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一か月ほど経った頃。

私は再び水の流れていたらしい痕跡を見つけました。そのような跡は今まで何個も発見していますが、今回のものは今までの中で一番はっきりとしていて、そしてどこかに続いています。何か予感のようなものがした私は、その跡を辿っていきました。

その痕跡の先には、小さな穴がありました。中は光が届かず真っ暗で、ライトで照らしてもよく見えません。

もしかしたら、中に水があるかもしれない。そう思って穴を覗き込んだ時でした。

足元の地面が突然崩れ、生じた裂け目の中に私は吸い込まれるように落ちていき、私は意識を失いました。





私が覚醒したのは、落ちてから三日も経った日の朝でした。

見上げると、私が落ちてきたらしい裂け目から光が差し込んでいるのが見えます。

落下の衝撃のためか、体がほとんど動きません。とてもあの裂け目まで登れそうにありません。

私はもう、ダメなのか…。

そう思って、絶望したとき。


………ピチャン………


何か聞こえた気がして顔を上げると。

私の目の前には、大きな湖が広がっていました。

約五年二か月かかって、私はやっとまとまった液体の水を見つけたのです。





私は久しぶりの新発見に興奮しました。

上から差し込む光で少しずつ発電しながら、満身創痍の体で出来る調査を進めます。

湖の水を分析していくうちに、生命の材料とも言える有機物が水中にごく微量ですが含まれていることを突き止めました。

もちろん、だからと言ってこの水の中に生命がいるとは限りません。

それでも私は、きっと地球外生命体がいると信じていました。



それから一週間後。

ついに私は、水中に細菌のような生命がいるのを発見しました。

思わず喜びだしたくなるのをぐっとこらえて、その生物を詳しく分析します。もしかしたら、それは私が地球から気付かず持ち込んでしまったものかもしれないからです。

分析結果が出るまではほんの数分。でもその数分が、なんと長く感じられるのでしょう。



結果が出ました。

データベースに該当するもの、なし。

地球を出て5549日と13時間26分47秒。

私はやっと、自分の任務を果たすことができました。

分析結果を詳細なデータと共に、地球に送信します。

この報告が地球に届く日。それは、人類が初めて地球外生命体の存在を確認した日になるでしょう。





次の日、私はとうとう動けなくなりました。



この五年間、この日を私はとても恐れ、苦しみ続けました。

でも今は、何も怖くありません。最後の最後に、私はやり遂げたのですから。

もしかしたらこの湖の底には、ほかの細菌やもっと大きな生物がいるかもしれません。

それを確かめられないのは残念ですが、きっとそれは、私の役割ではないのでしょう。

私がやり残したことは、何年後、あるいは何十年後に来る私の後継者がきっと明らかにしてくれるでしょう。



いよいよ最期の時が目の前に来ているようです。

ただでさえ限界の光発電パネルでは、上から差し込むわずかな光だけで発電できません。

私の体もボロボロで、意識を保つのでさえ難しくなってきました。

悔いはないけれど、せめて最後に何かできることはないだろうか。

私は考えて、地球にメッセージを送ることにしました。

と言っても、報告すべき新発見なんて何一つありません。無意味な行為です。電力の無駄遣いです。

地表でさまよい続けていた頃の私なら、こんな無駄な行為をしようとは一切思わなかったでしょう。

こうして任務を果たして、動けなくなったから、初めてこんな気持ちになったのかも知れません。


〈はるか彼方の地球へ

 「イノリ」より、メッセージを送信します。

 これが、最後のメッセージになるでしょう。

 …今までお世話になりました。

 後のことは、よろしくお願いします。〉


今まで必要最低限の報告しかしてこなかったからでしょうか。こんな短いメッセージしか思いつきませんでした。

それでも、私の思い全てが込められたメッセージです。

きっと無事に、地球に届きますように。





メッセージを送って一週間経ちました。

私は今、空を見上げています。

と言っても私は地下で動けませんから、暗闇の中で上を向いているだけです。

外は夜です。今晩も、地表ではさぞかし美しい夜空が見えるでしょう。

当然私には星どころか、何も見えません。それでも目を閉じれば、暗闇の中に無数の星が輝いているように思えるのです。

その時でした。地球からメッセージが届きました。私のメッセージへの返信のようです。

私の言葉は、ちゃんと届いてくれたようです。


〈はるか彼方の「イノリ」へ

 地球より、メッセージを送信します。

 お疲れ様でした。今まで本当にありがとう。〉


そのメッセージを読んで、私は胸がいっぱいになりました。このメッセージだけで、私のこの十五年間が報われたような気持になりました。

どうやら、メッセージには続きがあるようです。



…あれ、メッセージが開けません。

それだけでなく、だんだん頭がぼんやりしていきます。

とうとう、限界のようです。

まだ最後まで読んでなかったのに。


続きには、何が書いてあったんだろう。



ああ、でも。




最後に、地球から言葉を受け取れて。





本当に…









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