第15話 バッテリー切れ
「あ、もし照明の魔法が使えるならちょっと使って見せて頂けますか?」
「ん? ああお安いご用さ、行くよ?」
「アーク、キャプチャ準備は?」
「大丈夫です」
「分かった。じゃあお願いします!」
「ほいっ!」
ふっくらとした中年の女性が放った照明の光が、明るい朝を更に明るく照らす。
「はい! どうもありがとうございます!」
「でも明るいのにこんな事してどうするんだい、ユーリちゃん」
「皆さんの魔法のデータを採取させて頂きたくて。魔法の事がもっと知りたいので」
「ふぅん? 勉強熱心な事だねぇ。うちの奴にも見習わせたいよ」
「いえいえ。それよりお手間をかけさせて済みません」
「いやあ、全然いいよ! こっちは大事な大事な水を貰えてるんだしね。じゃ、ありがとさん!」
そう言って、女性は笑顔で去って行く。
今日も井戸で水を配りながら、訪れた村人達に魔法を見せて貰えるようにお願いをしているのだった。
照明の魔法は魔法の中でも最も簡単な類いのものらしく、全員が使えるというわけでは無いが、村人のうちの半数以上は使えるらしい。
給水には皆集まってくるので、ついでに魔法のデータ取りをするにはもってこいだ。
魔法における個人差や、マナ粒子の動きの差異を解析するための貴重な資料になる。
アルカが色々な魔法の契約が出来るのに使えないという現象の解決にも役立つかも知れない。
何事も地道なデータ取りから始まるのである。
それが分かっているので、ユーリにとってはデータ採取はとても楽しい行為だ。
「ふふふ……皆さんのデータを頂いて、後で全部見比べてみるのが楽しみだなぁ。ふふふ……」
「じゃあ私のでーたも取るか、ユーリ?」
と、手伝いに出て来てくれていたレティーナが申し出てくれる。
「はいレティーナさん! 是非!」
「準備完了。いつでもどうぞ」
「よし、それっ!」
レティーナの放った照明の光は、他の村人達よりも輝きが違うような気がする。
それだけレティーナの魔法の力が強いという事だろうか。
「わあ……レティーナさんの照明は何だか輝きが違う気がしますね」
「そうか? あまり意識した事は無いがな?」
「一番最初に僕を助けてくれた炎の剣も見せて貰えたりしませんか?」
「ん? あああれか、構わないぞちょっと待ってくれ」
「やった! アーク、アーク! 絶対取り逃しちゃダメだよ!」
とユーリが声をかけるが、アークからの返事は無かった。
「ん? アーク?」
見るとアークボディから全ての光が消え、海水を処理した真水の送出も止まってしまっていた。
「あれ、水が止まっちまったぞ?」
水瓶に受けていた村人も、首を捻っている。
そして光を失ったアークはそのまま、こてんと地面に落ちて転がってしまった。
「アーク!?」
ユーリが呼んでも、アークからの返答は無い。
「な……!? あ、アークさんが!」
「た、倒れちまったのか!? 動かないぞ……!?」
「ど、どうしちまったんだい!?」
それを見て、村人達が一斉にざわめき出した。
「「「も、もしかしてまた水が……?」」」
アークが動かなくなるという事は、飲み水が手に入らなくなるという事である。
皆がかなり落胆しているのがよく分かる。
それまでの水不足では、相当苦労していたようだ。
そんな中、ユーリはアークのボディを拾い上げ観察をする。
「ど、どうしたの……!? ええと……」
丸いボディを手に持って回し普段は見えていない底面部分を見ると、バッテリー切れの赤いシグナルが点灯していた。
どうやら単なるバッテリー切れのようである。
「ああ良かった。きっと想定外にバッテリー消費が激しかったんだね――」
アークは基本的にパーソナルAIであり、ボディに搭載されている浄水化装置もユーリ個人、あるいは同行する若干名での使用を想定している。
今のように村人全員の飲み水を賄うといった用途のものでは無く、それをフルドライブで使い続けたためこうなったのだろう。
これはユーリの配慮が足りなかった結果だ。
アークはユーリが指示すれば、それに応えようと動いてくれるから。
「ユーリ! アークは? アークはどうなんだ……!?」
「だ、大丈夫なの……!? ユーリくん!」
レティーナもアルカも、焦った様子でアークを覗き込んでくる。
「あ、はい。大丈夫ですよ。単なるバッテリー切れです。故障したとか、もう動かないとかかそういうわけでは無いですから」
「そ、そうか……よかった」
レティーナはほっと胸を撫で下ろしていた。
「でも、どうやったらアークさんは元に戻れるの?」
「そうだなあ……」
アークのボディ全体は採光パネルの機能も有しており、放っておくだけでもバッテリーは少しずつ回復する。
このままでも暫くすれば再起動は可能だろう。
しかしフルチャージには時間がかかるし、また浄水課機能を使えばあっという間にバッテリーが切れる。
一度宇宙船に帰って予備バッテリーと交換した方が速いかも知れない。
村人達の水不足は待ったなしだ。出来るだけ早く給水を再開してあげたい。
そして再開したとしても、また同じペースで処理を行えば動作停止してしまう事を考えると何らかの対処が必要だ。
予備バッテリーと外付けの光発電モジュールを宇宙船から持ってくれば、バッテリーを交換しつつ空になったものを裏で充電するというローテーションが出来る。
そういう意味でも、一度宇宙船に戻った方がいいだろう。
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