第24話 ユーリ勇者説
数日後――
暖かい日の光の中、村人達がヤムヤムの牧場の前に集まっていた。
「いやあ、魔物が倒されて良かった良かった!」
「あれから何もないし、平和になってくれたかねえ」
「ヤムヤム達も安心して暮らせるよ」
レティーナ達が作った料理も振る舞われて、ちょっとしたお祭りの様相である。
その中でも村人達の注目を集めているのは『ナイトヤムヤム』に進化したヤールンだ。
「いやあ、あのヤールンがこんなになるなんてねぇ!」
「カッコいいよね!」
「実際強いんだぜ! すっげえデカい魔物と戦ってたからな!」
門番のウィルが自慢気に村人達に語っている。
「へえぇぇ~!」
「すごいね、ヤールン!」
「俺も見たかったなぁ!」
村の子供達がその話しに目を輝かせていた。
「賑やかだなぁ。こういうのもいいね」
その雰囲気をユーリは微笑みながら見つめていた。
銀河連邦人はこんなに人と人との距離が近くない。
この村のような共同体の概念は薄いし、一人一人にパーソナルAIがついているので人とのコミュニケーションもAIを介して行われる事が多い。
個人個人の権利や個性は尊重されるが、その分人と人との垣根は厚くて高い。
だからこんな風に人が入り乱れる事は希だ。
ユーリもほんの数える程しか経験が無い。
銀河連邦の士官学校やその前の高等科など、教育課程の節目節目の祝いの席だけかも知れない。
「ユーリくん、ユーリくん。はい、食べ物貰ってきたよ。どうぞ」
そう言って魚の串焼きを差し出してくれたのは、アルカだった。
「ありがとう、アルカ!」
お礼を言ってユーリは串焼きに一口かぶりつく。
「! うわぁ、これも美味しいなぁ!」
焼かれた切り身は外側は火が通って香ばしく、内側はレアで新鮮さが際立つ。
香ばしさと新鮮 さの両取りがされていて、単純な調理法だがとても深い味がする。
恐らく焼き加減が命なのだろうが、それがとても上手なのだ。
「ふふ。ガルドラス島は新鮮なお魚が沢山手に入るから、美味しいよね」
笑顔のユーリにつられて、アルカも微笑みながら串焼きを食べている。
その先には立派なナイトヤムヤムの姿のヤールンがいる。
「でもどうして、ヤールンだけがナイトヤムヤムになれたのかな」
「あ、それはね。進化する時の周辺環境次第なんだ。どうもヤムヤムの場合は酸素濃度が影響してるみたいで……」
「さんそのうど?」
「ええとつまり、空気が濃い所かな? 空気の濃い所で進化を迎えれば普通のヤムヤムの大人じゃなくて『ナイトヤムヤム』になるみたいだよ」
元魔法兵のハッサムおじいさんが言っていたが、あの姿は人に飼い慣らされる前の魔物だった頃のヤムヤムの姿のようだ。
魔界とか魔王の城とか、そういったつまり魔物側の本拠地が酸素濃度の濃い環境に存在していたのだと推測する。
他にも同条件で進化形態の変わる魔物がいるかも知れない。
これは色々な魔物の遺伝子データを採取して解析してみたい所だ。
実に興味深い研究テーマだと言えるだろう。
「そ、そんな事が分かるんだ!?」
アルカが目を丸くしている。
「うん。ヤールンを治療しようとしてる時に調べてたら、たまたまね。それで治療用の設備がたまたま空気が濃い場所だったから、ヤールンは『ナイトヤムヤム』になったんだよ」
「では、ヤールン以外のヤムヤムの子供も『ナイトヤムヤム』になれると言う事か?」
と、ユーリに尋ねるのはレティーナだ。
飲み物の入った杯をユーリに手渡してくれる。
「ありがとうございますレティーナさん。はい、進化が近くなってきたら再現できると思います」
「それは助かるな。『ナイトヤムヤム』の戦闘力は頼りになる。もう一、二頭いてくれれば自分達で魔物から身を守ってくれるだろう」
結果的にユーリやレティーナも手を貸したが、『ナイトヤムヤム』がヤールンの他にもいれば自分達だけで撃退できていた可能性は高いだろう。
「それにあの竜人の親玉のような奴はとても強力だ。村を守る戦力はもっと増やしておいた方がいいかも知れん」
ユーリとしてはあの大きな竜人と戦うつもりはなく対話をしてみたいとしか思わないが、レティーナの立場で戦いを想定して備えを考えるのは分かる。
レティーナは村長として皆を守る責任を負っているのだから。
「じゃあ必要な時は言って下さい、僕が『ナイトヤムヤム』に進化させてきますから」
「ああ! 本当に何から何までありがとう、ユーリ」
「いえ、こちらこそ! とても良い経験をさせて貰いました」
特にヤールンの進化の瞬間は、マナ文明の生命の神秘を感じさせてくれる貴重な体験だった。
ユーリはニコニコとしながら、レティーナが渡してくれた飲み物に口をつける。
「さすが勇者様だね、ユーリくん!」
ぶっ!
ユーリが口に含んだ飲み物を吹き出してしまったのはアルカの発言のせいだけではない。
杯の中に入っていたのはお酒だった。
口当たりの良い葡萄酒なのだと思うが、アルコールの香りに吃驚してしまった。
「こ、これはお酒ですね……!?」
14歳のユーリにお酒を勧めてくるとは意表を突かれた。
さすがマナ文明は銀河連邦の環境とはひと味違う。
法律で飲酒を許可する年齢が決まっているわけではないのだ。
「ああ、それがどうかしたか?」
レティーナはきょとんとしている。
「いえ、僕のいた場所では20歳にならないとお酒は飲めないので――」
「え? そうなのか? 土地が移れば随分と風習も違うものだな」
「勿体ないですよね、こんなに美味しいのに」
アルカはこくこくと杯に入った葡萄酒を飲んでいる。
美味しそうで、なおかつ飲み慣れた様子である。
あっという間に杯は空になっていた。
「うん! 美味しい!」
「そうだろう? ずっと取っておいた上物だからな」
「姫様、もう一杯飲んでもいいですか?」
「ああ構わんぞ。今日はお祝いだ」
「やったぁ!」
「……ええと、アルカって何歳なの?」
「15歳だよ?」
「そんな早くからこんなに飲み慣れてるんだね」
「もっと子供の頃から飲んでたよ?」
そのせいなのか、アルカは全然赤くならず平気そうな顔をしていた。
まるで美味しいジュースを飲んでいるだけのように見える。
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