涙
皆、私と目を合わせようとしない
私に近づく人はおらず、みんなどこか
怯えたように距離を置く
気づけば、それが当たり前になっていたのに
――
(……何故?)
胸の奥に抱いた疑問をそのまま口に出した。
どうして逃げないの?
どうしてこんな私を怖がらないの?
彼はすぐには答えなかった。
少しだけ考えて、それから口を開いた
「‘’心に笑顔を咲かせれば、人は幸せになれる‘’」
「え……?」
不意に告げられた言葉に戸惑っている私へ、
彼はゆっくりと歩み寄り
私の目の高さに合わせて、姿勢を低くした。
「父さんが、そう言ってた。だけど、
お前が笑ってる顔なんて、見たことないし」
真っ直ぐな声だった。彼はそこで一度言葉を切り、
少しだけ眉を下げて言った。
「俺、泣いてる顔しか見てない」
彼はそうキッパリと言った。
私は思わずムッとして言い返した。
「…わ、私泣いてなんかない」
「いいや」
反射的に否定した私の言葉を、彼は静かに遮った。
「涙がでてないだけで、お前はずっと泣いてる。
お前が気づいてないだけで、泣いてるんだ」
「--っ!」
胸がドクンと鳴った。なぜか言葉が胸に突き刺さる
「泣いてるのに、無理する必要なんてない。
だって、……心が泣いてるんだから」
彼は真っ直ぐ目を逸らさず、
ひとつひとつ丁寧に優しい言葉を紡いでいく
「泣き止むまで、自分の心に身を任せればいいんだ。離れ離れになった心と体が合わさるまで、ゆっくりと休めばいい。一緒に在るはずのものが、離れているんだ。誰も責めたり、苦しめようとしたりしないよ」
そこへ風が優しく吹き
花たちは穏やかに舞う
「………」
私は何も言えなかった。
でも、ふわっと心が少しだけ軽くなった気がした
「だから、‘’泣いてるお前なんて、全然怖くない”」
その言葉に胸が揺れる。
どこからか微かに耳へ、森のせせらぎの音が聞こえてきた。
「父さんが‘’心が雨で濡れている人がいたら、
助けが必要なんだ‘’って言ってた。
‘’雨の中だと、芽を出すだけでも勇気がいる。
俺たちは、ただ傍に寄り添って傘になればいい。
たったそれだけで、その人は芽を出しても大丈夫だって安心出来るんだ。
焦らなくていい。少しずつ大きく育てば、
雨だっていつしか恵みの雨に変わる‘’って」
私は何も言えなかった。
けれど、開かれた目からは
一雫の涙が頬を静かに伝っていた。
胸の奥に溜まっていた何かが、
ゆっくりと解けていくみたいだった。
「……余計なお世話かもしれないけど」
彼は少しだけ視線を逸らして、頭をかく
「俺はお前のこと放っておけないからな」
ぶっきらぼうな言い方。
けれど、その奥にあるのは
あまりにも真っ直ぐな優しさだった
「文句があるなら……と、父さんに言え。」
彼は恥ずかしそうに言った。




