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第9話 愛ゆえに

十字市ホテル。ダンス会場。

マドルの言葉に、全員が、黙り込んだ。

マドルは、理事長が好き。

アレキサンダーが好き。

「…」

その静けさをやぶったのは、理事長アレキサンダー本人だった。

「わたしは、初代マドモアゼル・デーメーテルを愛している。マドルは、現役マドモアゼルだ」

ヴィクトリアス学院のマドモアゼル制度。

女子生徒は、一人だけ。

男子生徒全員に愛されなくてはいけない。

トリコにし続けなくてはいけない。

規則。


「私は、迷惑でも、アレキサンダー理事長が好き。他の男の人に愛されたくないわ」

たった一人の人。片想いした人。

それ以外に、愛されたくない。


「マドル。俺たちの愛を否定するのか…」

「男子生徒全員ではなく、一人の男に愛されたいのか…」

「俺をトリコにするんじゃないのか…」

「マドルは、規則をやぶった…」

「マドルに罰を…」


『裏切り、マドルに罰を…!』


第9話 愛ゆえに


十字市ホテルの会場内で、男子生徒たちがくり返し、くり返し手を振りかざす。

マドルに、罰を。

マドルは、裏切った。


「…ああっ」

マドルは、くり返される非難の声に耳をふさいだ。

「マドルは、悪くねえよ。騒ぐのをやめてくれ」

「マドルは、悪いことしてないよ」

「マドルさん。大丈夫ですか」

ハモニスたちが、マドルをかばう。

『マドルに、罰を…!』

男子生徒たちはコブシを振り上げて、大声を張り上げる。

「罰って、何?私は、どうなるの?」

混乱するマドル。

ハモニスは、ぬいぐるみベアスを渡して、落ち着くように言う。

「罰は、“退学”だぜ。マドル」

「…退学?私、退学するの?」

ハモニスに聞く。

「罰は、“退学”だけだよ。マドル」

「…退学?退学だけなの?」

ファッソに聞く。

「罰といっても、“退学”だけですよ。マドルさん」

「…そうなの?退学になるの?」

ラシードに聞く。


「お別れだぜ」

「お別れだよ」

「お別れです」


ハモニス、ファッソ、ラシードの姿が遠のく。

声も、小さくなっていく。

マドルは、気絶した。


『せっかく、俺たち全員を受け入れてくれると思ったのに…』

『俺たちは愛が重いから、ヴィクトリアス学院にしか居場所がないんだ…』

『女の子は、何で一人の男の人に決めてしまうんだ…』

『皆んなに愛されたい女の子はいないのか…』

『キミは、嘘つきだったんだな…』

『愛したい…』

『愛には、愛を返してほしかった…』

『愛をささやかせてくれ…』


マドルは、ヴィクトリアス学院に通う男子生徒全員の声を聞いていた。


『オレも好きだったぜ。マドルのこと』

『ボクも好きだよ。マドル』

『ワタシも好きでした。マドルさん』


ハモニス、ファッソ、ラシード。

特に仲良しだった風紀委員会の三人組。

マドルも好きだった。

皆んなのこと。

愛じゃなくてね。好き。

楽しかったかな。ヴィクトリアス学院の日々も。

マドルは、思った。

アレキサンダーには、振られたけど。

皆んなのことは、嫌いじゃないや。

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