第19話 魔物は進化するらしい
「す、すごい……! 徐々に成長するんじゃ無くて一気に姿が変わるんだ! マナ文明の動物って凄いなあ、元魔物だからなのかな? 成長じゃ無くて進化だね!」
「銀河連邦下の生物にはあり得ない現象です」
「そうだね……! 今までのマナ文明研究の資料でも、こんな現象見た事無いよ!」
余りにも姿が違うので、進化前と進化後で別種の魔物と考えられてしまうだろう。
実際は進化によって繋がりのある生物を、別種のものとして捉えていたという事例も多いに違いない。
いやそれとも逆に、MS-1の生物だけが特殊という可能性もあるかも知れない。
いずれにせよ実際に生の文明に触れて体験しないと分からない事だ。
これは他の動物や魔物についても遺伝子をを採取して色々調査をしてみたいものだ。
やはりヤールンのように遺伝子を2パターン持っている生物が多いのだろうか。
「アーク、ヤールンの怪我の具合はどうなの?」
素晴らしく興味深い光景を見せて貰ったが、第一に気にすべきはそこだろう。
「チェック開始――これは……信じられません。完全に傷が跡形もありません」
「ええぇっ!? 傷が無くなったの? つまり、進化して完全に肉体が新しく作り替えられたって事なのかな」
「可能性はあります。これだけ急激に形態が変化しているわけですから」
と、メディカルマシンの中にいるヤールンが目を開き、一つ身を震わせてからユーリを見る。長い角がマシンの外枠に当たっていまいそうだ。
「アーク、開けてあげて。この体だとちょっと狭いだろうしね、傷も治ってるんだし」
「了解」
メディカルマシンがオープンすると、ユーリはヤールンの頭を撫でながら尋ねる。
「大丈夫かい? ヤールン、急に凄く大きくなったね」
呼び掛けるとヤールンはユーリに顔を近づけ、ペロペロと頬を舐め始めた。
ヤールンなりにお礼を言おうとしてくれるのだろうか? なかなかにくすぐったい。
「あはは。くすぐったいよヤールン。でも助かって良かったね、安心したよ」
「キュウ! キュオォォン」
元気が良さそうな鳴き声が帰ってきた。
「だけど何でヤールンだけタイプBの遺伝子が活性化してるんだろ? 村にいた他のヤムヤム達はみんなタイプAの姿だったのに……」
「それが、ユーリが眠っている間にヤールンの遺伝子情報の詳細を解析していたのですが、この状況と合わせると、遺伝子の活性化条件が推測できました」
「え? それは?」
「高酸素濃度環境です。進化適性期にどの環境に身を置いているかによって、どの遺伝子が有効になるかが決まってくるものと推測されます」
「なるほど……! メディカルマシンの環境が! 凄い偶然だね!」
ヤールンは元々進化適性期直前の状態であり、今メディカルマシンの高酸素濃度の中に身を置いた事によりタイプBに姿が枝分かれしたのだ。
普通に何事もなく牧場にいたのなら、ヤールンはタイプAの普通のヤムヤムの大人になっていたのだろう。
逆に言うとヤムヤムの子供を連れてきてメディカルマシンの中にいて貰えば、任意にタイプBのヤムヤムに成長させる事が出来るというわけだ。
ヤムヤムだけがそうなのか、ほかの生き物もそうなのか、それは分からない。
ユーリ個人としてはもっと色々な生き物の調査をして、データをまとめて持ち帰りたい所だが――ともあれまずは、ヤールンを無事な姿で牧場に返してあげなければ。
「よしよし、じゃあ元気になったんなら村に帰ろうか? みんな心配してるだろうしね?」
「了解です、ユーリ」
「キュウ!」
流石に『MS-1人語翻訳プログラム』でもヤムヤムの言葉は分からないようだ。
これもいつか解析出来るのだろうか。
「ちょっと待っててね、ヤールン。ついでに持って帰るものを纏めるから」
言ってユーリは、物が散乱した自分のデスクに向き合う。
「ええと、まずは他にもアークの予備バッテリーと……小型の光発電モジュールも絶対欲しいね。浄水化機能を使い続けながらバッテリーが切れないようにしなきゃ。空になったバッテリーの充電は……うん、終わってるね」
言いながらユーリが机の上をひっくり返すので、物がガチャガチャと更に散乱していく。
「……戻る前に整理整頓を推奨します」
「キュウ」
アークの台詞にヤールンが頷いているように見えた。
ともあれ帰る前の荷造りは、追加の予備バッテリーに小型光発電モジュール、それにベッド用のマットレス、後は念のためにレーザーブラスターの予備エネルギーパックだ。
「うーん。でもこれ一気に持って帰るのは結構重いね」
一人では持ちきれない。
アークのフライトボードに積むには積載スペースが足りないだろう。
「コンテナに詰めて私がアンカーで運びましょうか?」
人一人の体重よりは軽いだろうから、引っ張り上げる事は出来るだろう。
「そうだね。じゃあお願いするよ」
そして準備を整え、ヤールンを伴って船外へと出る。
「光学迷彩処理を開始」
そう言うアークは既にフライトボード型に変形しており、ボードの底面から伸びたフックが小型コンテナを吊り上げていた。
「よし、行こうか」
光学迷彩処理の実施を確認し、ユーリは自分の足で歩き出す。
アークのフライトボードはコンテナをアンカーしている。
それに、ヤールンを乗せる事は流石に出来ない。重量があり過ぎる。
ここに来る前とは激変したヤールンの体は、ユーリに抱き上げられていたものが、今では上からユーリを見下ろしてくるくらいだ。
「キュウ!」
ヤールンは一声鳴きながら、鼻先をユーリの足元に潜らせる。
「ん? どうしたのヤールン? あ……! 乗せてくれるの?」
「キュキュウ!」
ヤールンが首でユーリの体を持ち上げ、背中へと持ち上げてくれる。
「わあ! ありがとうヤールン!」
「キュウ!」
「よし、じゃあ行こうか!」
逞しくなったヤールンの体は、ユーリを軽々と乗せて運んでくれる。
アークのフライトボードとはまた違う、新鮮な乗り心地だ。
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