第11話 アルカの事情
「いえ、こちらこそありがとうございました、アルカさん」
「アルカ、でいいですよ。そんなに歳も違わないと思いますし……」
「うん、分かったアルカ。じゃあ僕の事もユーリで」
ユーリが振り向いて笑顔を向けると、こくりとアルカは頷く。
だがその後、物憂げな表情を浮かべる。
「ごめんね、ユーリくん。本当ならわたしが何とかしなきゃいけない事なのに」
「? どういう事?」
「みんなの飲み水ね。本当なら魔法で氷を出して溶かしたり、水を出したりすれば何とか出来たと思う……」
「おぉ……! それは見てみたいな! 魔法って凄いね!」
「うん……でも――」
言いながら、アルカは前方に掌を翳す。
その先に魔法の光が産まれ、ふわりと飛んで行くとユーリの足元を照してくれた。
先程門番のウィルが使っていた、魔法の照明だ。
「わ! 魔法だ魔法だ! アーク、アーク! 今のデータ取れた!?」
「はい、データ採取完了」
「やった! ありがとうアーク」
「ははは、さっきウィルさんが使ってたのと同じだけど……」
「いや、同じ照明の魔法でも、使う人によってマナ粒子の細かな動きに差分が見られるかも知れないからね。沢山のデータを集めて色々見比べてみたいんだ。それによって見えてくるものもあるだろうから」
「マナりゅうし?」
「うん、魔法の素になる力の事だって僕らは解釈してるけど」
「ああマナの事だね」
「アルカ達にはマナ粒子が見えているの?」
ユーリにはマナ粒子の動きは目に見えないし何も感じない。
アークによって動作をキャプチャして貰い、それを見る事でしか分からないのだ。
「よっぽど強いマナじゃないと直接見えはしないけど、感じはするよ? マナが通ったり集中する部分が何だかほわんって、暖かくて――」
アルカ達は粒子レベルの動きを観測する事は出来ないものの、そこにあるエネルギーを体感で認識する事は出来るようだ。
そして魔法として制御をしてみせる。
ユーリには当然出来ないし、アークでも粒子運動の観測ができるだけで、魔法が使えるわけでは無い。
マナ文明の中で生まれ育っているからこそ、自然と獲得された能力だ。
「そうなんだ、すごいなぁ……! 僕にはそんな感覚が無いから、憧れるよ! ねえ、他にも魔法があったら見せて貰えると嬉しいな」
ユーリがそうお願いすると、アルカはまた顔を曇らせてしまう。
「ごめんね、わたしが使える魔法はこれだけなんだ。宮廷魔術師のおじいちゃんだったら出来たと思うけど、わたしには出来なくて。魔法の契約の儀式だけは出来たんだけど……ね」
「え? それはどうして? 僕にはよく分からないけど……契約の儀式が成功すればその魔法を使えるはずなのに、使えないって事?」
「うん……本当ならわたしが宮廷魔術師の後継ぎとして、しっかりしなきゃいけないのに……ユーリくんにばかり迷惑掛けてごめんなさい」
アルカが一生懸命にユーリの水の配給作業を手伝ってくれたのは、そういう事情があったからなのだろう。
本来自分が何とかしなければならない状況なのに、それが出来ないためせめて出来る事を手伝おうと――
「そんな事無いよ、凄いじゃない! 契約って誰でも出来る事じゃないんでしょ?」
「ま、まあそうだけど、結局使えないと一緒だし」
「いや! 可能性はゼロじゃないんだ、契約が出来ないのとは全然違うよ!」
「そ、そうなのかな……?」
「うん。何か原因があって、それを特定して取り除けば使えるんだから、それを調査すればいいんだよ」
「う、うん……?」
「ねえもし使えるようになったら、僕に色々魔法を見せてね? データを採取して色々調べたいんだ! それまで僕とアークが飲み水の事は頑張るから! ね、ね!?」
ユーリの勢いに押されて、アルカはこくこくと頷く。
「わ、分かった。もし出来たら――」
「やったぁ! じゃあ交換条件だね? 交換だから、ごめんも迷惑もないよ。気にしないでね?」
ユーリはにっこりと笑顔をアルカに向ける。
「! あ、ありがとう。優しいんだね、ユーリくん……」
「いえ、ユーリは本気でアルカさんを隅々まで調べたがっています。個人情報保護の観点から、注意を喚起します」
と、アークがアルカに注意を促した。
「こじんじょうほうほご……?」
概念が分からないアルカは首を捻っている。
「ひどいなあ、アーク。僕はこの星の事を何でも知りたいだけで……」
「ははは。よく分からないけど、見せてあげられるようになったらいいな。頑張るね、わたし」
「うん! 何か僕に協力できる事があったら遠慮無く言ってね! それもこの世界を知るいい機会になると思うから……! とにかく何でも知れるだけ知りたいんだ」
「あ、だったらおじいちゃんが遺してくれた魔道書があるけど、今度見てみる?」
「魔道書ッ!? すごおおぉぉぉいっ! 是非是非是非! 是非見てみたいよ!」
何てロマンに溢れる響きの言葉なのだろう。
全マナ文明研究家の延髄の的である事は間違いない。
ここは運良く直接フィールドワークを許される環境に身を置けた自分が、全ての同志達を代表して隅々まで詳細に調べ尽くして、その知識を持って帰らねばなるまい。
「あははは……楽しそうだね、ユーリくん」
「うん。こちらは何もかも新鮮だよ! 凄く楽しいよ!」
「ふふふ、何だかこっちも明るい気分にさせて貰えるね?」
そんな風に話して親睦を深めつつ、ユーリ達はレティーナの待つ家へと戻った。
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