第20話 星の明かりと森の泉
「わぁ……! あはははっ! マナ文明の現地生物に乗せて貰えるなんて、ちょっと前までは想像も出来なかったなぁ! いやぁ、遭難して良かった!」
ユーリは満面の笑みを浮かべている。
そのまま暫くヤールンの背中に揺られていると、視界の先に何かキラリと輝くものが見えた。
「? 星明かり?」
だが、空を見上げた先ではなく地上だ。
地上からそれが見えるという事は、何かが光を反射しているという事だ。
そして星明かりを反射するものとは――
「アーク! 望遠であっちの方向を映してみて!」
「了解。映像に出します」
アークのボディから望遠レンズの映像が映し出される。
「……! 泉だ!」
森の中に泉があった。
その水面が、星の明かりを反射していたのだ。
MS-1に近い位置に存在する大きめの衛星のものだろう。
「ヤールン。あっちに行ってみて!」
ユーリが指差した泉の方向に、ヤールンが走っていく。
その速度はかなりもので、あっという間に水際へと辿り着いた。
「わぁ、速いねヤールン!」
「キュウウゥッ!」
ユーリに誉められて、ヤールンはどこか誇らしげだった。
「やっぱり水源があったね。これは、淡水かな?」
ユーリがヤールンの背を降りて確かめる前に、ヤールンが泉の水に口をつけてしまう。
「あ。先に飲んじゃった? どう、美味しい?」
「キュウ!」
嫌がっている様子はなく、ヤールンはペロペロと水を舌で掬っている。
「大丈夫そうだね――うん、本当に淡水だ!」
ユーリも手で掬ってみて味見をしてみると、美味しい淡水だった。
「なるほど、ここには水源があるんだね」
いい発見だ。
村からは少々距離があるが、ここに水を汲みに来る事が出来れば水不足は解消する。
「でも、森の中って事は……中々ここまでは来られないよね」
森には竜人達がいて、近付く者を襲ってくるのだ。
それを考えると、なかなかここで日常の水を調達するというのは難しいだろう。
何とか竜人達と対話が出来ればいいのだが。
アークの浄水化装置も永遠に使えるわけでは無く、あくまで一時的なものだ。
安定的に使える水源の確保はやはり人が生きて行く上では必須である。
ヒュンッ!
「!」
何かが風を切る音が、突如ユーリの耳に入ってくる。
「ヤールン! 下がって!」
ユーリはヤールンの前に立ち、腰の高周波ブレードを抜き放つ。
幅広の刃が飛来物の射線に正確に割り込み、カンと音を立てて盾代わりになった。
『連邦上級銃撃プログラム』による射線予測を『連邦上級剣闘プログラム』による剣捌きで受け捌いた形だ。
音を立てて地面に落ちたのは、鉄の矢だった。
そして泉の水面の上に、星明かりに照らされた竜人達の姿が現れていた。
「……! 見つかったの!?」
この見通しの悪い夜に先程まで姿が見えなかった竜人達があっという間に駆けつけてくるとは、何かセンサーのような仕掛けがあるのかも知れない。
ギャギャギャギャ!
再び放たれる弓矢。
風切り音を発して飛来したそれは、今度はユーリの足元に突き刺さる。
高周波ブレードを盾代わりに受ける必要が無かった。
わざと狙いを外した威嚇射撃だったのだろう。
どうやらユーリに矢を当てるつもりは無いらしい。
そう言えば、最初に遭遇した時も体への直撃は外すような射線だった。
人には直接当てるつもりは無い。つまり殺すつもりは無いと言う事だろうか。
ただしヤールンは単なる家畜と見做されその限りでは無いと。
ヤムヤムは食べると美味しい肉でもあるので、そういうつもりかも知れない。
――そんな事はさせるわけにはいかない。
ヤールンは無事に村に帰すのだ。
「ヤールン! 僕が引きつけるから、今のうちに村に向かっ――わっ!?」
後ろから体が持ち上げられる。
ヤールンがユーリの足元に自分の首をくぐらせて、そのまま背中まで持ち上げたのだ。
「キュウゥゥッ!」
そして身を翻すと、一気に村の方向に走り出す。
ユーリを連れて逃げようとしてくれているのだ。
ユーリはヤールンを庇おうと思ったが、ヤールンにとってもそれは同じだったらしい。
「僕を助けてくれようとしてるんだね……! ありがとう!」
ギャギャギャギャギャ!
だが竜人もそれを追おうという構えを見せている。
ならば――
「これでっ!」
ユーリは身を捻りながらレーザーブラスターを引き抜き、後方に狙いをつける。
動物の背の上の揺れは独特で、フライトボードに乗りながら射撃するよりも遙かに照準の難易度は高い。
が、多少照準がぶれても問題は無い。
精密な狙いは必要ない。
竜人達に直接当てるつもりはないのだ。
夜の闇を切り裂くレーザーブラスターの光線は、彼等の足元の水面に着弾した。
バシュウウゥゥンッ!
すると大きな音と共に盛大な水蒸気が巻き上がる。
連射をすると更に水蒸気がどんどん増し、竜人達の姿を完全に覆い隠した。
こちらから姿が見えないと言う事は、あちらにも見えないという事だ。
「ヤールン! 今だよ、あっちに曲がって!」
ユーリは村からあえて遠回りする方向をヤールンに指示する。
ヤールンはそれを聞いて、真っ直ぐ走っていた進路を直角に曲げてくれた。
真っ直ぐ逃げていたのは竜人達も見ている。
水蒸気がお互いの姿を覆い隠した一瞬のうちに方向転換を挟んでおけば、竜人達はそのまま真っ直ぐ進んだと考えユーリ達を追うだろう。
そうすれば安全に彼等の追跡を撒く事が出来る。
そのまま暫く進んでから、ユーリはヤールンの首筋をポンポンと叩く。
「ヤールン。もう大丈夫、ゆっくり歩いてもいいよ。ちょっとアークと離れちゃったし、アークが追いついてくるのを待とう?」
「キュオ」
一声鳴いて、ヤールンが歩調を緩める。
「ありがとうね。僕の事を助けようとしてくれたんだね?」
「キュウゥゥッ!」
ヤールンは誇らしげだ。
しかし返事が少々元気が良すぎるかも知れない。
「しー……っ。まだあんまり大きな声を出しちゃダメだよ? 声で気付かれちゃうかも知れないから」
「キュ……」
ユーリが言うと、ちゃんと声を潜めてくれているように感じる。
「うんうん、そうだよ。ヤールンは賢いね」
そうしているうちに、後からアークが追いついてくる。
「ユーリ。追跡の様子はありません。撒く事が出来たと思われます」
「良かった。じゃあ静かにしながら帰ろうか? まだそのあたりに竜人の皆さんがいるかも知れないからね」
「了解」
「だけど何で森に入ると襲ってくるのかなあ。きっと何か事情があるんだよね」
本当にレティーナ達人間を敵視し滅ぼそうというならば、村を襲撃すればいいのだがそういった様子は無いのだ。
となれば分かり合えそうな余地はあると思うのだが、今の所はコミュニケーションを取る事が出来ていない。
「やっぱり言葉が分かるといいんだけどなあ。アーク、言語データは取れてる?」
「採取はしていますが、まだサンプルが少なすぎます。言語翻訳プログラムを作成するには足りません」
「うーん、そうだよねえ。困ったなあ」
攻撃をされないためには対話をする必要があるのだが、対話のために必要なデータを集めるためにもまた対話が必要になるというわけだ。
そんな事を考えながら、それ以降は襲われずに森を抜ける事が出来た。
だが問題はその先――村に戻ると、何か様子がおかしかったのだ。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『ユーリくん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!




