学芸員に過ぎない学術士官を希望した時、周囲からは散々止められたものだ。


 更にバックパックには、携帯用の食料や飲料や、応急処置のための医療キットも。

 アークの方のボディにも、簡易テントや浄水処理など様々なサバイバル用の機能が内蔵されているため、船外に出てもかなり長い間活動できるはずだ。


「くれぐれも無理は禁物です。周囲を警戒し、何か異常があればすぐに船内に引き返しましょう。居住区とラボ施設は健在です」

「うん、分かってるよ、アーク! 何が待ってるのか、楽しみだね!」


 ユーリは満面の笑顔を浮かべながら、船外へと通じる扉を押し開く。

 重い音を立てて開いた隙間から、柔らかな陽の光が差し込んで来た。


「わぁ……! 森の中だね――」


 もちろん銀河連邦域内の惑星にも森林はあるし、マナ文明の遺跡発掘のためにそう言う場所に出かけたりもするのだが、本物のマナ文明の森林はまた何か違う気がする。

 何もかもがキラキラしているような、草木や花の輝きが一回り違うような、そんな気がする。

 やはりマナ粒子をふんだんに含んでいる影響か。


「ただの草や花も輝きが違う気がするなぁ! よぉ~し! モンスターや現地住民の人を探すぞおぉぉぉっ! マナ文明の皆さんこんにちはあぁぁぁぁっ!」


 ユーリは目をキラキラさせて、一人駆け出してしまう。


「ああぁぁ……! ユーリ、待って下さい! 光学迷彩処理を開始!」


 アークがそう言うと、宇宙船の姿が周囲の光景に同化してすっと消えていく。

 もちろん物理的にはそのまま存在し、触れば元の扉のままである。

 宇宙船自体の超長距離通信は機能停止してしまったが、幸いアークと宇宙船の短距離無線通信は生きている。

 アークからのオペレーションで、生きている艦載機能を使う事は可能だ。

 光学迷彩処理を終えたアークはすぐにユーリの背中を追う。

 もうその姿は小さくなりかけていたが、暫くすると段々大きくなる。

 ユーリが足を止めていて、アークが追いつく事が出来たのだ。


「ユーリ! 一人で先に行かないで下さい、危険です……!」

「ごめんごめん。ねえアーク、それよりあれを見てよ!」


 ユーリは近くにある一本の木を指差して見せる。

 高く長く伸びた木の枝の先に、いくつかの果実がなっていた。

 それがキラキラと輝く金色をしたリンゴのような形をしており、見るからに美しかった。


「金色の果実を確認――」

「ね、ね? 凄くない? こんなの銀河連邦じゃ見た事無いよ! ファンタジーだね!」

「連邦標準環境でもそうですが、毒のある生物や植物ほど色鮮やかになるものです。十分に注意を。ユーリが手に取る前に、私が成分を調査します」

「いや、待ってアーク!」


 と、ユーリはふわふわと浮くアークをひょいと抱き締めて止める。


「ユーリ?」

「ほら見て、アーク。あの木の根っこ――」


 ユーリが指差した先。金色のリンゴの木の根っこの部分だが、それが地中に埋まっておらず、地面の上にそのまま載っていた。

 つまりこの木は、地中に根を張っていないのだ。


「根を張っていない樹木? そんなものが……?」

「きっと、タダの木じゃ無いんだよ。あの地面の上に載った根は、根じゃ無くて足だね。樹木型のマナ粒子含有生物――いわゆる魔物だよ、きっと。食虫植物のようなもので、ああやって木に偽装して、リンゴを取ろうとして近付いた獲物を襲うんじゃないかな?」


 言いながら、ユーリはアークをそっと離す。

 アークは再びふわふわと宙に浮き――


「では、離れた位置からのデータ収集のみに留めます。同時にユーリの言うような生態の魔物についての参考文献が無いか、艦のローカルデータベースにアクセスして検索を……」

「ははは。それじゃあつまらないよ、アーク! ちゃんと動く所も見てみたいじゃない? せっかくだからね!」


 と、にっこり笑顔で言うユーリは、既に木の側に移動し金のリンゴに手を伸ばそうとしていた。

 アークを止めたのは、知らずにアークを傷つけさせたくなかったのと、もう一つ、自分で近付きたかったからである。


「は、速い、いつの間に……!? ユーリ! いけません!」


 アークの音声が響いた直後――


 ギャギャギャギャギャッ!


 木の幹の部分が目と口の形に割けて、金のリンゴの木が鳴き声を上げた。


「わぁ! やっぱり樹木型の魔物だ! 生きて動いてる所を見られるなんて、凄いや!」


 ユーリは目を輝かせて、キャッキャと喜んでいる。


「危ない! ユーリ!」


 喜ぶユーリを捉えようと、樹木の魔物は腕のように長い木の枝を振り下ろしてくる。


「大丈夫だよ、アーク!」


 しかし、ユーリは素早く片足を引き半身になって、その枝をかわす。

 続く逆側の木の枝の追撃も、スッと身を屈めてやり過ごす。

 ビュンと音を立てて通り過ぎて行く枝の音が、ユーリの耳に入る。

 更に、足元の土がボコボコと盛り上がろうとしている。

 その先には地面のひび割れが、樹木の魔物に向けて続いていた。


「っ!」


 ユーリは身を翻して、後方に回転しつつ地面に手を突き飛び退く。

 一拍遅れて、ユーリが元いた場所には、木の根が地面から槍のように突き出していた。

 ユーリは回転を何度か繰り返して、魔物から距離を取る。

 俊敏なその動きは、『連邦上級剣闘プログラム』と『連邦上級銃撃プログラム』の上級戦闘プログラムのおかげだ。


「ね? 大丈夫でしょ?」


 この魔物の動きは、十分に見切れる。

 ならば――


「ユーリ、ではこちらからも攻撃を! 命を守る行為です!」


 アークが攻撃を推奨してくる。


「いや……!」


 しかし、ユーリは武器に手を伸ばす事は無かった。

 追い縋ってくる樹木の魔物の攻撃を、先程と同じように見切り、回避していく。


「フィールドワークは、モンスターハントじゃないんだ。僕の都合で巻き込んでいるんだから、このまま疲れるのを待って逃げるよ……!」


 この惑星の全てが、ユーリにとってはこの上ない宝なのである。

 失われし古代のロマンだ。それを無闇に傷つける事はしたくない。

 まして自分からこの魔物の罠にかかりに行って、確信犯的に動かしたのだ。

 それを相手を斬り倒すのでは、あまりと言えばあまりな狼藉である。

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