第18話 タイプB
「アーク、タイプBも出力してくれる?」
「了解しました」
遺伝子が二重になっているなんて、見た事も無い生き物だ。
これまでのマナ文明の資料でも、見た事が無い。
というよりも、これまでは分からなかっただけだろう。
現代の科学技術力で、マナ文明の調査など行った事がないのだから。
「映像、出ます」
そうして出力されたのは、大人のヤムヤムとはまるで違っていた。
体つきが大人のヤムヤムより更に一回り、いや二回りは大きい大型獣並みで、額に立派な一本角が生えている。普通のヤムヤムには無かったものだ。
体毛は真っ白だったヤムヤムと比べて、やや灰色がかった銀色。そしてその質自体がかなり硬そうにも見える。
更に何より、首回りから胸にかけてと腹部のあたりにまるで鎧のような硬質の器官が現れている。
「何これ……? こんな子牧場にはいなかったけど……外骨格の一種だろうけど、まるで鎧を着たヤムヤムの騎士だね」
中々精悍で格好いいと思うが、何故こんな遺伝子情報があるのだろう。
「基本的にタイプAの遺伝子が表に出ていると思われます。何らかの条件でタイプBの遺伝子が活性化する可能性があると推測します」
「うん。そうだろうね。タイプAの後は、タイプB用の抗生物質も設計しておこうか」
ユーリはタイプA用の製薬データの設計の後に、タイプB用のものもスケジューリングしておく事にした。
「よし、これで製薬データは作れるから――頑張るんだよ、ヤールン」
後はヤールンの生命力次第だろう。
ユーリは椅子をメディカルマシンの前に持って行き、そこで処置を見守る姿勢を取る。
既に麻酔によって眠らされたヤールンが、メディカルマシンのアームによる外科的手術を受けるフェーズに移行している。
「今の所拒否反応は無い?」
「ありません。脈拍と呼吸も安定」
「うん、 順調だね」
一息をつき、やはり気になるのは先程のタイプBの遺伝子情報だ。
「どうしてタイプBの遺伝子情報があるんだろうね? 他のヤムヤムはみんなタイプAだったし……気候や食べ物でそうなるのかな? MS-1の別地域には、タイプBのヤムヤムがいるのかも知れないね」
「何らかの条件でタイプBの遺伝子が活性化する可能性――否定は出来ません」
「その条件が分かれば、タイプBのヤムヤムも見られるのかな?」
今はヤールンを助ける事が第一だが、いずれヤムヤムの遺伝子情報の謎も研究してみたいテーマだ。
ユーリはそのまま処置を見守り続けた。
幸いな事に拒否反応は起きずに臓器の損傷の縫合処置や輸血を終え、後はマシン内を高酸素濃度状態にして傷の治癒を促進する状態に入った。
まだ麻酔の効いているヤールンは眠り続けており、小康状態だ。
長くヤールンを見守っているうちに眠気が襲ってきて、ユーリは座りながらウトウトとしてしまう。
「ユーリ。居住区で少し休んでは? 何か容態に急変あれば知らせます」
眠い目を擦っていると、アークがそう言ってくれる。
「あ、うん――そうしようかな」
「眠る前に栄養補給も。どうぞ」
と、アークのボディから伸びたアームが、セリーパック形態の総合栄養食を差し出してくれた。そういえばずっと何も食べていない。
「レティーナさんの料理に比べたら、味気ないなあ」
「ですが、栄養素の摂取効率はこちらの方が上回っています」
「そうなんだよねえ」
栄養素の効率的な摂取を突き詰めた結果が、逆にこうなってしまうわけだ。
苦笑しながら受け取って、ゼリーを吸い上げながら居住区へと向かう。
ユーリの引っ越し荷物のマナ文明の資料コレクション達が散乱した状態だが、ベッドの上は綺麗だ。
そこに寝転がるとベッドの脇からメディカルマシンと同じ透明の素材がせり出し、ドーム状に全体を覆う。
ユーリの睡眠状態に合わせて気温や酸素濃度をコントロールしてくれる空調機能もあり、超長距離移動の際のコールドスリープ処理も可能だ。
また、マットレスの素材も睡眠に特化したものであり、レティーナの家のユーリの部屋の木のベッドと比べると感触が全然違う。
食事の美味しさ楽しさはあちらが圧倒的だが、寝具に関してはこちらが上だ。
いつも慣れていたものの良さを再発見した感じだ。
ベッドは一つではなく複数あるので、一つマットレスを剥がして村に持って帰ろうかなどと考えているうちに、ユーリの意識は薄れていった。
◆◇◆
「ユーリ、ユーリ! 起きて下さい……!」
そう声をかけられたのは、時間にすれば深夜帯の時間だった。
「! どうしたの、アーク!? ヤールンの容態に急変が!?」
「はい!」
「大変だ! 抗生物質の調合は終わってる? 終わってるならすぐに投与を――」
ユーリは飛び起きてすぐに隣接した小型ラボに向かう。
「いえ、拒否反応では無いのですが――」
「え? じゃあ何が……?」
尋ねながらラボに足を踏み入れると、アークがユーリを呼びに来た理由が一目で知れた。
メディカルマシンが輝いている。淡い緑色の綺麗な色の光だ。
正確にはメディカルマシンでは無く――その中にいる子ヤムヤムのヤールンだ。
ヤールンの体が発光しているのである。
「こ、これは!?」
「拒否反応は確認できません。脈拍正常、呼吸も安定。この光は原因不明です」
「ヤールン! ヤールン! 大丈夫!?」
心配するユーリをよそに、ヤールンの体から発する輝きはどんどん増して、部屋全体を眩しく照らし出す。
目を細めるユーリの視界に、ヤールンの姿のシルエットだけが映るようになり――
そのシルエットが変化を始めた。
「! 姿が変わってる!?」
「異常発生! 異常発生! メディカルデータが急速に変化して行きます!」
そして輝きが頂点に達し、一瞬前が見えなくなるくらいに弾けてそして消えた。
光が収まった後にメディカルマシンの中を見ると――そこにヤールンはいなかった。
正確には子ヤムヤムの姿のヤールンが、だ。
「こ、これは……タイプBの遺伝子の姿だ!」
普通の大人のヤムヤムより遙かに体が大きく、鎧を身に纏い額に立派な角が生えた姿。
先程見たタイプBの姿のヤムヤムがそこにいた。
つい先程までは可愛い子供のヤムヤムだったのに、いきなり屈強な騎士のような姿のヤムヤムに変わっているのだ。
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