第22話 はじめての援護射撃
「普通のヤムヤムはこうではないんですか?」
「ああ。ヤムヤムは大人しい動物だよ、戦いなど出来ないぞ。しかし防戦一方か!? やはり手助けした方がいいかも――」
「いえ、待って下さい! ヤールンには何か狙いが!」
「何?」
「気付いていますか? ずっと魔物の向かって右を回るように避けています!」
「!」
「相手がそれに慣れた瞬間――」
実際ヤールンの動きに慣れて見切ったのか、赤い魔物は拳を繰り出した瞬間に大きく肩を入れ身を捻り、拳の軌道をヤールンの動きに合わせて曲げて来る。
「キュオッ!」
一声鋭く鳴いたヤールンはそれまでの右ではなく左に跳躍する。
待っていたと言わんばかりの動きだ。
「体勢を崩した!」
レティーナの言うとおりだ。
真逆に振られた赤い魔物は体のバランスを崩し、その場に膝を突いてしまう。
その脇腹が、がら空きだった。
ヤールンはそれを見逃さず自分から反撃に出る。
脇腹に向けて突進。そして尖った一本角を槍のように、赤い魔物の体に突き立てた。
それは魔物の柔らかい脇腹に見事に突き刺さり、赤い血が赤い体毛をさらに赤く染め上げる。
「おぉ! 見事だぞヤールン!」
レティーナは大きく頷いている。
しかし赤い魔物の体力も人間のそれではない。
脇腹を突き刺されても、それが決定的な打撃にはならない。
「ゴルアアアアァァッ!」
むしろ捕まえたと言わんばかりに、ヤールンに向けて手を伸ばす。
ヤールンも当然捕まらないように角を引き抜き飛び退こうとするのだが、魔物は脇腹にグッと力を入れてそれを阻んでしまう。
力ずくで逆にヤールンの動きを止めた形だ。凄まじい身体能力である。
そして大きな手が長い角を掴んで、ヤールンの動きを完全に組み止めてしまう。
「いかん! 捕まった!?」
「いけない!」
ユーリとレティーナが同時に声を上げる中、赤い魔物はヤールンの角を体から引き抜く。
そのまま掴んだ角ごと、ヤールンの体を振り上げてしまう。
「くっ……! 天より堕ちし紅蓮の炎よ! 我が意に従い――」
魔法の詠唱を始めるレティーナ。
だがその横から、輝く光線が空気を引き裂き魔物へと突き進んでいく。
ユーリがレーザーブラスターを放ったのだ。
「速い……っ!?」
それだけではない。魔物の動きを解析して個別予測を加えた精密射撃だ。
『連邦上級銃撃プログラム』は自動的に相手の動作パターンを解析し、どんどん対象への射撃精度を高めていく。
ヤールンのとの戦いを見ながら、十分に情報を集めた結果――ユーリの放ったレーザーブラスターの光線は、ヤールンを振り回している魔物の肘関節にピンポイントで着弾した。
更にそれが一発だけではなく、二発、三発と。
それぞれが絶妙な軌道で同じ場所を撃ち、三発目で貫通して光線が向こう側に突き抜けて行った。
「ゴアアアァァァッ!?」
流石にビクンと身を震わせて動きを止める赤い魔物。
手の力が緩んで空中に振り上げられたヤールンの体が滑り落ちる。
ヤールンは素早く身を起こして、魔物から飛び退る。
「大丈夫だね!? ヤールン!」
「キュオ!」
大丈夫、ありがとう。と言っているのだろうか?
「凄いな、ユーリ! 私の出る幕がない!」
「いえ、僕じゃなくて武器の力ですから」
「あ、あいつ逃げるぞ!」
門番のウィルが声を上げた通り、魔物は不利を悟ったのか身を翻して牧場から逃げ出そうとする。
その動きはまだまだ俊敏で、衰える事は無かった。
「速い! 全然動きが鈍りませんね、すごいや!」
元々命を奪うつもりはない。動きを鈍らせて捕らえるつもりだった。
これで致命傷にはならないという計算だったが、これ程動きが鈍らないのは計算外でもある。
やはりマナ文明の生物はユーリ達銀河連邦人の常識では測れない。
「感心ばかりもしていられん! 追うぞ!」
レティーナが魔物の後を追って走り出す。
「では僕も!」
ユーリも並んで走り出す。
「ユーリ! どうぞ!」
フライトボード型に変形したアークが、ユーリに併走してくれる。
膝上くらいの高さの、超低空飛行だ。
「ありがとう、アーク!」
ユーリはアークに飛び乗り、レティーナに手を差し伸べる。
「レティーナさん! どうぞ!」
「助かる!」
レティーナを引き上げ、二人乗りのフライトボードは魔物を追いかける。
「アーク! 全速力で先回りして!」
「オーダー了解」
少し高度を上げて、フライトボードが猛スピードで加速する。
「すごい速さだな……!」
「ごめんなさい、怖いですか? 振り落とされないで下さいね……!」
レティーナはこれに乗るのは二度目だが、一度目はまだ『MS-1人語翻訳プログラム』の作成前で、何を言っているのかが分からなかった。
「いや、気持ちがいいな! 私はとても好きだぞ、アークは凄い使い魔だ!」
レティーナは目を輝かせている。
楽しんで貰えているのは何よりだ。
フライトボードは森へ逃げ込もうとする魔物の頭上を飛び越えて行く。
そして、森の少し手前で待ち受ける事が出来た。
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