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紙上の参謀  作者: 海のくらげ


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第五話 参謀からの手紙

#第五話 参謀からの手紙


親愛なるアル

クロード家の課題は分かりやすいね。

特産品の木材はあるものの、移動するための費用や乾燥するまでの保管場所が掛かる上に加工するための職人はクロード領の人間ではないので利益が薄い。

そこで乾燥した木材を売るのでなく、生木のまま現地で売ってしまうのがいい。そうすれば移動費は客の負担だし代わりに運ぶならその分は運搬費用として別途請求を行う。

もし乾燥したものが欲しければ、倉庫を貸す名目で管理料を取る。そうすれば乾燥までの間預かり料としての収入も得られる。

今までクロード家が負担していた費用がなくなり、収入アップにも繋がる。

この費用負担を客に転嫁する方式はガルニエ領の熟成チーズにも使えるかもしれないね。


それから、木材を運んだら飾っておくわけじゃないから、建物を建ててくれる職人とセットにするのもいいかも知れない。

客は職人を用意する必要が減り、クロード子爵領の職人は仕事がもらえる。

ただ、これは同時にいくつも建てる注文が来ると職人が不足してしまうのでもう少し練らないといけないかもしれない。


うまくいく事を祈っている。

ノア




親愛なるアル

ベルフォード子爵家の課題は銀細工の出来る職人が少ない事だね。

職人の育成には時間が掛かるし、職人は人に教えるのが苦手な上に、人が増えると自分の仕事がなくなってしまうと考えている人が少なからずいる。

この認識を変えさせるためには一年間での潜在需要がどれくらいあるかを示し、一方で注文がどれくらい取れているかを示す必要がある。

銀細工は長く愛用されるものだが、やはりデザインには流行り廃りがあり一度作ればずっと使える、というものではない。

母親から娘に引き継ぐ場合もあるが、時代遅れのものは再度加工したり作り直したりする。


これらの事実を職人一人一人に説いて回るのは無理なので、管理する職人組合、ギルドを創設をするのがいいと思う。


職人組合の目的は二つ。一つは職人を管理する。職人を育て職人が技術を磨き競い合う関係を作る。職人にランクを作ってもいいかもね。

そして、もう一つは売上を管理する。注文を一元管理し、ランクによって職人を割り当てる。

一口に職人と言っても何十年もやっている職人とまだ五年の職人では腕に差があるからね。お金をたくさん出してくれるお客さんにはいい職人を割り当てるってわけさ。


これはすぐに出来ないと思うし、子爵団で同じような構図を作るというのがいいと思う。


うまくいく事を祈っている。

ノア




親愛なるアル

ラングリスとメルヴィルの課題は一次生産と二次生産が一箇所に固まっている事だ。

じゃがいもも小麦も生産と加工を一箇所で処理しようとするとどうしても人が必要になるが出稼ぎの人間に生産を委ねてしまっているから一次生産での儲けがあまりない。

これは人口を増やす他ないが、ラングリスやメルヴィルだけでは中々難しい。

これを解決する為にはラングリス子爵団全体で考える必要がある。

例えばじゃがいもをラングリスで生産し、子爵団内の他の子爵で加工を行う。それもラングリスブランドととして売り、ブランド利用料を支払う。

出稼ぎの人間も子爵団内での移動については税金を安くするなどの優遇措置をとる。


ラングリス子爵団による経済圏、一朝一夕ではいかないと思うけれど、アルならきっとやれる。

応援している。

ノア





親愛なるアル

アルノー子爵家の課題は、経済圏の上流をセディックに握られている事だ。

はちみつを作るには花が必要で、セディックは花を作っている。

どうしても開花時期に合わせてセディックを頼らなければならず原価が高い。

これを解決するにはラングリス子爵団内での移動に優遇措置を設け、アルノー子爵がはちみつを作るのを助けなければならない。

そして出来たはちみつはブランド化して例えば『ラングリスのアカシアはちみつ』、『メルヴィルのレンゲはちみつ』、のように売る。

当然アルノー子爵はブランド利用料を支払うがこれによってラングリスの名も広まるのでうまく使えば広告になるだろう。

それと、アルノー子爵の移動ルートや移動時期は大々的に公開し、新鮮な取り立てのはちみつを現地で売ってしまう。

一箇所一箇所ではさほど集める事は出来ないので買えない客が出ると予想される。

その客が売り切れで買えなかったと言えば人気があって買えなかったと勘違いする客も出て来る。


チーズにはちみつを掛けて食べるのがとても素敵だと聞いたよ。

いつか僕にも食べさせておくれ。

ノア




親愛なるアル

モントレー子爵の課題は他家とは異なり特産品がない事だ。

そのせいでセディックから資金援助も受けていて頭が上がらない状態だ。

これを解決する為にはやはりラングリス子爵団にて経済圏を構築するしかないだろう。

あいにくモントレー子爵は兵を移動するには十分な広い道路が交差している。つまり敵から攻められた際にここを利用される事が想定される。

これを利用して、兵の駐屯する砦を整備し、各子爵からの兵を交代で駐屯させる。

人が集まれば商売をする者も現れるだろう。まっとうな商人であれば税金を優遇、子爵団内の商人であればもっと優遇しても良い。


子爵団内での売りと買いそれぞれに税金を掛け、子爵団内の人間であれば他家からの売買よりも安くなるように誘導する。

これが出来ればモントレー子爵も特産品がなくてもセディックからの資金援助が不要となる。


アル、君が子爵になった頃、僕はこの世にいないかも知れない。

けれど僕は君だ。君が活躍してくれれば嬉しい。

ノア



ノアの指摘は的確だ。俺が困らないように残してくれた想いを大切にしたい。

だが、俺が子爵になって皆に意見出来るようになるまでには時間が掛かる。

モントレー子爵がそれまで保つだろうか。

俺には力がない。もちろんそれは認める。そして、エミリー姉さまに頼るしかない事も事実だ。

けれど手をこまねいてセディックがモントレーに手を出してくるような事があればそこから子爵団の勢いが削がれてしまう。

エミリー姉さまに話を聞いて欲しいと手紙を出した。出来ればルース兄さまと一緒に、と。



エミリーからの返事はすぐに来た。いつでも大丈夫とあったので、アルヴィスはすぐさまメルヴィル家に戻った。

公務を行う部屋に入ると二人は既にアルヴィスを待っていて優しく招き入れてくれた。

ノールとの会合についてはシェリルからの手紙で既に理解していて、会うなりエミリーはアルヴィスを抱きしめた。

「エミリー姉さま、ルース兄さま。久しぶり。いつ以来だっけ?」

アルヴィスが思ったよりも元気なのが気になった。無理をしていなければよいが。



アルヴィスはベストの内側から手紙を出すと机の上に広げた。

「これは、俺の参謀のノアが書いてくれた各子爵の課題なんだ」

「アルヴィス、お前もう参謀がいるのか!」

ルースは驚きと嬉しさが混ざった顔をしてアルヴィスを見た。

「すごいわね。ノア?」

エミリーは初めて聞く名前に反応した。

「ああ、ノールの愛称だよ。ノアは俺の事をアルって呼んでるよ。とにかく読んでみて」

二人は黙々と手紙を読み始めた。一通一通確認するように、何かを思い出すように。

途中怪訝な顔をした時もあったが、モントレー子爵の課題を教えてくれる手紙だった。

二人は読み終わった手紙を交換し、それも読み終わると次の手紙を拾いあげる。


「すごいな、課題を的確に言い当てている」

ルースは素直な感想を口にする。ノールはアルヴィスと同じ歳だ。それなのに大人顔負けの考えをしている。

「それに解決案も。もちろんこのままでは色々と綻びがあるからもう少し修正が必要でしょうけれど」

エミリーもそれに同意する。アルヴィスは手応えを感じ、我が事のように誇らしくなった。


「ああ、どうやら間抜けがのんびりしていたようだな」

ルースが自嘲気味に言う。課題は即座に解消しなければ、敵に付け込まれる。そうなると課題ではなく弱点と言われる。

「それはセディック子爵も同じですわ。気付いていれば統括の話が出た時にこんなにうまくいかなかったはずです」

エミリーはルースの自嘲を別の角度から分析する。二人でいる事のメリットが最大限に活かされている。

「よし、では皆を集めて今後の事を決めるか。それから、セディック子爵団の事ももっと調べておきたい。アルヴィス、ヴェルナー領の史書館へ行ってくれるか?」


アルドワーズ伯爵領にも史書館はある。だが便利な反面何かを調べていると言う事実はすぐにバレてしまう。

しかも閲覧するには申請をしなければならず、閲覧した事も公になるので、相手も同じ事を考える事が出来る。

秘密の作戦が秘密でなくなるようなものだ。

だがヴェルナー領であれば不正な閲覧でない限りは他の伯爵家に情報は渡らない。

以前シェリルをヴェルナー家に連れて行った時にも使った方法だ。

今回その役目をアルヴィスに任せたのは、そこがノールの場所だからだ。アルヴィスがノールを想う場所にはもってこいだ。


「うん、俺もそれがいいと思ってた。ノアは史書館で課題を見つけてるんだ。そこにすべてがある。それをノアと一緒に見つけたい」



アルヴィスはきちんと旅支度をした。着替えも、ノアからの手紙も、調べるべき事を書いたメモも持った。

前回の旅では周りを見る余裕はなかったが今回は景色を見る余裕があった。馬もアルヴィスの気持ちを理解して、一緒の旅を楽しんでくれている。

くねくねと曲がる街道に沿って走り、馬車を追い抜く時もそっと近付き護衛にひと言声を掛けてから馬車の馬を驚かさないように少し離れて通り過ぎる。

休憩もたっぷり取り、ヴェルナー領に着く前に一泊した。前回の旅を馬に感謝して世話も自分でやった。

朝日が昇る頃起きて、朝食を食べてから宿を出た。急ぐ理由もなく馬と共に走り始めた。

目指すはヴェルナー領!

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