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死の香り二輪 ー死なない殺人鬼と死を呼ぶ少女ー  作者: へびーねこ


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8/8

アンモビウム

割れた窓の隙間から差し込む紫の夕陽が、その奇妙な部屋を包み込んでいた。


「……あったかい?」


数秒の間の後、恐怖と困惑の混じった声をようやく絞り出す。


「マイちゃん?もしかして、怖いの?」

「な……っ!」


正直に言えば、怯えている。が、メイに弱いと思われたくない一心で、その円に足を踏み入れた。

__息が、しやすい。

先程までこわばっていた身体が嘘のように軽くなる。


「あったかい、かも?」


はっきりとした、温度的な温かさではない。

人のやさしさに触れた時のような、安心感に近いぬくもりがそこにあった。

ゆっくりと、深呼吸をする。傷んだ木の匂いが鼻を衝く。


「マイちゃんマイちゃん、このお花の絵……」


ぬくもりを堪能していると、いつの間にか壁際に立っていたメイに呼ばれた。


「書くための、インク。絵の具じゃないみたい?」

「……まさか。」


嫌な予感がした。が、酸化した血の匂いはしない。

そっと、インクがダマになっているところを爪でひっかいてみる。

固まる前は相当な粘度だったことがうかがえる質感。ほんのりと香る植物性の香り。それはおそらく……


「花……?」


ぼそっと呟いた時だ。


「きゃっ!?」


急に窓から突風が吹きこんだ。お互いの長い髪が視界を塞ぐ。

風が止み、髪を整えようと目を開けた時。

__いた。山羊角だ。


「またお前か……!」


太もものナイフを抜こうと手をかける。……が、メイがそれを制止した。


「まって、マイちゃん。このひと……」


山羊角をメイが指さす。よく見ると、山羊角の手には花が握られていた。白い貝殻の連なったような花。


「呪い達よ。知りたいか。」

「しりたい。とっても。」


その声は、メイのものとは思えないほど力強かった。

私は何も言えず、ただメイの手を強く握ることしかできない。


「呪いは。運命を共にする。平等な命。均等な人生。」


山羊角が、ゆっくりとこちらに歩み寄る。


「死を、得るとき。また会おう。」


そう言って、細い手の中の花をメイに渡した。


「ありがとう。」


メイが微笑むと、異形は合掌しながらぶつぶつと言葉を発する。

そして。再び強い風が吹き込み__目を開けると、山羊角はいなくなっていた。


「これ、貝細工よね?」

「どう見ても花でしょ。」

「ううん、そうじゃなくて。貝細工って花。花言葉は確か……【不変の誓い】」


メイが難しい顔で花を見つめる。

……私が改めて部屋を見回すと、一冊の本が部屋の片隅に置かれていることに気が付いた。

真っ黒な表紙に、白い文字が三つ書かれただけのシンプルな本。


「メイ、これなんて書いてるかわかる?」

「……黒魔術?」


適当なページを開いてみる。すると、端の折られたページが開いた。


「悪魔召喚。」


覗き見ているメイが呟いた。


「何、それ?」

「悪魔っていう、つよい力を持ってる悪いもの。それを……よびだす?みたいな。」

「よくわかんないけど……あれ、この絵……」


折り目のない方のページの端に、絵が描かれている。

黒いローブ。老婆のようなしわくちゃの顔。そして、大きな山羊の角。間違いなく、例の異形だ。


「その本、かしてくれる?」


もともとそのつもりだ、とメイに本を渡す。

じっくりと、時々声に出しながら細かい字を目で追っていく。

しばらくして、メイが本を閉じた。


「なにかわかった?」

「うん、大体わかっちゃった。」


嬉しいとも、悲しいともつかない声色で言った。


「私たちが、死なない理由。」

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