はじめまして
赤くなった顔を隠すように彼の視線が逸れる。
私はグイッと目元の涙を拭った。
先程までと違い、心が少しだけ
落ち着きを取り戻していた。
「ふふっ、怖くないなんて変な人だね」
口元が勝手に緩み、笑いが溢れる。
再び戻った彼の視線が私を見つめている
「べ、別に……怖くないから
怖くないって言っただけだ。
そんな風に笑うとますます怖くなんてないね」
彼は拗ねたように言った。耳が少し赤くなっていて、恥ずかしがっているのが丸わかりだった。
そして、彼はそのまま
しゃがんでいる姿勢から、ゆっくりと立ち上がり
私の隣へ腰を下ろした
「俺さ」
彼は軽く膝に肘を乗せながら、
前を向いたまま口を開く
「前から見てたんだよ。
お前、何かあるといつも森の方行くだろ」
「……っ」
図星を突かれて、言葉が詰まる
「だから今回も、もしかしてと思って
来てみたら――当たり」
小さく笑う気配を感じる
「森の奥にこんな場所があるなんて知らなかった。良い所だな、ここ」
「………静かで、落ち着くの」
柔らかい日差しが、辺りを照らす。
私は風に揺られる花々を見る
「………確かに、気持ちいいな」
隣から返ってくる、素直な声。
それ以上は何も言わず、ただ同じ景色を見ていた。
草花の合間を流れる風の音
それに呼応して笑いかける木々たち
「……」
少しの間、沈黙が落ちる。
けれどそれは、今まで知っていたものとは違っていた。逃げたくなるような静けさじゃない。
(……なんでだろう)
少しだけ、安心している自分がいた
「……なぁ」
不意に彼の声がする
「俺さ、お前のこと‘’放っておけない‘’って言ってたけど、よく考えたら、お前のこと何も知らねぇわ」
「………」
彼は私の方へ体を向ける。
私も同じように顔を向けた
「なぁ、お前、名前なんて言うんだ?」
少しだけ、明るい調子に戻る
「あ!ちなみに俺の名前は一ノ瀬 信弥 」
自分で名乗ってから、少しだけ照れたように笑う
「え、えっと……」
喉が僅かに震える。名前を言うだけなのに
――その時
琉< 「俺ァ、お前のことを大切に想ってる。
“ミオ”お前に大事なもん、託したからな。
大事な名前……勝手に捨てたりしたら許さねぇから」 >
ぶっきらぼうで、面倒くさがり屋で
それなのに誰よりも温かかった声。
じんわりと
温かいものが心を包み込んでいく
‘’大事な名前‘’
「名前は……ミオ!」




