教えてよ
彼は立ち上がり、棟の方へ歩き出した
胸の奥に、ほんの少しの寂しさが残る。
私は黙って彼の背中を見つめる
彼の姿が木々の間へ溶け込みかけた――その時
「……あっ!」
突然、彼は足を止め、勢いよく私の方へ振り返る
そして恥ずかしいのか照れたように言った
「あ、あと……そ、その。
俺もお前みたいに強くなりたい
だから、俺に剣術を教えてくれ」
冗談でも、社交辞令でもない。
彼の瞳は、ただ真っ直ぐにこちらを見ていた。
(……どうして)
胸の奥が、きゅっと小さく締めつけられる。
今まで、誰かに何かを「教えてほしい」
なんて言われたことはなかった。
必要とされたことも。
むしろ――
思い出しかけて、ミオは無意識に視線を逸らした。
番号で呼ばれる日々。
皆が変わったあの日から、
怖がられることはあっても、誰かが
自分から進んで近づいてくることはなかった
彼は分厚い壊れなかった壁をものともせず
‘’私‘’に触れてきてくれた
「……私でいいの?」
彼はきょとんとした顔になった後
笑いながら、大きく頷いた
「ミオがいいんだ」
迷いのない返事だった
「だって、お前ってめちゃくちゃ強いじゃん
それに、太刀筋が……なんか、こう
かっこいいし、綺麗だ」
「…綺麗?」
聞き返すと、彼は少し照れたように笑った
「上手く言えねぇけど、芯が通ってて
思いがこもってて、すごくまっすぐだ」
今まで向けられたことのない言葉だった。
怖いでもない。
化け物でもない。
そんな風に、
自分を見てくれる人がいるなんて思わなかった
揺れる木々の音の中で、
彼は少し不安そうに眉を下げた。
「……ダメ、か?」
その顔がどこか子供っぽくて、
私は思わず小さく吹き出しそうになる。
そして。
「……ふふっ」
気づけば、
自然に笑っていた。
「いいよ。教えてあげる」
そう答えた瞬間、
彼の顔がぱっと明るくなる。
「ほんとか!?」
「う、うん……」
勢いよく距離を詰めてくる彼に、
少しだけたじろぐ。
けれど不思議と嫌じゃない。
むしろ。
胸の奥に、
じんわり温かいものが広がっていく。
誰かに必要とされること。
それがこんなにも嬉しいなんて、
私はまだ知らなかった。




