第12話 マナ文明の食卓にお邪魔します
「ユーリもアルカもご苦労様。さあ、夕飯の支度は出来ているぞ! 食べてくれ!」
満面の笑みでレティーナが迎えてくれる。
彼女の言う通り、食卓にはすっかり食事の準備が整っていた。
「うわぁぁぁ……! す、凄い、これがマナ文明の食卓……っ!」
真ん中に陣取る大皿には、厚めにスライスされた肉がいくつも並んでいる。
断面には少し赤みが残り、肉汁と透き通った色のソースが美味しそうに滴っている。
その他に、色鮮やかな魚介類とともに和えられたパスタ。
透き通った綺麗な色の中に溶き卵が浮いたスープ。
瑞々しい緑の色をした野菜をベースに、黒っぽい木の実のようなものが散らされたサラダ。
そのどれもが、ユーリにとってはキラキラと輝く宝石のように見えた。
「匂いも凄くいいですね……! 僕こんなの初めてです! レティーナさんは料理がお上手なんですね!」
ユーリの尊敬の眼差しを受けたレティーナは、鼻が高そうである。
「ふふ……趣味でな。昔は姫じゃなくて料理人になりたいなんて思っていたな。さ、座ってくれ」
「はい! では失礼して!」
と、椅子に座ったユーリの横から、アークが光を発して食卓の上を照らした
「対物サーチ。簡易解析……ユーリ、結果判定まで摂取は待って下さい」
「アーク、そんなの失礼だよ。せっかくレティーナさんが作ってくれたのに」
「アークは何をしているんだ? ユーリ」
「何か魔法を……?」
レティーナとアルカがきょとんとしている。
「失礼ですが、ユーリの体質との適合チェックを行っています。所謂食あたりなどを予防する意味と解釈して頂けると幸いです。ユーリが普段口にしている飲食物とは様式成分共にあまりにも違いますので、念のために――」
「ああ構わないが、そんなに違うものなのか……?」
「ええ、そうですね。こんなに見た目に綺麗じゃないですし、匂いも特にしませんね」
「そうなのか? へえぇ……ユーリの国はギンガ連邦だったよな? そちらではどんなものを食べるんだ?」
「そうですねえ……総合栄養食と言って、凄く薄味の硬いパンのようなものでしょうか? あるいはそれが半固形になったゼリータイプのものとかが殆どですね」
銀河連邦時代における食事というものは、可能な限り効率的に必要な栄養素を摂取するという行為である。
そこにかつてのような味や匂いや彩りを楽しむ、という意味は失われているのだ。
「そういうものなのか……? 食べられる獣や魚がいないと言う事か?」
「いえ。いはしますけれど、様々な理由で食べるのは止めようという事になったんです」
エコや動物保護などの環境意識の高まりから動植物を捕食する事が無くなって行き、一方で技術の進歩は旧時代の食事様式を取らずとも必要な栄養素を科学的に合成する事を可能とし、それに拍車をかけていった。
今このレティーナが用意してくれたような食卓を銀河連邦で再現したら、下手すれば犯罪として捕まりかねない。
「まあとても簡単に言ってしまえば、可哀想だから止めようという事ですね」
「 それなら代わりに何を食べるんだ?」
「そうですよね、食べられる物が無くなっちゃう……」
レティーナの言葉にアルカも頷いている。
「それを何とか出来るだけの技術力が発達したから、そうできたという事ですね。無理に止める事は出来ませんよ。生きている以上、生き続けるのが本能です」
「なるほどなあ、同じ星にいるのに進んだ国もあるものだ」
「そうですねぇ……」
レティーナもアルカも現実味を感じないのかぽかんとしている。
「ですから、僕もこんなのは初めてで――レティーナさんの料理からは、僕達が失ってしまった崇高なる歴史のロマンを感じますよ……!」
特別な許可を受けた観光惑星に行けば口にする事も出来るだろうが、それにはかなりのお金が必要になるだろう。
ユーリもまだ士官学校を出たばかりで、しかも首席の好成績を投げうって閑職の学術士官になったものだから、給料は正直言って安い。
高級な旧時代式の食事には、なかなか手が届かないのだ。
下手すればそれだけで年収が吹っ飛びかねないし、そんなお金があるならばマナ文明の別の資料のコレクションを増やしていただろう。
「解析完了。特段の異常は検知できません」
と、アークのサーチライトが収まり解析結果を告げる。
「やった! じゃあ食べていいよね!? ね!?」
「摂取可能と判断します。構成栄養素の偏りはかなりのものですが」
「この様式の食事は、色々なものを食べて結果的に栄養素のバランスを取るっていうコンセプトなんだよ」
「非効率かつ複雑になってしまいます。やはり調整された総合栄養食が効率的で安定していると判定できます」
「そういう流動性のブレ幅が、マナ文明の魅力だからね。ではレティーナさん、頂いても宜しいですか!?」
「ああ勿論だ、食べてくれ」
「いただきます!」
ユーリはフォークを手に取って、美味しそうに肉汁の滴るカットステーキを口に運ぶ。
一口食べると程よく柔らかい歯応えで肉汁が溢れ出し、肉自体の風味とソースの甘みが混ざり合って口の中に広がっていく。
「!」
ユーリにとってこんな感覚は、生まれて初めての事だった。
口の中に直接快感物質を投入されたかのような、とてつもなく強烈で鮮烈な印象だ。
銀河連邦人としていつも食べてきた総合栄養食とまるで違う。
噛めば噛む程、口の中に広がる快感が強く強く広がっていく。
そしてごくんと飲み込んで――
「うわあぁぁぁっ! 美味しいぃぃぃぃぃっ! な、何ですかこれは! とんでもなく美味しいですよ!」
思わず立ち上がってしまう程の、深く豊潤な味わいだった。
食感も風味も、全てが全力で過剰摂取を誘発しようとしてくるかのようだ。
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