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銀河連邦学術士官ユーリ・フォイルの、剣と魔法のフィールドワーク  作者: ハヤケン


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第16話 子ヤムヤムのヤールン

「うん、一度……」


 とユーリが言いかけた時――


「姫様! レティーナ姫様っ! 大変ですっ!」


 慌てた様子で走ってくるのは、鎧と兜を身につけた門番のウィルだ。


「どうしたんだ、ウィル? こちらも大変だが――」

「ヤムヤムが、ヤムヤムがまた!」

「何っ!? よし、すぐ行く!」


 レティーナが血相を変えて、ウィルと共に走って行く。


「皆さん! 水は後でまたお配りしますので、再開するのを待っていて下さい。今日か明日には再開できると思いますので!」

「だ、大丈夫なんだね、ユーリちゃん!?」

「ああ良かった、少し休めばまた水を配って貰えるんだな?」

「ありがたい事じゃ。神が我々を見捨てたもうたかと思ったぞい」


 ユーリの発言で、住民達も少し落ち着いたようだ。


「ええ。ですから安心して待っていて下さいね」


 アークのボディを抱いたユーリは、にこりと村人達に笑顔を向ける。


「アルカ、僕達もレティーナさん達の所に行こう!」


 そしてアルカを促して、レティーナ達の後を追う事にする。


「う、うん分かった。ユーリくん!」


 ウィルとレティーナは、森側の村外れの方向に走って行っている。

 それについて行きながら、アルカに尋ねる。


「ヤムヤムって、確か村で飼っている家畜だよね? それが大変って、何かあるの?」

「多分、森から来る魔物に襲われたんだと思う……!」

「え、魔物に!?」

「うん、最近多いの。ヤムヤムは元々は魔物だけど大人しくて動物と変わらないから、魔物に襲われたらひとたまりも――」


 果たしてアルカの言う通りで、村はずれにある牧場の柵が見えてくるとそれと共に風に乗って血の匂いがしてきた。


「これは血の匂い……?」

「やっぱりそうみたい……! みんなあそこに集まってる!」


 アルカが指差すのは牧場の柵の内側で、そこにレティーナや門番のウィルをはじめとして何人かが集まっている。

 そしてその傍らには、倒れている四本足の動物の姿が。


「あの倒れてるのがヤムヤムなの?」

「うん、そうだよ」


 元は魔物と言うがユーリとしては魔物と言うより山羊や羊の間の子というか、それに近いもののように見える。

 足回りや体つきがユーリの知る山羊や羊よりもどっしりしている感じがした。

 雪のように白い毛並みをしているが、その一部は真っ赤な血に染まっている。

 柵の内側に入り近付いてみるとおよそ人ならざる力で体を引き裂かれたか、喉笛を食いちぎられたか、無残な様子だった。


「ああ……酷い……!」


 アルカが悲しそうに目を伏せている。


「レティーナさん、これは魔物に?」

「ああ、またやられたよ……この所、夜中に魔物がヤムヤムを襲いに来る事があるんだ。もう三回目だ」


 レティーナは悔しそうに歯噛みしている。


「ヤムヤムの肉も美味しいんだが、本来は乳を搾ったり毛を刈って布を織ったりするものだ。食べたらいなくなってしまうからな。ユーリに出したヤムヤムの肉は、魔物にやられてしまったから仕方なく食べる事にしたものだったんだ」

「なるほど……大変ですね」


 井戸を掘っても海水が出たり、生活を支える家畜を魔物に襲われたり。

 村のまとめ役であるレティーナも頭が痛いだろう。


「ああ、だが私達はこの島で生きて行くしかないんだ。何とかしなければな……」


 レティーナが難しい顔をしている。


「姫様! こいつは……ヤールンはまだ息が!」


 門番のウィルが倒れているヤムヤムの側にしゃがみ込んで声を上げる。


「何!?」


 ユーリから見えない位置に、体の小さな子供のヤムヤムが倒れていた。

 大人のヤムヤムの影に隠れて見えなかったのだ。


「小さい……ヤムヤムの子供ですね」


 中型犬くらいの大きさだろうか。

 大人のヤムヤムと比べるとかなり小さい。


「ああ、ヤールンって名前なんだ。くそ、こんな子供まで……!」


 ウィルが悔しそうに歯噛みしている。

 ヤールンも息はあるものの腹部に怪我を負い、地面に血の染みが出来ている。

 弱々しい呼吸が今にも止まってしまいそうだ。


「 手当は出来るんですか?」


 とユーリが尋ねると、ウィルは無言で首を振る。


「可哀想だが、もう手の施しようがない――」

「ごめんなさい……! わたしがお爺ちゃんの魔法を全部使えたら、何とか出来たかも知れないのに……!」


 アルカが座り込んで肩を落としてしまう。


「アルカ、何でも抱え込もうとしなくてもいい。お前のせいでは無い。魔物に対して有効な手を打てなかったのは私の落ち度だ」


 レティーナがアルカの肩に手を置いて慰めている。


「じゃあ、僕に任せて頂けますか?」


 ユーリは自分の胸に手を当てて申し出る。


「え? な、何とか出来るのか、ユーリ!?」

「ユーリくん、本当!? ヤールンを助けてあげられるの?」

「必ずとは言えませんが、出来る事をやってみます!」


 ユーリの宇宙船にはマルチ用途のラボ施設があり、治療用のメディカルマシンも設置されている。宇宙船の航行機能は失ったが、ラボのほうはまだ健在だ。

 銀河連邦人を治療するための装置であるため、マナ文明の元魔物の家畜に対応できるかは分からない。

 が、このままではレティーナ達に打つ手は無い様子だ。試してみる価値はあるだろう。


「あ、ありがとうユーリ……! 何とか頼む、せめてこの子だけでも助けてあげたい」

「わ、わたしに何か手伝える事はある!? ユーリくん!」

「ええと、じゃあ……」


 バッテリーの切れたアークとヤールンを両方運ぶのは出来なくは無いが、時間がかかってしまうかも知れない。

 一刻を争う事態なので、急ぐなら運搬を手伝って貰った方がいいかもしれない。

 そうユーリが考えた時――


「――スリープモードから復帰。再起動」


 アークのボディに光が点り、ユーリの手の内からふわりと浮いた。

 ボディのパネルの光発電により、最低限のバッテリー容量は確保できたらしい。


「アーク!」

「済みません、ユーリ。浄水化機能に急速に負荷がかかり、機能停止してしまいました」

「ううん、ごめんねちょっと無理をさせ過ぎたかも……でもゴメン、また無理かも知れないけど、フライトボードは使える? この子を運んで治療したいんだ!」

「ラボのメディカルマシンを?」

「うん、そうだよ」

「積載するのはユーリと原生生物の幼生体――ギリギリですが、何とか届くと思われます」

「よし! じゃあ今すぐ行こう、手遅れにならないうちに!」

「了解」


 アークのボディがフライトボード型に変形する。


「アルカ、僕とヤールン以外を乗せるとアークのバッテリーが足りなくなるから、手伝いはいいよ、ありがとう。何とかしてみるから、待ってて!」


 ユーリはヤールンをフライトボードに積み、それから自分も飛び乗った。


「う、うん……ユーリくん!」

「じゃあ行こう! アーク! なるべく低空でね! 墜落の可能性もあるし、竜人(ドラゴニュート)の皆さんにも見つかるかも知れないから!」

「了解」


 ユーリと傷ついたヤールンを乗せたフライトボードが、村から飛び出して行いった。

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