第14話 MS-1の夜
「うん。こうして話す事も出来るわけだしな。だが、アークにとっての薪や油のような燃料は何を使っているんだ?」
「充電式のバッテリーです。光を採取し発電を行って充電する事も可能です」
「ばってりー? 光というのは、植物が水と光だけで生きられるようなものか?」
「そうなります。バッテリーは燃料の入った固形物です」
「なるほどなあ、でも植物のように動かないわけでも喋らないわけでも無い。すごいものだなあ。私達を乗せて飛んだり、海水を真水に変えたり、私達の言葉をユーリの言葉に翻訳したり……こんな使い魔を生み出す技術のある国か、一度勉強に行ってみたいものだ」
レティーナは興味深そうにアークを見つめ、ぽんぽんとボディを触っていた。
「本当に進んでいますよね、すごいです」
アルカも興味深そうにアークを見ている。
「られれにょろらこりららひょーらおいひぃれしゅろ、せっらひ!(食べ物はこちらの方が美味しいですよ、絶対!)」
「ふふふ。ユーリ、美味しいのは分かるがちょっとお行儀が悪いぞ?」
そんな風に、楽しい食事の時間は過ぎて――
「さ、ユーリはこの部屋を使ってくれ」
レティーナはユーリを二階にある部屋へと案内してくれた。
一階は大部屋が一つあるだけだが、二階にはいくつかの小部屋があり、そこの空き部屋を使っていいという事だった。
二階にある他の部屋には、レティーナやアルカの私室もあるようだ。
「わぁ……この部屋を僕が使っていいんですか!? すごいですね、ありがとうございます!」
まだ新しい木の匂いに包まれて、家具は木の机とベッドだけの簡素なもの。
だがベッドに敷かれた厚手の毛布のようなシーツはとても手触りが滑らかで、また彩られた模様もとても色鮮やかで美しかった。
部屋の入り口とは別に取り付けられた扉があり、そこからバルコニー部分に出られるようだ。別扉の一部分はガラス張りになっており、窓代わりに外を見る事が出来る。
「ベッドは少し硬いかも知れないが、悪いが我慢してくれ。中はユーリの自由にしてくれていいぞ」
「いえ。木のいい香りがしますし、この毛布も凄く手触りが良くて暖かそうですから、きっとよく眠れそうです!」
「ユーリは興奮状態です。一般的に、興奮状態では寝付きは悪くなると思われます」
アークが冷静に指摘していた。
「し、仕方ないじゃないか。こんなに所に泊まらせて貰うのは初めてなんだから、興奮しない方がおかしいよ……!」
そんなユーリとアークの様子を、レティーナは微笑ましそうに眺めていた。
「私は下か自室にいるから、何かあったら言ってくれ。じゃあ、お休み」
「お休みなさい、ユーリくん」
「はい、二人ともお休みなさい」
部屋に残ると、ユーリはバルコニーの部分に出てみる事にした。
虫の音と潮風が柔らかに耳と鼻を通り抜けていく。
その中でバルコニーから村の風景を眺めるのは、何だかとても豪華な気がする。
そして上を見上げると、満天の星空だ。
宇宙空間からの星々の様子は見慣れた光景だが、こうしてマナ文明の空気の中から見上げるとまた趣が全く異なる。
「わぁ……何だかこうしてみると新鮮だね。気持ちがいいなあ」
無機質な宇宙船や銀河連邦人の居住区から見る宇宙の星は無機質だが、マナ粒子によって育まれた自然の中から見る宇宙の星は温かみがある。そんな気がする。
「天体画像を採取。銀河連邦標準天体座標と照会し、現在の位置を推測します」
「もう。アークもこの雰囲気を楽しめばいいのに」
「私の第一の任務は、ユーリの身の安全を確保する事です。現在位置が分からないというリスクは見逃せません」
「真面目だなあ、アークは。でも今日はありがとう、アークのおかげで村の皆さんにも喜んで貰えたし、助かったよ」
ユーリはアークをひょいと抱き締め、笑顔を向ける。
「ですが、このMS-1への遭難の責任を鑑みれば――」
「いや、それは僕にとってはラッキーだから。アークが気にする事なんて無いよ?」
「……演算結果が出ました」
「お? どう、何か分かった?」
マナ粒子の存在する惑星は銀河連邦内には存在しないから、域外である事は確実である。
しかし域外のマナ粒子文明の惑星はいくつか観測されており、そのどこかが分かれば助けが来る可能性だとか、自力帰還のために必要な宇宙船の航続距離だとか、そう言った情報は得られるかも知れない。
「候補多数。位置特定不可能」
「うーん。ここからの撮影データだけじゃ、情報が少ないんじゃない?」
「その通りです。入力データから推測される候補が多過ぎます。もっと入力データを増やして候補対象を絞る必要があります」
「となると、MS-1に長期滞在してデータを沢山採取するしか無いね。色々な所に行って天体画像を採取すれば、データの種類も増えやすいかな?」
昼夜があるのでMS-1が自転している可能性は高いとして、公転はどうなのだろう?
公転しているならば、同じ所に長くいて継続的にデータを採取すればデータの種類も増えていくだろうが。
いやそもそも、昼も夜もマナ粒子の働きにより制御されている環境である事も否めないと言えば否めない。確定的な事は言えない。
「どっちにしろ、まだまだ楽しめそうだね」
「……ユーリに悲壮感が無い事だけが救いです」
「もちろん! マナ文明への直接フィールドワークなんて、一生に一度の機会だろうからね! さ、そろそろ寝ようか? 明日も頼むね、アーク」
「了解――良い夢を、ユーリ」
そうして、MS-1で最初の夜は過ぎていく――
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