お互いのこと
「ミオ……ミオって言うのか。良い名前だな!」
大切な名前を褒められて少し嬉しくなる
胸の奥が、くすぐったいようにじんわりと温かくなるのに、自分でも戸惑った。
「うーん……じゃあ、好きなものとか食べ物は?」
「……好きなもの。うーん、よく分からないけど可愛い?ものかな。好きな食べ物は甘いやつ」
‘’好き”その言葉の意味を、少しだけ考えてみる。
けれど、すぐに答えは出なかった。
これまで、そんなことを深く考える機会なんてなかったから。頭の中には、ぼんやりとした輪郭しか浮かばない。
「へー、そうなんだ。可愛いのも似合いそうだな」
彼はどこか楽しそうに笑った
「そ、そういう……し、信弥君は?」
名前で誰かを呼ぶことに慣れていないのか
たどたどしく話す彼女
「呼び捨てで良いよ。俺ら12歳同士だろ?」
「そ、そうだけど、いつもは番号で呼んでたから慣れなくて。いつもの452番って呼び方がしっくりくるから」
番号――
名前ではなく、識別として呼ばれること
それが当たり前だった。
「でもさ、入隊したら名前で呼ぶようになるんだから、今のうちに慣れようぜ」
彼は軽い調子でそう言った。
まるで、
名前で呼ばれる未来が当たり前みたいに。
「そ、そうだけど。うー、慣れない」
「ははっ、焦んなよ。あ、俺の好きなものは家族だろ、小刀だろ、それから……たくさんだ。好きな食べ物は具沢山のオムレツ!」
彼は指折りながら、数える。
話している彼の表情は、見ているこっちまで
楽しくなるくらい明るかった。
―――
話は弾み、少しだけお互いのことが分かり始めた頃
「俺はできるだけ、握りやすくて力が入れやすいのが良いな。横とかに振っても、あんまり芯がぶれないやつ。こうっ!」
刀を振る動作をした瞬間――
「……っ」
彼は右腕を痛めているのか僅かに顔を顰める。
ほんの一瞬だったが、
見逃せるほど小さくはなかった
「腕、大丈夫?」
思わず声が出る。
気づけば、心配の方が先に口をついていた。
「ん?ああ、ちょっと筋肉痛で。大丈夫だ
何も問題ねぇよ」
軽く笑って誤魔化すその様子に、
ほんの少しだけ引っかかりを覚える。
けれど、それ以上踏み込む勇気はなかった。
「……なら、良いけど無理しないでね」
「おう!ありがとな、心配してくれて」
何気ないその言葉に、また胸が温かくなる。
私の言葉を受け取ってもらえる
それだけで、嬉しくなる
「あ、空暗くなってきたし、もう少しで夕食の時間だ。間に合わないと怒られる、帰るぞ」
頷きながら、視線を空へ向ける。
確かに暗くなっているのに——心のどこかで、それを惜しんでいた。
もう少しだけ、この時間が続けばいいのに。
「……うん、そうだね」
彼女は少し寂しそうな表情になる
彼は目を丸くした後、ふっと笑った。
「俺、また遊びに来るからさ。またたくさん話そう。ついでにいろんな所も行ってみようぜ」
彼は‘’また‘’と言ってくれた。
次がある。終わりじゃない
それがこんなにも嬉しいなんて知らなかった
彼から貰う温かいものが優しく心に響く
「うん、また会おう!」
森に入る前とは変わって、温かい気持ちに包まれながら。私は少しだけ、明るく笑った。




