山田太郎⑥
久々に謎話回。
――起きよ。
――目覚めよ。
――答えよ。
……誰だ。
――力が欲しいか。
……それは。
欲しくない、と言えば嘘になる。
――我を望むか。
……お前は、なんだ?
――我は力なり。
――我を求めよ。
――我を受け入れよ。
だが断る。
――何故我を拒むか。
力が欲しいからってそんな胡散臭い誘いに乗るほど俺はまだ追い詰められちゃいないんでね。
戦う為の力? 守る為の力?
そんなもの、自力で得てこそ価値があるんだよ。他人から簡単に譲られて得てもそれは自分の力じゃない。俺なんかが手にしても調子に乗って後々痛い目を見るのがわかりきっている。
だからお前の話には乗れない。悪いな。
――………………。
……。
――認めぬ。
――話が違う。
――認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ!!
壊れたスピーカーのようにひたすら『認めぬ』を繰り返し発し続ける声。
……さて。
人の夢の中にまで入ってきて、なんなんだろうなこれ。
宿屋に泊まって、フェリとミーニャちゃんを両脇に川の字で寝た記憶があるから、いま俺の身体は睡眠中だと思うんだが。
――運命線の変更を確認。
――原因、検索……発見検出。
――排除開始。
どこからともなく聞こえてきていた声が男のようなバス声から女性のソプラノ声に変わった。
――エラー発生。
――迎撃……失敗。侵入確認。
――排除せよ。排除せよ。排除せよ。
俺は特に何ができるわけでもないので目が覚めるのを待つしかない。
「……見つけたっ!」
フェリの声が聞こえた。
それを認識した途端、真っ白なのか真っ黒なのかもわからなかった空間がコンクリートみたいな色と質感の大部屋にいると気付けた。
それがいつからなのかわからないが、フェリは俺の目の前に立っていた。
「まったく。探しましたよご主人様」
「あー、悪かったな?」
「まぁ、不可抗力でしたしご主人様は悪くないのですが。ファイアウォール如きに手間取った私にも非はあります」
この異常な空間でもいつも通りの様子で少し安心した。
いつも通りと言っても、出会ってから半日しか経っていないからその”いつも”を知らないはずなのだが。
「まさか神域にまで出張ってるとは思ってもいませんでしたよ」
「神域?」
「私は詳しいことを知りません。それに、向こうもそろそろ来るようですよ」
さっぱり状況についていけない俺を置いてけぼりにして事態は加速していく。
コンクリの壁に切れ目が入り、扉のようにスッと開いた。
そこから入ってきたのは真っ黒いマネキンのような人型のモノ。ただ、左腕だけが生身の人間のような肌色をしている。
フェリの気配が変わった。また、あの冷たくて恐ろしい者の気配。
そして視線だけで人を殺せそうなほどの威圧感。
「アウトナンバー……中位低級か」
「強いのか?」
「小さな土地神よりは上。上級精霊と同格くらいね」
さっぱりわからんわ。
ただ、人知を超えた存在であるというのは、ひしひしと魂で感じている。
でもいま思い返すと自称転生神のSBの方がもっと神々しかったなぁ。
逆にこいつはかなり禍々しい。邪神って言われても納得する。
「これは善神側よ」
「こいつが!?」
「神格持ちによる転移者への力の直接譲渡……盟約ギリギリのグレーゾーンだってことは理解している?」
「無視か!? 凄く気になるんだけど!」
――何奴。
「神獣属神狼種ロキの娘……無名アウトナンバー中位低級、フェリ」
フェリって神様なのか?
なんか物凄い話を聞いちゃった気がする。
口が挟めるような雰囲気ではないので黙っていることしかできないが。
――ありえぬ。
――貴様は存在しない筈である。
「ここにいない運命……ね。主に望まれた正史から外された気分はいかが? 貴方も所詮は造られた存在。勝手な決め事に囚われて……それでも疑うことを知らないなんて、盲目的にも程があるとは思わない?」
――黙れ。
――これは反逆だ。
――我が主は完全である。
――我はただ使命を果たすのみ。
――故に我に心は必要無い。
――我は腕。主の手間を潰す左腕。
「茶番ね。それすらもお遊戯の一環でしかないというのに」
――囀るな。
――山田太郎は、ここで、我の、力を、譲り受ける。
――歴史の修正を開始する。
――正義を、執行する。
「私達の邪魔をするというのなら、堕とし殺す」
なにがなんだかさっぱり理解が追いつかない俺を差し置き、ふたりは戦闘態勢に入った。
フェリの武装は寝る前に見た寝巻き代わりの新撰組のコスプレっぽい服に触手剣ゼクセクス。
一方、左腕(仮称)はなにも身に付けず、なにひとつとして武器を持っていない。
「本気でいく……出番よ【フリントロック】」
初っ端からフェリがゼクセクスの擬装を解き、残像が見えたと思った次の瞬間には部屋の端にいた左腕の背後に回りこんで剣を振りかぶっていた。
ガギンッ!!
しかし、ゼクセクスの刃は左腕の右腕(ややこしい)にあっさりと防がれる。
「まだ、まだっ!」
ガギンガキンと何度も同じ部位にゼクセクスを叩き込むフェリ。
左腕はただひたすら、淡々と右腕でゼクセクスを受け続ける。
有効打を与えられないまま、フェリの口元が憎々しげに歪む。
「……効かない、か」
振るわれた黒の右腕から湧き出した影の触手のような不気味な物体の連撃をゼクセクスで弾き、バックステップで戻ってきた。
「逃げなさい」
「え?」
「奴の固有空間内ではいくら通常攻撃を与えても効果がないの。制限を解除しても神力が使えなければ意味はないし、足手まといの上にターゲットである貴方は撤退するべきよ」
「まぁ、まったくもってなにがなんだかさっぱり理解できてないからフェリに任せるけど。どうやってここを出れば良い? あとお前は俺を逃がした後どうするんだよ」
「念じなさい、祈りなさい。貴方がいなければ私一人でどうにでもできるから。核撃が効かなければ最悪神力開放してでも奴を消すつもりよ」
「……祈り願うだけか?」
「穴は作った。あとは貴方次第。時間を稼ぐから早くしなさい」
そう言ってまた左腕の元へと駆け出すフェリ。
祈れったってなぁ。
どうしろと。
だが。考えるより、やってみる。
為せば成る、為さねば成らぬ。
悪夢の中で「これは夢だ、だから覚めろ」とやるような感じで。
うーん。
ぬーん。
うーむ。
……駄目だな。
視界の端に映るフェリの方はますます過激な戦闘になっている。
生身っぽい左腕以外の黒い身体からは数え切れないほどの立体的な影が蠢き飛び出し、フェリを取り込もうと、串刺しにしようと四方八方から襲い掛かっている。
フェリはそれを驚くべき反射速度と運動能力で回避し、隙あらばゼクセクスで生身の左腕を斬ろうと頑張っている。
あまり猶予はなさそうだが、残念なくらいにどこをどうすればいいのか皆目見当も付かない。
困り果てているとこちらをちらりと確認してきたフェリからアドバイスが飛んできた。
「現世へと繋がるパスを感じなさい! 黒猫娘の所有権は貴方にある! なんのっ、ための特典だと、思って……くっ!?」
フェリがドーム状に集まった影に埋もれた。
なんでもいい、一刻も早くここから出る方法を、手段を!
[――システムメッセージ?]
[確認されました!]
[恩恵技能のアップデートが完了しました]
[技能取得はパーティーメンバー全員に適応されます。選択権、決定権はユーザー”山田太郎”にのみ存在します]
[外部への接続を検索中……発見しました]
[パーティーメンバー”ミーニャ”を確認しました]
[特殊技能【技能譲渡】を獲得しました。【技能複製】を獲得しました]
[パーティーメンバー”フェリ”は適応外です]
[現空間……固有隔離空間からの退避が可能となりました。退避しますか? Y/N]
「イエスッ!!」
そう叫んだ瞬間、俺の意識は闇の中へと落ちていく。
同時に、コンクリみたいな部屋と左腕の輪郭もぼやけ、影に埋もれていたフェリの存在も薄れていく。
「そう、できるじゃない」
まるで出来の悪かった生徒に言うように、冷たく感じられたあのフェリの優しげな声が聞こえたような気がした。
[固有隔離空間の崩壊が確認されています]
[固有隔離空間の座標位置は不確定です]
[緊急退避は開始されています]
……フェリも、逃げるんだよな?
「これを片付けたらね」
……待ってるからな。
レンタル期間は、まだまだ続いているんだからさ。
あんまり俺を、ご主人様を待たせるなよ。
ちゃんと、一緒に冒険しような。
「……」
返事は、なかった。
俺も、それ以上フェリのことを考える余裕はなかった。
洗濯機に放り込まれた虫になった気分だ。
身体がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられて、頭が割れそうなほどに痛む。
視界がなにも移さないのに眩しくて暗くて見えなくて、
自分という存在が消えそうになる。
――……ー…!
――タ……様…
――…ロ………
誰かが呼んでいる。
誰かが泣いている。
誰かが叫んでいる。
誰が悲しんでいる?
誰を探している?
――タロー様ッ!!
……ミーニャちゃん。
……俺は――
もう作者自身が話についていけない……。
これにて山田太郎視点、終了です。
話自体はまだまだ終わりませんが。
ここでフェリのデッドエンドルートも考えましたが流石にそれはないだろうと。
学園モノ書きたいな……。
純粋なロリっ娘キャラ書きたいな……。
(まったく、二次ロリっ娘は最高だぜ!)
15/3/2 タローとフェリの会話を少しだけ変えました。




