第17話 ヤムヤムの秘密
「光学迷彩処理を解除。認証コード入力。ハッチ開放」
アークのアナウンスと共に、森の中の風景に透過した宇宙船が姿を現す。
主に機関部に近いブロックの外壁が歪んだりひしゃげたりしており、焦げて黒ずんでもいる。これだけを見ても、なかなか一朝一夕に修理できるものではないだろう。
近いうちにでも修理に必要な要件はフルチェックすべきだが――今は子ヤムヤムのヤールンのために、ラボ施設が無事である事を喜ぼうと思う。
「アーク、早速ラボのメディカルマシンを使うよ!」
「了……」
アークの返事が途中で止まる。
バッテリーが再び切れて、宇宙船の床にころんと転がってしまう。
「運んでくれてありがとう、アーク。すぐにバッテリーを交換するからね」
ユーリはアークとヤールンを両方抱えて、小型のマルチ用途ラボに向かう。
メディカルマシンを起動して、透明のケース状になっている本体にヤールンを寝かせる。
本体は大人数人を寝かせて収容できるくらいの大きさがある。
「頑張るんだよ、必ず助けてあげるからね……!」
声をかけヤールンの頭を撫でつつ、ケースを手動で閉じる。
まずは適合チェックだ。ユーリは操作パネルに指先を走らせる。
銀河連邦人用の治療施設をマナ文明の動物に使えるか、だ。
一応ペットの犬や猫に使ったという例はあるようなので、出来ない事は無いと思う。
「ええと、予備バッテリー予備バッテリー……!」
ヤールンの適合チェックを待ちながら、アークの予備バッテリーを引っ張り出す。
ユーリが普段研究に使っているデスクの引き出しは雑然と様々なものが積み上がっているのだが、予備バッテリーはその山の一角に埋もれていた。
「よし、アーク! バッテリーを交換するからね!」
アークのボディを開放し、バッテリーを入れ替える。
するとすぐにアークが再びふわりと浮いて、ボディに再び光が点る。
「ありがとうございます、ユーリ」
「ううん、すぐにバッテリーが見つかって良かったよ!」
「もう少し整理整頓を行う事を推奨します」
「あはは、必要な時にすぐに手が届く所に全部置いておきたくなるんだよね」
ユーリは苦笑いしながらそう答える。
「ともかく、メディカルマシンのオペレーションを引き継ぎます」
「うん。お願いアーク」
ユーリはマシンの前に立ち、中のヤールンを見守る事にする。
ヤールンの腹部の傷は深い。
恐らく中の臓器まで傷ついている。
外科的手術が必要だが、そのためにはまず麻酔が必要になり、輸血も必要になるだろう。
それらの薬品類との適合がどうか――
「適合チェック結果出ました。拒否反応の発生を否定できず。危険性大」
「確率は?」
「50%です」
「高いね……!」
「どうしますか? 外科的手術を含む総合処置を開始しますか? それとも表面の傷口を塞ぐのみの簡易処置に留めますか? 簡易処置ならば拒否反応のリスクは大幅に軽減します」
「簡易処置のみに留めた時の生存率は?」
「……概ね10%前後と推測されます」
「だったら総合処置しかないね……! 処置を開始して!」
五分五分の危険な掛けだが、それでも可能性の高い方を選ぶしか無い。
「了解。総合処置スタートします」
メディカルマシン内に取り付けられた精密作業用アームが動き出し、ヤールンに麻酔薬を注入する。
輸血用のチューブを備えたアームも動き出した。
これで五分五分の状態。
だがここから、まだ助かる可能性を引き上げる事も出来るはずだ。
「アーク。同時に大急ぎでヤールンのゲノム情報を詳細解析して! 採れる限りのデータを!」
「どうしてですか? 適合チェックは済みましたが?」
「いや、麻酔薬や血液製剤に拒否反応が出た場合の抗生物質をヤールンの生体データにあわせて調合するんだ!」
それが出来れば、五分五分の状態から更に助かる可能性を高める事が出来る。
「なるほど……了解です。すぐに詳細解析を始めます」
「うん、僕は薬剤の調合データを作成し始めておくから」
ユーリはデスク上に置いてある自分の作業用デバイスを起動し、早速薬剤の設計を始める。
とにかく時間が無い。基本データはヤムヤムの見た目から連想する銀河連邦環境での山羊や羊のものを使用し、その中間のパラメータを採用。
そこにアークが採取してくれるヤールンの個別パラメータで調整を入れ、拒否反応への対抗策とする。
ユーリは一心不乱にデバイスのキーボードに指を走らせ――
「アーク。今ある分だけでいいから、ヤールンの詳細データをこっちにくれる?」
しかしユーリの呼び掛けに、アークは困惑したような返事を返してくる。
「それが……これはどちらのデータを参照すれば――」
「? どういう事?」
「それが……いえ、とにかく全て転送します」
「うん、分かった」
そしてユーリは送られてきたデータに目を通す。
「ん……!? 何これ、遺伝子情報が二重にある? 別の生物だって事……!?」
「仮にタイプAタイプBとして、どちらがどちらか判定不能です」
「そうだね。遺伝子情報から推測される外見データをシミュレートしよう。それで判断できるはずだよ」
「了解。演算を開始――」
アーク処理を開始し、ボディの光が何度も点滅し、数秒後――
「映像、出します」
アークがホログラム映像を出力してくれる。
「タイプAです」
「これは……牧場にいた大人のヤムヤムだね。じゃあ製薬はタイプAの情報に合わせれば良さそうだね」
言いながら、ユーリの手はタイプAの情報を元に製薬データの設計を進めるように制御を行っている。
それはそれとして、ならばタイプBは何なのだろう?
そこは見ておくべきだろう。それに純粋な興味もある。
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