山田太郎⑤
どうやら、話が進まない病に罹ってしまったようだ……。
「あ、あのー。フェリ?」
「なに?」
「フェリ……だよな?」
「ん……あ、はい。そうですよ。みんなのアイドル、フェリちゃんですよ?」
元に戻った?
なんでこの短時間でこうもコロコロ印象が変わるのか。
多重人格って言われても納得できそうだ。
「これ、どう始末つける気だ?」
嬉しそうに抜き身の剣を抱きかかえるフェリは瀕死の金貴族とその治療に当たっている金騎士を見、すぐに視線を外した。
物凄くどうでもよさげな雰囲気が伝わってきた。
「ギルドで喧嘩を売られたらその後の処理は当人たちが全ての責任を負います」
「うん」
「殺したら少し面倒ですけど、半殺しにして物を頂くのはオッケーなのですよ」
「……無茶苦茶だな」
「荒くれ者に細かいルールなんて必要ないのですよ。シンプルイズベスト、これに尽きます。もちろん私は高貴な生まれですので一緒にするのはやめて欲しいのですけども」
「あ、そう」
高貴って……野生はあるのか?
あと、俺の問いに対する答えは?
「貴族だろうと王族だろうと、この街ではみんなただの余所者です。国賓扱いなら別ですけど、コレはただの冒険者です。権威も血筋も関係ありません」
「つまり?」
「冒険者ならよくある話です。命だけは残して、所持品も装備品も、金目の物は纏めて剥ぎましょう」
「盗賊よりもタチ悪くないか!?」
「賊は殺しに躊躇しませんよ。そもそも、この私に釣り合うだけの物を持ってもいないのに勝手に奪おうとしてきたのはあっちじゃないですか。正当防衛です。そうでしょ、猫助」
フェリに話を振られたギルドカウンター越しの猫助は嫌そうな顔で口を開く。
「修理費の請求はあっちにするけど、やるなら外でやれって言ったよにゃあ?」
「それは一昨日の話でしょ。あれだって正当防衛だったし」
「せっかく一日で元通りに直した物を翌日また同じ奴に壊された俺っちの気持ちが理解できるかにゃ?」
「知るわけないでしょ。私は猫助じゃないんだから。直したのだって猫助が直接やったわけでもないでしょう?」
「反省しろとまでは言うつもりもにゃかったんだがにゃあ……ここまで言われると、流石の俺っちも怒髪天を衝くにゃあ。おい、フェリ公。出禁にされたいのかにゃ?」
「別に構わないよ」
――始まってしまったんだもの。どうせ、もうここには戻れないよ。
フェリの小さな呟きが、そう続いたような気がした。
その言葉の意味は、俺にはさっぱり理解できなかったが。
てか一昨日もギルドの備品を破壊したのか?
猫助は溜息をこれ見よがしに吐き出し、フェリに指を突きつけて宣言しようとした。
「人様に指を向けるとは何様のつもりだ」
ベキィッ!
「ぎにゃああああああぁ!?」
突きつけた人差し指を本来曲がる方向とは逆に折られて絶叫する猫助。
「はいはいうるさいうるさい。癒しを与えよ【DI-AL】」
すぐさま何事もなかったかのように指が元通りに治される。
だが、痛みはすぐには消えないのか、涙目になりながら猫助はフェリを睨みつける。
「斥候職には欠かせにゃい大切な指ににゃにをするかぁ!?」
「ギルマスなんだからもうそうそうダンジョンには行かないでしょ。手加減だってちゃんとしたし」
「そういう問題じゃにゃあ!」
ぎゃーぎゃー喚く猫助とそれを煩わしげに応対するフェリ。
くいっくいっ、と袖を引っ張られたので振り返ると、目を潤ませたミーニャちゃんがいた。
反射的に抱きしめたくなったが、ここはグッと我慢して話を聞く。
「タロー様、ありがとうございます」
「ん? なにが?」
「私なんかを守ってくださって、本当に……ありがとうございます。わ、私……男の人に見られるのがちょっとだけ怖くって、でも、タロー様がいてくれると……その、心強くって、安心できて。大丈夫だって思えて……だから、お礼を言いたくて……」
「……ミーニャちゃん!」
「わぷっ!?」
抱きしめた。
思いっきり、力強く。けれども壊れないように、ガラス細工を扱うように、優しく。
「ミーニャちゃんは俺が守るよ。誰にも傷付けさせない、誰にも譲らない、誰であろうとミーニャちゃんを害する奴は俺が排除する。だから、安心してくれ」
「……タロー様」
「まだ、こんな俺なんかじゃミーニャちゃんを守ることは難しいのかもしれないけど……それでも、俺はいまできることを精一杯やって、強くなって、ミーニャちゃんを守ってみせる。だから……」
「……私も、タロー様に守られるだけではなく、タロー様の足を引っ張らない、タロー様の背中を守るくらいは、できるようになりたいです。いえ、なります……なるんです!」
「ミーニャちゃん!」
「タロー様!」
ひしっ、と抱き合う。
野次馬共が口笛を吹いたり拍手したりして煽り立てているが、どうでもいい。そんなものは塵芥だ。空気にもならない元素以下の存在だ。
いま、ここには俺とミーニャちゃんだけが存在しているんだ。
互いの温もりを感じ合って、繋ぎとめる。
背中に回した手で撫で回し、よりいっそう強く抱く。
雑音はカット。
周囲のゴミゴミとした風景もいらない。
ミーニャちゃんと俺。それだけで完成される世界……?
素敵だな。
最高だな。
完璧だな。
もう、このまま悠久の時をふたりっきりで……――
「ラヴラヴなおふたりさーん? 固有結界築かないで頂けますー?」
フェリが横から声をかけて邪魔をしてきたのでお互い我に返る。
顔を真っ赤にして離れるミーニャちゃんを名残惜しく思ったが、公共の場だし自重しよう。
俺の顔もリンゴかイチゴばりに赤面しているだろうが、仕方ないじゃないか。結構詩的なこと考えていたけど思い返してみればかなり恥ずかしい。
「金品を剥ぐのはそこらのおっさん連中に任せるので、まず今晩泊まる宿を探してはどうでしょう?」
「なんで任せるんだ?」
「鎧とか汗臭そうじゃないですか」
嫌ですよそんなのに触るのは、とでも言いたげに首を横に振るフェリ。
触手剣――ゼクセクスを虚空に放り投げ、おそらく空間魔法かそれに似た技能である別空間へと仕舞った。
不快感と威圧感が薄れ、少しだけ余裕が戻ったような気がした。あれは長時間見ていて良い物じゃない。SAN値が下がりそうだ。
「魔道具以外は売り払ってくれて構わないから、一割くらいは手伝った人たちにばら撒いてあげて」
「豪快だにゃあ……だが、しばらくは顔を出すにゃよ。これ以上問題を起こされたらこっちの胃がもたないにゃ」
「……うん。いつか、帰ってこれたら、来てあげるよ」
「にゃ……?」
やけに素直だな。
というか、まるで死地に赴く兵士みたいなセリフだ。
「気色悪いにゃ、気味悪いにゃ。季節が回りきったら許してやってもいいにゃ」
「……ありがと」
「うー……猫だけど、鳥肌が……」
混乱している猫助を放置し、こちらに歩いてくるフェリ。
なにを考えているのか、瞳を見つめても、欠片も理解できない。
「行きますよ? ご主人様、ミーニャさん」
「あ、あぁ……」
「はい」
ギルドを出て先導するフェリを観察する。
この少女はいったいどんな人生を歩んできたのか。
これから、どんな試練、どんな困難が立ち塞がってくるのか。
……ネガティブ思考? 少し違う。
予感、みたいなものだ。
なんとなく、楽には済まなそうだなぁ、なんて。そう思えるだけだ。
「ご主人様?」
「タロー様?」
「ん、いま行くよ」
俺がこういうのもなんだが……願わくば、この小さな狼少女に幸あらんことを。
意味ありげにそれっぽいこと言わせているけど、ぶっちゃけ作者はなんも考えていませんから。
設定や世界の大まかな歴史背景とかはかなりあるんだけどなぁ……。
そういやPVが一万超えていましたね。かなり前に、ですけど。
読者の皆様方に、感謝の弾幕を。




