番外編 ダニエルの物語 その3
*本日一回目の投稿です。このすぐ後にダニエルの最終話を投稿します(*^-^*)
ダニエルは順調にシャーロットとの交流を重ね、二人の距離は徐々に縮まっていった。
シャーロットも少しずつ周囲の人間に打ち解けるようになり、ダニエルとは普通に会話をする仲になった。
彼と一緒に散歩したり、好きな食べ物や本の話をしたりするのがシャーロットの何よりの楽しみで、伯爵家ではそんなほのぼのした二人を温かく見守っている。
また、ダニエルが「シャーロットは痩せすぎだよ。もっと食べた方がいいよ」と言ったために、健気なシャーロットは残さずに食事を摂るようになり顔色も良くなった。
少しずつ人とも交われるようになり、数は少ないが友達もできた。一度だけだがお茶会に出席したこともある。
伯爵はシャーロットの変化に狂喜乱舞し、ダニエルとシャーロットの婚約を積極的に進めようとしていた。
しかし、ダニエルはシャーロットの気持ちを尊重したい。無理強いはしたくない。
その頃には彼女に対する自分の想いを自覚していたが、告白すると彼女に余計なプレッシャーがかかってしまうのではないかと不安を感じていたのだ。
ただ、リオンヌ公爵はテニソン伯爵が婚約に乗り気だと聞くと、すぐに話を進めようとする。
ダニエルはその前に、まずシャーロットの気持ちを確かめることにした。
***
「シャーロット。君は僕との婚約をどう思う?もし、君が少しでも嫌だと思っているならハッキリ言って欲しい。僕が何とか止めてみせるから」
ある日の午後、シャーロットと仲良くおやつを食べている時にダニエルは気軽な口調で質問してみた。彼にとっては重要な質問だが、深刻なトーンにならないように気をつけた。
しかし、それを聞いたシャーロットの顔は瞬時に青褪めた。そのまま俯いて肩を落とす。
つぶらな瞳に大粒の涙が溜まっていてダニエルは焦った。
「ど、どうしたの?シャーロット?大丈夫?僕、嫌なことを聞いた?」
シャーロットは、ひっくひっくと泣きじゃくるほどに号泣し始める。
ダニエルは完全にパニックになった。
(僕は何をしてしまったんだ~!?)
「ごめん・・・ごめん。そんなに僕との婚約が嫌?」
シャーロットはボロボロと涙を流しながらも首を大きく横に振る。
「じゃあ、僕と婚約してもいいと思う?そしたら・・・僕は嬉しいけど・・君の気持ちを一番大切にしたいんだ」
その瞬間にシャーロットは大きな瞳を見開いてじぃっとダニエルを睨みつけた。ポロリと大粒の涙が目尻から頬を伝う。
「・・・・っ、ダニエルが婚約したくないんじゃない、の?」
絞り出すようにシャーロットが叫んで、ダニエルの頭が真っ白になった。
「え?は?え?!なんでそうなるんだ?僕は・・・僕は君と婚約したい。僕は・・・シャーロットが好きだから。でも、君に無理させたくない。僕と婚約しなくちゃいけないって義務に感じて欲しくないんだ」
ポカンと口を開けてシャーロットがダニエルを見つめると、まだ残っていた涙が目尻からポロリとこぼれた。
シャーロットの顔が真っ赤になった。そして、ダニエルの胸の中に勢いよく飛び込み、彼の胸に顔と頭をグリグリと押しつける。
「ど、ど、どうしたの?シャーロット」
取りあえず嫌われている訳ではなさそうだ、と安堵しながら必死でシャーロットに呼びかけた。
「・・・・・・・・・っ」
彼女の声がくぐもってよく聞き取れない。
「シャーロット。ごめん。なんて言っているのか分からなかった。もう一度言ってくれる?」
「ダ、ダニエルはモテるでしょ?カッコいいって、みんな言ってたもん。無理矢理私なんかと婚約させられたら可哀想だって・・・」
「はぁ!?」
つい大きな声が出てしまい、シャーロットがビクッとした。
「ごめん!怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ・・・びっくりして。無理矢理なんてことはないよ。僕は・・・シャーロットが好きだから」
慌てて謝って弁明するが、シャーロットは彼を責めるように睨みつける。
「嘘!」
「嘘じゃないよ!」
「・・・だって・・・お茶会でダニエルは私なんかの婚約者にはもったいないって・・・。ダニエルは本当は私と婚約なんてしたくないって・・・。そんなことないって信じてたけど、そんな風に聞かれるってことはやっぱり・・・」
再び、シャーロットの瞳に涙が盛り上がった。
ダニエルは無性に腹が立った。イライラ、ムカムカが止まらない。
(僕のシャーロットに何を吹き込んでくれてるんだ!?あ!?)
内心の荒ぶる声を抑えつつダニエルはシャーロットに微笑みかけた。
「シャーロット、ごめん。僕の言い方が悪かった。でも、彼女たちの言うことは出鱈目だよ。貴族令嬢のお茶会なんて嘘ばっかりだ。僕の言うことが信じられない?」
甘い声で囁きながら、まだ腕の中にいるシャーロットを抱きしめた。
「え・・・・?」
シャーロットがポカンと顔を上げる。
ダニエルはようやくシャーロットが泣き止んでくれてホッとした。
「ダニエル・・・?さっき言ったこと、ホント?・・・私のことが・・その」
顔を真っ赤にするシャーロットは悶えるほど可愛い。
「うん。僕はシャーロットが好きだ。今まで言えなかったのは、もし、シャーロットが僕を好きじゃなかったら、困らせてしまうんじゃないかと思って・・・」
シャーロットの頬がぷぅっとふくれた。
「どうして、私がダニエルを好きじゃないなんて思うの?好きじゃなかったら、こんなに一緒にいないよ・・・」
今度はダニエルが顔を赤くする番だ。
「えっと・・・じゃぁ、僕は希望を持ってもいいってこと、かな?」
嬉しくて胸をどきどきさせながら彼女の顔を覗き込む。
「私も、私もダニエルが好きよ・・・」
蚊の鳴くような小さな声で囁いたシャーロットをダニエルは思い切り抱きしめた。
その後、無事に二人の婚約が決まったのである。




