第23話 |竜人《ドラゴニュート》の首領
「よし、逃がさんぞ! もうヤムヤム達は襲わせん!」
「レティーナさん、出来れば殺すのではなく捕まえるだけに! もしかしたら、人に慣れてヤムヤムみたいになれるかも知れませんから――」
「……そうだな、後から来たのは私達だ。共存できるものならそうするべきだろうな」
「ありがとうございます! レティーナさん!」
「よし、来るぞ!」
「はい!」
ユーリとレティーナは身構えるが魔物は一切勢いを落とす事無くこちらに突進してくる。
「待って! 止まるんだ!」
その言葉も届かない。
だが攻撃を仕掛けてくるのではなく、高く跳躍してユーリとレティーナの頭上を飛び越えてしまう。
一目散に森に逃げ込むつもりか。
「くっ! あの怪我でこんな動きを!?」
「なら――!」
足を撃ち抜いて動きを止めるしかないかも知れない。
ここで逃がせばまたヤムヤム達に被害が出る可能性がある。それは止めないと。
しかし銃口を魔物の後ろ姿に向けたユーリの視界は、森の中から赤い魔物と同じくらい大きな姿が現れるのを捉える。
「! あれは!?」
「竜人!? しかし……!」
現れた姿の基本的な外見はレティーナの言うとおり竜人だ。
だが並外れて体が大きく体格ががっしりとしていて、今まで見た彼等よりも圧倒的な威厳と迫力を醸し出している。
一目でただ者ではない事が分かる。竜人の首領という感じだ。
「あんなに巨大な竜人は 初めて見るぞ!?」
レティーナも驚いた様子だ。
竜人の首領以外にも別の竜人も何人か姿を現しているが、やはり体つきからして違う。
その竜人の首領の近くまで、赤い魔物は走って行き――
竜人の首領が腰を落として踏ん張りながら、大きく口を開く。
その口の中には、赤い輝きが煌めいていた。
「高エネルギー反応! ユーリ、伏せて下さい!」
アークがそう警告を発する。
「! うん、レティーナさんも!」
ユーリはレティーナに飛びついて押し倒しながら身を伏せる。
直後、竜人の首領が大きく開いた顎から渦を巻くような紅蓮の炎が放出された。
ズゴオオオオオオオオオオォォォッ!
まるで火山が噴火するような強烈さだった。
長く横に伸びた火柱は身を伏せたユーリ達の頭上にも届き、強烈な熱を伝えてくる。
立ったままでいたらこちらも危なかっただろう。
いち早くアークが警告してくれたおかげで助かった。
だが、その間にいた赤い大猿の魔物はマグマの噴火のような奔流をまともに浴びている。
熱が収まった後そちらを見ると――
その上半身は消し飛び、腰から下の半身だけがどさりと地面に倒れていた。
「す、すごい! まるで火山が噴火したみたいだ」
あんな熱量を一生物が放出すれば、その熱でまず第一に自分の体が焼き尽くされて自壊するだろう。科学的に考えればそうだ。
それを覆すのがマナ粒子の存在するマナ文明の醍醐味である。
マナ粒子の偏りにより、およそ科学では説明できない個体生物を生み出す。
「あ、あんな竜人が森にいるのか……!」
レティーナも呆気に取られているような様子だ。
大猿の魔物 を一撃で仕留めるのだから、間違いなく危険度はそれを上回るだろう。
「アーク! 今の撮れた!? 撮れた!?」
「マナ粒子の動作キャプチャを含め、録画成功」
「やった!」
「ですがそれよりも、厳重な警戒を推奨します!」
「うん、勿論だよ!」
と言ううちに竜人の首領はすぐに踵を返し、森へと姿を消してしまった。他の竜人達もそれに従い引き上げていく。
「あ! 帰って行っちゃう」
もう少しデータを取らせて貰いたかったのだが、少々残念だ。
「その方が助かる……しかし凄まじい威力だったな。ユーリがこうしてくれなければ危なかったぞ」
そう微笑むレティーナの顔は、ユーリのすぐ目の前にある。
そして頬から感じる柔らかい感触。ほのかに甘い匂い。
押し倒した際にレティーナの大きな胸に顔を埋めるような体勢になっていた。
「ああ、ごめんなさい。咄嗟に――すぐにどきますから」
「いや、全然構わんぞ。また助けて貰ったな、ありがとう!」
レティーナはにこにことしながらユーリをぎゅうぎゅうと抱き締める。
「あ、あのう。こんな事してる場合じゃ……」
出来ればもう少しあの竜人の首領を観察したいのだが。
それに村の様子も気になる。早く戻ってあげないと。
ともあれヤムヤム達を襲っていた魔物はその後現れなくなり、牧場には平和が戻ったのだった。
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