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番外編 ダニエルの物語 その4

*本日二回目の投稿です。ダニエルの物語の最終話です!読んで下さってありがとうございます!

二人の婚約が正式に決まった一方で、姉のエステルは殺人的なスケジュールで寝る間も惜しんで妃教育を受けていた。


さらに魔法学院入学後は寮に入ったので、エステルは結局シャーロットと会う機会を作れなかった。


ただ、ダニエルから話を聞いて好きな人と婚約できた二人を心から祝福していた。大好きな弟には幸せな結婚をしてもらいたい、とエステルは笑った。


在学中も、忙しすぎて全く家に帰ってこられないエステルのことを、ダニエルはずっと気にかけていた。


そして、卒業パーティでの婚約破棄のことを聞き、怒りの炎がダニエルの体中を駆け巡った。


(姉上の献身を返せっっっ!!!)


あのろくでなしの王太子に叫びたい。


エステルがどれほど王太子のために尽くしてきたのか、犠牲にしてきたのかを奴は全然分かっていない。


もっと許せなかったのが実の両親と兄夫婦の態度だった。


まるで全てエステルの責任だとばかりに彼女を罵倒し、勘当して屋敷から追い出した。


王太子が国外追放を宣告したのだからそれに従って国を出ていけ! と怒鳴りつける父親を見て、ダニエルは絶望した。


ものごころついた時から、何度も失望してきた。


今回は完全なる絶望である。


こいつらにはつける薬がない。

まともになる見込みはない。

どうしようもない。


追い出されていくエステルを見送ることしか出来なかったダニエルは、自分の不甲斐なさに涙が止まらなかった。


情けないが、シャーロットの前でもずっと泣いていた。彼女は悲しそうに、黙ってダニエルの背中を擦り続けてくれた。


*****


その後、不思議な巡り合わせでダニエルとシャーロットは王太子候補として王宮に呼ばれ、そこで何故か茶色いカツラを被り眼鏡をかけた上に偽名を使っている姉エステルに出会うこととなる。


変装をしていてもすぐにエステルだと分かった。分からない両親や兄の方がどうかしているんだ。


何か事情があるのだろう、と黙っていたが、彼女が王太女に指名された時にはとても驚いた。


しかしダニエルは、エステルなら素晴らしい女王になるだろうと興奮した。流石、女王陛下は見る目があると感心したのだが、父親と兄は非常に気に入らなかったらしい。


ただ・・・・まさか、父と兄が犯罪にまで手を染めるとは予想もしなかった。


リオンヌ公爵邸で監禁されていたルイーズ・ド・コリニー伯爵令嬢を地下室から救出した後のことはよく覚えていない。


王宮に通報すると驚くほどの速さで近衛騎士団が現れ、屋敷にいた人間を全員拘束した。


その後の調べで、伯爵令嬢誘拐・監禁に関わらなかったダニエルや使用人たちはすぐに解放された。


しかし、両親や兄夫婦らが逮捕され、その後の裁判を傍聴しながらダニエルは虚ろな気持ちになっていた。


(もうリオンヌ公爵家はお終いだ・・・。でも・・・シャーロットを巻き込んではいけない)


*****


テニソン伯爵家を訪問したダニエルは、伯爵とシャーロットに向かって深く頭を下げた。


「この度は父と兄が大変な事件を起こしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」


いつもは和やかな笑顔で迎えてくれる伯爵の表情は硬い。


「ああ・・・大変なことになった。リオンヌ公爵家がどうなるのか・・・君は何も聞いていないのか?」


「まったく何も・・・。取り潰されても驚きません。父のした行為を考えると最低でも爵位剥奪は当然かと」


「そうか・・・」


伯爵が深刻な顔で考え込んだ。彼の隣に座るシャーロットは泣きそうな顔をしている。


「僕としてはテニソン伯爵家にご迷惑を掛けたくありません。ですから、シャーロットとの婚約を破棄させて頂いて・・・シャーロットにはもっと相応しい男性がいるでしょう」


ダニエルはこの台詞を何度も何度も頭の中で練習した。これは自分が言わなくてはいけない台詞だと思ったから。それでも、やはり胸が痛くて言葉に詰まってしまった。


(シャーロット、愛している・・・でも、幸せになって欲しいから、僕とは縁を切った方がいい)


出来るだけ彼女の方を見ないようにして言った後、誰も何も言わない沈黙が続いた。


沈黙が辛くなり、顔を上げてチラリとシャーロットを見ると今まで見たことのない顔をしていた。


その瞳には強靭な意思が宿っている。凛々しい顔つきでシャーロットは叫んだ。


「何があっても、たとえこの世界が滅亡したとしても、絶対に婚約は破棄しません!ですよね?!お父さま!」


「あ、ああ」


シャーロットの勢いに気圧されて伯爵は頷いた。


「ダニエルは・・・ダニエルは・・・私が他の男性と結婚しても、それでもいいの?本当にいいの?!」


「それは・・・辛いよ。正直言うと死んだ方がましだと思うくらい嫌だ。だけど・・・僕は罪人の家族なんだ。だから、君を幸せにすることは出来ない」


「なんで!?どうして!?ダニエルは何も悪いことしてないじゃない!?私は何があってもダニエルから離れないもん。ダニエルが平民になっても、牢獄に入れられても絶対についていくもん!私も一緒に牢獄に入るもん!」


普段口数が少なく、声も小さいシャーロットが必死に叫んでいる。


その事実にダニエルは密かに感動した。しかし・・・


「君を牢獄なんかに入れる訳にはいかないよ」


「絶対に入るもん!何があってもついていくもん!」


駄々をこねる子どものように泣き喚くシャーロット。


こんなに感情を露わにする彼女を初めて見た。伯爵も呆然と彼女を見つめている。


「ダニエル!こんなに好きにさせておいて逃げようなんて絶対に許さないんだから!責任を取って!私たちは一生一緒にいるんだから!何があっても離れないんだから!」


そう叫ぶとシャーロットは床に泣き崩れた。


ダニエルは思わず彼女に駆け寄り、その華奢な身体を抱きしめた。


「ごめん・・・僕も君と離れたくない。でも、テニソン伯爵家に迷惑を掛ける訳にはいかないんだ」


するとゴホッと伯爵が咳払いをした。


「・・・テニソン伯爵家が君を見捨てると思っているのか?心外だな」


「え?」


ダニエルがポカンと見上げると伯爵はニヤリと笑った。


「君は無実だ。コリニー伯爵令嬢を救出して王宮に通報したのがその証拠。更に、被害者の証言からも君が陰謀に加わっていないことは明らかだ。テニソン伯爵家としては君の無実を強調して、君が処罰に連座することがないように尽力しよう。なぁに、たとえリオンヌ公爵家が無くなったとしても、君はこのテニソン伯爵家を継ぐ予定なのだから全く問題ないだろう?」


伯爵の言葉を理解するまでにしばらくの沈黙が必要であった。


しかしそれを理解するとダニエルとシャーロットは真っ直ぐに見つめ合い、お互いを強く抱きしめた。


シャーロットが「お父さま!素敵!大好き!」と叫び、ダニエルは有難くてむせび泣いた。


***


紆余曲折あったが最終的にダニエルはリオンヌ公爵家を継ぐことになり、爵位は維持されることになった。


それでも事件の後始末は大変だ。多くの残務処理があるし、公爵家の立て直しは簡単ではない。


テニソン伯爵家の後継ぎをどうするのか? ということも考えなくてはならない。


問題が山積しているのは認めよう。胃に穴が開きそうなくらいの負担である。


しかし、隣にいて微笑んでくれるシャーロットがいれば、出来ないことはないと思ってしまうのだ。男なんて単純なものだから。


「ダニエル?どうしたの?ニヤニヤして」


シャーロットに声をかけられて彼は朗らかに答えた。


「いや、僕は家族で散々苦労したけど・・・君と出会えて、家族になれたことが人生で一番の幸運なんだと思う。おつりがくるくらいだ」


それを聞いて彼女は噴き出した。


「なにそれ!?」


昔と変わらない笑顔を見て、ダニエルは思わず彼女を抱き寄せる。


「愛してる。ずっと一緒だよ」


愛おしい妻に優しく口づけをした。

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