命を枯らす厄災
「面白いね、勝手に周りの人が死んでいくなんて。」
繁華街。
ガヤガヤとした人混みの中、バニラアイスを頬張りながらメイに言った。
なんでも、メイは【自分は絶対死なないが、関わる人が全員死ぬ】という不思議な体質を持っているらしい。
その体質は生まれつきで、母親さえメイの出産時に死んでいるそうだ。
優しかったという父親も、一時期だけ同棲した祖母も。ひいては、道案内をした通行人まで。
家族はともかく、道案内程度の関わりで死ぬなんて、と。最初は疑っていたのだが。
現に、先程メイにアイスを手渡した店員は救急車で運ばれていったようだった。
「おもしろくないよ。だって、お友達もみんないなくなっちゃうんだよ?」
「友達かぁ……最後にいたのはずいぶん昔かな、幼稚園の時。」
「マイちゃんは、どうしてお友達がいないの?」
「いるわけないでしょ。名の知れた殺人鬼だよ?」
スカートの下、脚に装備したナイフをちらりと見せる。
「なんで、自分からほかの人の命をうばおうとするの?」
「んー、いい質問。」
待ってましたと言わんばかりに、ピッと指を立て、目を閉じて答えた。
「楽しいから。」
「ふーん……」
興味なさげなメイの反応に、意外さを覚える。
「変とか、怖いとか、思わないの?」
「べつに、こわくはない。そういう人もいるんだねって思う。変だとは思うけど。」
「の割に、そんな感じしないけど?」
「そうかな?あんまりよくわからない。わたしは、人が死んじゃうのはいやだなあって思うから、違う考え方なんだなあ、って思うよ。けど、そのくらい。」
なんとも感情の薄い声色でそう言う。
そして、しばらくの沈黙の後、ほんの少し明るい顔をして口を開いた。
「マイちゃんとは、お友達になれそう。」
「!!」
心底驚いた。
「アンタ、いくら自分は死なないからって、殺人鬼と友達って……!」
「……ふふ。」
「なに笑ってるのさ?」
「ううん、なんだか、久しぶりに人とお話しできたから。」
そう言ってにこりと笑う。
「へんなやつ。」
「マイちゃんもね。」
初めての経験だった。
【へんなやつ】呼ばわりされたことではない。人とまともに会話することそのものが、初めてに近い経験だった。
メイのような意味ではないが、私も、関わった人々は全員死んでいく。そんな中で人と会話なんてする機会など本当に無いのだ。
そして、その会話相手が自分と近いような感情を抱いているというこの状況も、初めてのことだった。
「あ~、なんか変な感じ!アンタがそんな体質じゃなければ、もうとっくに殺してるのに!」
「殺してもらえたら、きっと、楽になれたかな?」
「知らない!」
そんな話をしていた時だった。
ふと、辺りの喧騒が止んでいることに気づいた。
見渡すと、そこにはメイ以外誰もいない。
__いや、そうではなかった。
一体。見慣れない風貌の者が、居た。
一人ではなく、一体。なぜかと言えば、それは大きな山羊のような角を携えた【異形】だったからである。
「アンタ、何者?」
尋ねると、異形は笑みを浮かべつつ言った。
「可哀想に。可哀想に。」
「……?」
私の少し後ろで、メイが不思議そうに異形を見つめている。
よくわからないものは、殺す。いつものように拳銃を取り出そうとする。が、先ほど捨ててしまったことを思い出し、少し戸惑ってしまう。
「然し、揃ったようだ、嘗ての呪いは。」
異形は手のようなものを合わせ、合掌するような姿勢をとる。
「幸せそうに、揃っている。最期は、最期は、果たして。」
「よくわからないことをぶつぶつと……!」
右手にナイフを持ち、異形に向けた。と、思ったのだが。
「きゃああ!!!」
甲高い女性の声がした。よく見れば、ナイフの刃先は見覚えのない女性の喉元に突きつけられている。
「チッ、なんなんだよ……!」
苛立ちのままに、女性の喉を掻っ切る。
ごぽ、という息と血の混ざった音を掻き消すような周囲の喧騒。
「あーもう!面倒くさい……!メイ、走るよ!」
「あ、うん……!」
メイの手を引き、その場を走り去った。




