裏話一 密談
チートタグとか必要かな、と悩む日々。
でもチートっていうか、フェリはちょっとイメージが違うんですよね。
ここはとあるお屋敷。
奴隷商館に隣接する大豪邸である。
もちろんその豪邸の主は奴隷商館でのトップ、社長である。その姿はアクセサリーがなければ普通の一般人と見分けがつかないただの人間だが。
そんな主の目の前に、エメラルドグリーンなミニスカメイドがひとり。
「報告を聞こう」
「はい。結論だけ申し上げますと、彼女のことは放任なされるのが一番です」
「……開放しろ、と?」
「いえ、身分は特に気にしていないようですから大丈夫でしょう。しかし、彼女は自分以外の意思によって場に縛られることを好みませんし、下手をすれば敵対することにもなりかねません」
「ふん……そうか。ティー、お前は何を知っている?」
「……言えません」
ティーと呼ばれた少女は、場の温度が数度下がった気がした。
奴隷にとって主人とは絶対であり、逆らうこと、それを行うどころか考えることすら罪になる。
幸いなことにこの主人はかなりまともな思考をしており奴隷だからといって理不尽なことはしないが、この場合は当然、追求する。
主人はメイドの首輪を一瞬だけ見て、
「【答えろ】」
”命令”した。
これが奴隷が主人に逆らえない理由のひとつである。
『隷属の首輪』
奴隷身分になると必ず身に付けることが義務付けられている魔道具であり、これを着けることにより隷属神レードの管理下に置かれ、登録された主人の道具となる。
ちなみに。首輪型のチョーカー以外にも腕輪型のブレスレットやバングル、目立たないタイプではアンクレットなどがある。
しかし、その首輪は主人の命令を受けてもなんの変化も見せない。
「無駄です。命令よりもご主人様の命の安全が優先されます。彼女は自分から諍いを起こすような方ではありませんが、迂闊な行動は寿命を縮めます。私も神に誓ってご主人様に弓を引くことはありえません。どうかご容赦を」
「……よい。許す」
「ありがとうございます」
メイドは深く礼をし、再び姿勢を正す。
主人はその間に溜息を吐き、火を点けた葉巻を咥える。
割とどうでもいいことだが、この葉巻はダンジョンから産出されている原材料不明の健康ハーブである。ニコチンやら副流煙やらを気にせず吸えて更には身体能力の向上まで確認されている不思議な物品だ。その分市場に出ている量が少なく、貴族や華族などの金持ちにのみ許された嗜好品なのだが。
――しばしの沈黙。
先に口を開いたのは主人。
……奴隷如きが主人を差し置いて先に発言するはずがないので当然かもしれないが。
「お前を引き取ってから、何年だ」
「はい。18年になります」
「我も主人として少しはお前のことを理解しているつもりだ。……あれはお前達、あの種族に関わる者か?」
「……はい、おそらくは。ご主人様よりも、そして私よりもよく知っているはずです」
「そうか……」
再び訪れる沈黙。
だが、雰囲気はそう悪くもない。
「あいわかった。好きにさせろ。身元は我が保障しておくことになるが」
「ありがとうございます!」
「とは言え、いったい何者なのだろうな、彼女は。あまりにも規格外だ」
「お言葉ですがご主人様。彼女のことはあまり気にしない方がよろしいかと。私としても、その……悪い子ではないですし」
「ふん……お前が庇うとはな。我に物申すつもりか?」
「いえ、滅相もございませんよ。……ふふっ」
「どうだかな。お前は我を子供扱いする時がある」
「まさか。もうそんなお歳ではないでしょう?」
「ふっ……そうかもな」
いつしか、ふたりの間に漂う空気は長い付き合いに裏付けられ、互いのことを知り尽くした友との会話のようなものとなっていた。
そこに甘い、恋慕の感情は、あまりない。
だが、なくもない。
「……ティー、今夜は」
「あ、洗濯物を取り込んでまいります」
主人の言葉を不自然にスルーし、パタパタと足音を立て部屋を飛び出すティー。
残された主人は悔しげな表情を滲ませる。
「そうか……最近のアレはやはり彼女の仕業か」
第三者が聞くと謎の満ちた言葉になるが、真実を知る者にとってはやり切れない、もしくはくだらない問題なのだが。
「これでは……我もまだ、餓鬼だと言っているようなものではないか。はぁ……まいったな」
とあるご無沙汰な理由に見当のついた主人は、彼女をどうしてくれようかと思案する。
アドバンテージどうこうの問題ではなく、知識と経験で圧倒的な差がある以上どう足掻いても勝てる見込みなどないのだが、そこは男。負けられない戦いというものがある。
「これが、NTRかッ……!!」
ティーをめぐる戦争は、まだ始まったばかりである。
「ん~んん~んー♪んんーん~♪」
(ご機嫌ですねベル様)
(久々だったけど、美味しかったわ)
(何がですか?)
(ウィキさんは知らなくてもいいことです)
(なんで俺だけ除け者なんだよサード)
(……言えません)
(脳内だから直接は見えないけどなんで顔を赤らめるのかね? なんだよなにをしてるんだよふたりは。気になるだろうがよ)
(わ、私は無関係です!)
(……また飲みたいわね)
(なにを!?)
(ウィキには、絶対に、秘密です!)
(なんだろう、サードのイメージに今度は百合の花が見えた……)
(言えません言えませんっ!)
(ふふん)
どこか誇らしげなベルフェリが、悪魔に見えた。
ティーの授業中、ベルフェリが表に出るとティーが面白いくらいにガタガタと震えるのを見たからか。結局、なにが起きているのかは把握できないウィキフェリである。
それと最近サードの脳内に肌色とピンクの割合が増えてきたことに疑問を抱くウィキフェリ。思春期にはまだ早いと思っているのだが。
その答えは、まだまだ明かされない。
というか、たぶん一生秘匿されそうだった。
本人たちにとってはその方が気分的に良いことなのだが。
(う~む。やっぱり謎だ)
ウィキフェリの疑問は減るどころか増える一方であった……。
そういや神魔法とか忘れてたな、と読み返してみて気付く。
……まぁいいや。そのうちどうするか考えよう。




