第10話 魔法サンプリング
「ユーリって言うのかい? 綺麗な髪の色と、綺麗な顔してるねえ、あんた男の子? 女の子?」
「やだなあ、おばさん! どこからどう見てもむさ苦しい男じゃないですか! はははは」
「あらそう? あたし女の子かと思っちゃったよ! へえぇぇ男の子なんだ、外国の子って皆こんなに綺麗なのかねえ、銀色の髪も見た事無いしね」
「あ、そうなんですか? アーク聞いた? 銀髪って珍しいんだって、マナ粒子の影響なのかな? 証言を記録しておいてね」
「了解。データベース登録、データベース登録」
ふっくらとした中年の女性から、そんな話を聞く事が出来た。
「本当に有り難い事じゃわい。蓄えた雨水や、ヤムヤムの乳だけじゃあ限界があったからのぉ」
「ヤムヤムって何ですか? おじいさん?」
「うん? 知らんか? 元は魔物を飼い慣らした家畜でな。乳は飲めるし肉は食えるし毛は織物に出来る。大人しいし可愛い奴等じゃよ」
「へえぇぇ~。魔物を家畜に! こちらの島にそのヤムヤムが生息しているんですか?」
森の中にはいなかったが。
見たのは樹木に擬態した魔物と竜人達だけだった。
「いや、ワシらが大陸の方から渡ってくる時に、船に乗せて連れてきたんじゃよ。この島に原生しているヤムヤムはおらんと思うぞい」
「ああ、なるほど……戦争があって、それまでの領地を追放されたとか――皆さんご苦労なさったんですね」
「本当じゃ! おのれアガレスの奴等め! この島で勢力を蓄えて、今度はこちらから攻め込んでやるぞい!」
「あ、あははは……お元気ですね、おじいさん」
「おうよ! ワシはこう見えても若い頃は魔法兵だったんじゃ! 王宮にお仕えして、姫様の守り役をしとったんじゃ! 祖国奪還の戦の際には、このワシが先頭に立って……あがっ!? こ、腰が……!」
「だ、大丈夫ですか!? おじいさん!」
どうやら興奮して、腰を痛めてしまったらしい。
村人達がそのお爺さんを抱え起こして家に連れ帰っていった。
「いや~マジで助かるよ! ちょっと今ここで水飲んで、また入れて貰っていい?」
そう嬉しそうに言うのは、鎧と兜を身に付けた、兵士風の青年だった。
「ええ、どうぞ! つかぬ事をお伺いしますが、その格好は?」
「ああ。村の門番だからさ、俺。ウィルって言うんだよろしくな」
「なるほど、ご苦労様です……! あ、ちょっと暗くなってきたなぁ」
皆が持ってくる水桶や水瓶に水を入れる作業をしながら色々話を聞いているのだが、その手元が見え辛くなって来た。
「アーク、ごめんライトを」
「了解です、ユーリ」
だがその前に――
「ほいっ」
門番のウィルの手元から光球が放たれ、それが照明として明るく周囲を照らす。
「! わあぁぁぁっ! 魔法だ魔法だ! 今の魔法ですよね、ウィルさん!? すごおおおぉぉぉぉいっ!」
顔を輝かせて喜ぶユーリである。
「ははは、大袈裟だなあ。こんなのみんな使えるぜ? それに、お前達の方がよっぽど凄い魔法を使ってるじゃないか。海水を飲めるようにする魔法なんて見た事無いよ」
「いえ、原理が全く違うというか、僕にとってはウィルさんの使う魔法の方が希少で珍しいものなんです! 実に興味深いです!」
「お、おう? そ、そうか? まあ喜んで貰えるのは何よりだけどさ」
「はい、それはもう! アーク、今の録画できた!? 貴重な資料映像だから残しておいてね……!」
「はい。映像記録は問題ありません、ユーリ。マナ粒子の動作キャプチャの採取には未起動だったため失敗」
「えぇぇぇぇ~?」
「データ採取のためには、魔法の再実行を要請します」
「ウィルさん、お手数ですがもう一度今の魔法をお願いできますか!?」
「お、おう……い、いいぜ」
マナ粒子文明の人々から色々な話を聞け、貴重な魔法の実行データまで採取でき、ユーリとしてはとても楽しい配給作業だった。
作業を終えて皆が帰っていった頃には、周囲はすっかり夜だった。
「ふぅ。皆さんと沢山話せたし、楽しかったなあ」
「お疲れ様です、ユーリ。レティーナさんがお宅でお待ちのはずです」
確か食事の支度をして待っていてくれると言っていた。
マナ文明の食卓とはどんなものなのだろう?
「うんそうだったね、そろそろ帰ろうか。アルカさん、お手伝いどうもありがとうございました」
アルカはかなり疲れた様子で、大きく息をついていた。
「はぁ……あ、はい。お疲れ様です」
「だ、大丈夫ですか?」
ちょっと心配になるくらいだ。少し無理をしているのでは無いだろうか?
皆に水を配る作業中も、一心不乱に頑張って動いていた。
「はい! 全然……! さあ、姫様もお待ちですから戻りましょう」
と、先に歩き出したアルカはふらついて転んでしまう。
「あっ……!」
「アルカさん!」
ユーリは転んだアルカに駆け寄って、手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございますユーリさん。あ、痛っ……!」
「足を……!? アーク、メディカルチェックを」
「了解」
アークのボディから緑色の光が発生し、それがアルカの足を照らす。
「脚部骨格および間接部に損傷無し。ただし、多少の炎症を認めます。患部の冷却処置を推奨します」
アークのボディの一部がスライドし、小さなアームで冷却用シートが差し出される。
「挫いたって事だね? ありがとうアーク。アルカさん、そのまま動かないで下さいね」
ユーリはアルカの挫いた足にぺたんとシートを貼る。
「わ……つ、冷たい、何これ……?」
「これを貼っておくと、痛みが引くのが速くなると思います。暫くそのままにしておいて下さいね?」
微笑みながらそう告げて、アルカの前に背を向けて屈む。
「さ、どうぞ乗って下さい。背負っていきますから」
「い、いえでもわたし歩け……っいたたた……」
「無理はいけませんよ。さあどうぞ」
「は、はい……ありがとうございますユーリさん」
アルカを背負って、ユーリはレティーナの家に向かって歩き出す。
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