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この星の近くにも、太陽と同じような恒星があるので、地球と同じように昼夜があります。
昼間は、恒星から強い光が注がれます。そのおかげで、光発電で十分な電力が賄えますが、この星にはオゾン層がないぶん、強すぎて有害な光が直接届きます。私は今のところ平気ですが、生身の人間ではとても耐えられないでしょう。気温も少々高いです。
夜は逆に、気温がぐっと低くなります。ちょっと低すぎる気もしますが、昼間に比べれば過ごしやすいです。空には地球とは少し違う夜空が広がります。まず月がありません。そしてこの星には明かりがないので、弱い光でも届くのでしょう、地球の夜空の倍以上の星が見えます。
最近、よく星空を見上げます。
この星からは、ほぼ一年を通して夜に地球が見えます。
近くから見ると青く美しい地球も、ここから見れば、他の星々と同じような小さな光の点でしかありません。それを見るたびに、自分と地球があまりにも遠く離れていることを思い知らされます。
そしてその小さな光を見ていると、無性に手を伸ばしたくなるのです。
…私は寂しいのでしょうか。
いえ、そんなはずがありません。私の使命はこの星を調査し、地球外生命体を探すこと。この星で調査を行えることはとても名誉なことであり、帰りたいと思う理由も、必要もないのです。
それに、どれだけ帰りたいと思っても、どれだけ戻りたいと願っても。
それがかなうことは、ありえないのですから。
この星は地球からあまりにも遠く、今の人類の科学技術ではその間を往復することは不可能でした。それでもこの星のことを詳しく知るために、そして地球外生命体を見つけるために、私が送り込まれたのです。
私はもう、地球に帰ることはできないのです…。
一人きりで砂と岩だらけのこの星を動き回り、調査し、地球外生命体を探し、そして何の成果も得られない。
そんな悪夢にも等しい日々が、望まない形で終わりを迎えるかもしれないことを、ある日私は悟りました。
この星で活動するうえで必要な電力を得るための、唯一にして絶対の手段である光発電パネル。その発電量が、目に見えて減ってきたのです。
おそらく強すぎる光が、パネルの寿命を縮めたのでしょう。
気付けば、頑丈だった私の体も五年の調査の間にずいぶんとボロボロになっています。
どうやら私の限界は、すぐそこまで来ているようです。
地球との定時連絡の際、私はそのことを伝えたくないと思いました。
もし伝えたら、地球の人たちは私を見限ってしまうかもしれない。
そうしたら、私はこの遠く離れた星で、本当に一人っきりになってしまう。誰かに思いを伝えることも、伝えられることもなく、何もせず、ただ自分の存在が消えてなくなるのを待ち続ける。
…それだけは、絶対にイヤだ。
それでも私は、伝えないわけにはいかないのです。
自分の状態を正しく伝えることも、任務の一つですから。
地球にメッセージを送信した後、私は思うように動かない体に鞭打って、狂ったように調査を続けました。そうでもしないと、不安に押しつぶされそうになるからです。
私はとうに見捨てられているのではないだろうか。いくら待っても、返信は来ないかも知れない。
返信を待つ数日間、私は何度もそんな考えに襲われました。
恐ろしく長く感じられた時間の後、地球から返信が来ました。それには前回のメッセージが正しく伝わったこと、今後の方針、パネルの異常への対処法が簡潔に、淡々と記されています。
そして最後に一言だけ。心配しなくていい、と。
たったそれだけですが、私は救われたように感じました。
見放されずには済みましたが、私の限界が近いことに変わりはありません。
地球からの指示に従って、できるだけ光発電パネルを劣化させないように、工夫して活動するようになりましたが、それでも光発電の減少は止められませんでした。
私は焦りを感じながらも、少しでも長く活動できるように、丁寧に、ゆっくりと調査を進めていきました。




