第21話 ナイトヤムヤム、ヤールン
「出た、出ました……!」
「逃がすなよ! ここで何とか!」
「そっちだ! うわああぁぁぁぁっ!?」
村の入り口に戻ると、遠くからそんな声が聞こえて来た。
「え、何……!?」
ユーリが異変に気付くと同時に――
ゴオォウッ!
地面が震えるような揺れと共に、夜空に火柱が上がる。
「異変を検知! ヤムヤムの牧場の方向です!」
「行ってみよう!」
ユーリ達は急いで牧場の方向へと向かう。
するとそこには、投網のようなものに身を捕らわれた大きな魔物の姿があった。
一言で表すと、赤い毛並みの大きな猿というのが相応しいかも知れない。
ただ、顔つきでいえば銀河連邦環境の猿類のそれとは比較にならない程凶暴そうである。
大きさも、ゴリラのサイズを遙かに上回ってサイやゾウくらいはあるだろう。
真っ赤な炎のような長い体毛がたなびいており、とても強そうで更に見栄えもする。
その強力そうな魔物をレティーナ達村人が取り囲んで押さえようとしていた。
レティーナと元魔法兵と言っていたお爺さん以外は力のありそうな男性ばかりで、門番のウィルもその中にいる。
「こ、これは――!?」
「ユーリくん!?」
アルカは隅のほうで牧場のヤムヤム達を一カ所に纏めて避難させており、いち早くユーリに気がついて声をかけてくれた。
「アルカ! これは何をやっているの!?」
「ヤムヤムを襲いに来る魔物を捕まえようとしてたの! 上手く行って罠にはかかったけど……!」
レティーナをはじめとして門番のウィルや他にも十人近くで網から逃がさないように押さえているが、それでも力任せに暴れる赤い毛並みの魔物を押さえ切れそうに無い。
「よし、分かった! 僕も手伝うよ!」
「あ、ありがとうユーリくん! で、でもそれ何に乗ってるの?」
アルカが言うのはユーリを乗せているヤールンだ。
見たことのないものを見る目で見ている。
と言う事は、アルカもヤムヤムのタイプBの姿は知らないらしい。
「ヤールンだよ。治療しているうちに大きくなっちゃって」
「え? じゃあ進化? でも全然他の子と姿が違うけど」
口ぶりから、魔物が進化をするというのは普通の事らしい。
その事自体が銀河連邦人としては驚きだが、ヤールンはかなりマイナーな進化のルートを辿ったというわけだ。
「ダメだ! 振り解かれる!」
レティーナの声が上がると同時に、魔物が網を振り解いて立ち上がってしまう。
「「「うわあああぁぁぁぁぁっ!」」」
村人達が地面に転がされてしまう。
そして束縛から抜け出した魔物は逃げるでは無く怒りを顔に漲らせて、村人に襲いかかろうとする。
その標的になったのは、一番魔物に近い位置を請け負っていた門番のウィルだ。
「ゴアアァァァッ!」
太い腕が握り拳を作って、ウィルに打ち下ろそうとする。
「う……っ!?」
「ウィルさん!」
ユーリはレーザーブラスターを早撃ちして威嚇射撃を放つ。
光線は狙い通り赤い大猿の魔物の鼻先を掠めて、その動きを止める事に成功した。
「今のうちに逃げて下さい!」
ヤールンの背から飛び降りウィルに駆け寄り、助け起こす。
「あ、ああ……! ありがとう、ユーリ!」
しかしそうなると魔物は怒りに満ちた瞳でユーリを睨み付けてくる。
「現地生物を傷つけるつもりは無いけど……」
このMS-1のどの生物も、マナ文明の貴重な生き証人だ。
学術的価値は計り知れない。
だから可能な限り傷つけたくは無いが、この場は仕方が無いかも知れない。
せめて命は奪わないように――
そう考えるユーリの視界から、赤い大猿の魔物の姿が消える。
いなくなったわけではなく、別のものが割り込んできたからだ。
それは、やや灰色がかった銀色の毛並みをした、大きなヤムヤムの後ろ姿だ。
「ヤールン!?」
「キュオォォッ!」
ヤールンはユーリを振り向いて一声鳴くと、魔物に対して姿勢を低くして身構える。
ユーリや仲間のヤムヤムを守ろうとしている――そんな意思を感じる。
「こ、こいつは『ナイトヤムヤム』!? 『ナイトヤムヤム』じゃあないか!」
若い頃は魔法兵だったというお爺さんがそう声を上げる。
「ハッサムじいさん! 知ってるのか!?」
「おうウィルよ。こいつぁ人間の家畜になる前の魔物だった頃のヤムヤムの姿じゃあ。ワシの子供の頃は時々見かけたんじゃがな。まさかまだこの姿に進化する奴がおるとは」
「ヤールンを治療していたら、この姿になったんです!」
「ユーリ! ではこれはヤールンなのか……!?」
「はいレティーナさん! ここは、ヤールンに任せましょう!」
ヤールンはその気だし、今後ヤムヤムの群れにヤールンがいてくれれば群れを守るに足るのかどうか確かめる事が出来る。
勿論危なくなったら助けるつもりだ。
「よ、よし分かった……! だが危なくなったら助けに入るぞ、せっかく助かったヤールンを失いたくは無いからな」
「勿論僕もそのつもりです……!」
ユーリは右手に高周波ブレード、左手にレーザーブラスターを持って身構える。
「ありがとう、ユーリがいてくれると頼もしいぞ」
レティーナも剣を抜きユーリの隣に立つ。
そんな二人の目の前で、赤い魔物は強靱な拳をヤールンに向けて打ち下ろす。
まともに受ければタダでは済まない威力だ。
だがヤールンはそれを俊敏な反応で斜め後ろに飛び跳ねて避ける。
「ゴアァッ!」
それを追って、さらに拳を叩きつける赤い魔物。
ヤールンはそれも同じように飛び跳ねて避ける。
さらにもう一度。それも避ける。
もう一度、もう一度――
「動きを見切っている!? ナイトヤムヤムは頼もしいな! 凄いぞ!」
レティーナが目を丸くしている。
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