閑話二 誕生は聖夜
クリスマスとクリスマスイブを混同してる奴www
はい私です(´・ω・`)
「「「メリークリスマース!」」」
「め、めりぃくりちゅましゅ?」
聖夜である。
神暦245年12月24日のことだ。
「「「そして誕生日おめでとう!」」」
わーぱちぱちぱち。
拍手とクラッカーと魔力による弾幕が飛び交う場の雰囲気に今夜の主役である少女は呑み込まれていた。
「ありあとーごじゃまし?」
「やーん可愛いー!」
「抱かせて抱かせて~!」
「だめよ~あたしが先なの~」
「いーじーわーるー!」
「その次はボクにー!」
「はいはーいお一人様1分5kだよー、最後尾はこちらだよー」
「おい。なに勝手に人様の領域で商売してんだ邪神代表」
「もうかりまっかーわははー」
「よしちょっと面貸せ。表出ろやこら」
「お手伝います、お兄様」
「頼むぜ」
「あ、ちょっ二人掛りは卑怯――アババババーッ!?」
「賑やかですね~。パパもお姉様も楽しそうでなによりです」
そんな我が子を生贄に騒ぎから離れたところで一息ついているのは母親である少女。エメラルドグリーンの瞳と髪が放つ輝きは本物の宝石にも劣りはしないと言われている。
そしてパパと呼ばれた黒眼黒髪、学ランを着た少年は恰幅の良い中年のおっさんを追いかけ、時々どこからともなく取り出したピッケルを投げつける。それを後ろに目でもあるのかと思えるほど鮮やかに交わすおっさん。
そのおっさんに両手に持った二振りの大槍で追撃するお姉様と呼ばれた赤眼黒髪の少女。その背中には漆黒の翼。だがおっさんは音速をも超えるその刃を紙一重で避け続ける。
少女の六度目の人生、1歳となる日である。
「おい、コカトリスチキンとタウロスローストビーフとオークステーキを3皿づつ持ってこい」
「はぁ~い……まったく、なんだってこんなことに」
「いいからさっさと行け」
ぶつぶつと愚痴をこぼす貧乏神、カミサマナンバー”BB”を蹴飛ばし急かすパパ。BBの見た目はセーラー服が似合いそうな少女なのだが中身を知っているだけあって容赦が無い。
「パパ、楽しんでいますか~?」
「ん? 勿論だとも。人生は楽しんでなんぼだしな。その上今日はクリスマスだぞ。ここで楽しまずにどこで楽しむ? だが人間共リア充は爆発しろ」
「さっすがはパパ! 慈悲も無いですね! まあここに純粋な人間はいませんがねっ!」
「言うなよ。人類だよ、みんな。人の心と精神性を持っているのならな」
「そんなパパに質問です!」
そりゃまた唐突な、と言いそうになったが、いつものことなので気にしないでおく。
「サンタさんは人間ですか?」
「えっ……?」
答えに詰まった。
サンタという謎のオジサンがトナカイの引く空飛ぶソリで子供たちにプレゼントを配る夜、とクリスマスのことを説明したのは今から数年前だったか。そういうものだと教えたのは良かったが、それ以上のことは知らないパパと呼ばれた少年。元はただの高校生だったのでそれ以上もなにもないと思うのだが。
架空の人物とされていたのだしどっちでも構わないと思うのだが、子供の夢を守り、なおかつ神秘性を保つにはどうすれば良いか、考えた。
そして考えた結果。
「サンタってのはな、千を超える姿を持っていて誰一人として本当の姿を知らないんだ。だから人間かどうか、誰にもわからないんだよ」
「パパの世界の人間はそんなにたくさん姿を変えられるのですか?」
「……俺の世界にはな、超人とかそういうのが人知れずこっそりと住んでいたんだ。だからそんな奴も少しはいたんだよ」
たぶんな、と口の中だけで呟く。
もうサンタはそれぞれの子供の父親が成り代わるものだと教えても良かったんじゃないかと思い悩むが、さすがに自分の仕事を進んで増やしたくは無い。
どこまでいっても、少年は面倒を嫌うのだった。人でなしとなった頃からそれは更に加速している。
(百人単位で子供がいるとかあっちにいた頃じゃありえないからなぁ……全員に配るとしたら物は難しいし。加護はもうすでにあるし)
ここにいるほとんどの住民は少年の血を引いている。男の数を意図的に減らしているのだから当然で、それ以外にも色々と理由はあったが、この話に関係ないので省く。
「わかりました! サンタさんの正体は謎だからこそ良いのですね!」
「あー、うん。そうだな」
「9皿持って来たよー、すごいでしょー」
「はいはい、えらいえらい」
ほめてほめてー、と擦り寄ってくる貧乏神を鬱陶しげに振り払い、受け取った料理を娘と妹的な存在に配る。
「ありがとうございますっ! いっただっきま~す!」
「はい、ありがとうございます。お兄様は食べないのですか?」
「ん。……ほら、今夜の主役にもな」
「ぱぱ?」
幼女となった転生少女の名はラクス。
普通、1歳児に肉を食べさせるのは無理があるが、それは人であった場合の話。改良されたハーフエルフである彼女はもう乳歯が生えてきているので問題ない。
「いやぁ、誕生日がクリスマスって覚えやすくていいよな。誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントがひとつにされるってデメリットがあるけど……はい、お礼は?」
「ありあとー?」
「よしよしよし」
ラクスの頭を撫でる少年。とてもじゃないが子持ちには見えない。
少女は転生した時からこの不思議な空間を幼児なりに調査しているが、まったく理解が及ばなかった。魔法も使わず火を熾したり取っ手を捻るだけで水が出る管など、今まで見たことも無い物がそこらじゅうに溢れているのだ。
この少年とその妹的な存在も、いったい何年生きているのか皆目見当もつかない。
だが、ここの人々は少女――ラクスが転生者でありこの世界において外れた存在であるにも拘らずそれを知っていてなお普通に接してくれるのが嬉しかった。
不便な生活が好きなわけでもなく、人に嫌われるよりはずっと良い。むしろこの不思議な状況に感謝しているくらいだった。
「なぁラクス。誕生日プレゼントはなにが欲しい? 俺が決めて良いのならいくつか候補があるんだけど」
「んー……」
「あれはまだ早すぎますよお兄様」
「そうですかぁ? この子ならだいじょーぶだと思いますけど」
「別にいますぐじゃなくても構わないし、もう何ヶ月か後でもいいぞ。その場合の問題はこっちの寿命の調整なんだけど……」
「それは私がなんとかします。お兄様はご心配なさらずに」
「そうか? まぁ任せるけど」
ラクスはこのやり取りを理解してはいないが、人ならざる世界の会話を垣間見ているのは感覚で解っていた。
「うらー飲め飲めー! 無礼講じゃー!」
「……ちょっと邪神狩ってくる」
「お供いたします」
「いってらっしゃーい」
ただ、どれだけ真面目な会話をしていてもすぐにその空気が崩れるのは、なんなのだろうとラクスはひとり嘆息する。
だが、悪くない。
みんな笑っているからだ。
人型以外の住民もいるのに分け隔てなく生活しているこの村。
木造ではなく煉瓦や鉄筋コンクリート、果てにはなんだかよくわからない物質で建てられた住宅。
科学という魔法ではない原理を利用した道具や設備。
ラクスは、この村が好きだ。
ほとんどの住民の父親が彼なのが、少し気になるが。
こんな日々がずっと続けば良い。
少女ラクスは、一度目以降の人生で初めてそう思えた。
彼がいれば「それはフラグだぜ!」と言ったのだが、その少年は邪神と戯れていた。
「……ふふっ」
「んー? どったのラクスちゃーん。ご機嫌ねぇ~」
「しあわせだな、て。おもったの」
「そーでしょそーでしょう! パパはね、とっても凄いパパなんだよ~」
そして語られるガトリングガントーク。
まだ完全には言葉を理解していないラクスにとっては少し難しかったが、自分の父親がどれだけ人知を超えた存在であるのか、それだけはなんとなく理解できた。
少女の人生は、まだまだ始まったばかりである。




