その花は出会いを果たす
夕焼け。
とある町の大通りを、夕焼けが照らしていた。
背に日光の暖かみを感じながら、私は無数の警官の前に立っていた。
「武器を置け、撃つぞ!」
声をあげた警官の方に、拳銃を向ける。とっさに、警官は盾の後ろに隠れる。
私は、すっ、と。わずかに銃口を上にそらした。
ダン!
銃声が響く。動揺する警官たち。
少しして、着弾した飲み屋のかけ看板がぐらりと揺れ、ガシャ!と音を立てて落下した。
真下に居た警官はそれに押しつぶされ、あっという間に人の形を崩してしまう。
「撃て!」
合図とともに、数発の弾丸が私めがけて放たれる。しかしその弾は私を掠めもせずに明後日のほうに着弾する。
奇妙な光景に思えるかもしれないが、私にとってはこれが日常なのだ。
あとは彼らに背を向けて走り去るだけだ。そう思った時、
「諦めろ!貴様は包囲されている!」
振り返れば、応援であろうパトカー。見上げれば、数機のヘリコプター。
面倒だ。こうなったら、全員殺ってしまうしかないではないか。
仕方なく、銃を構え直した時だった。
ドカン!
上空から爆発音がした。
見ると、ヘリが黒煙をあげながら我々をめがけて落ちてきている。
「逃げろ!」という誰かの声とともに、散り散りになる警官。私も落下物に備えつつ、その場から離れる。
数秒後、ヘリは逃げ遅れたパトカーの上に墜落し、辺りを火の海に変えてしまった。
パニックになる民衆と警官。
しかし、一番異様なのはそれらでも、そんな中で無傷の私でもなかった。
__火の海の中。慌てもしない様子で、一人の少女が佇んでいた。
十二歳ほどだろうか。やせこけ、ぼろぼろの服を着た、とてもこの場には似合わない少女だった。
「そこのお嬢ちゃん!早く逃げなさい!!」
「!」
少女は何よりもおびえた様子で、駆け寄る警官を見る。
「だめ、そんな、わたしを……!」
「いいから、早く__」
ドカン!
警官が言い終わるより早く、再びヘリの残骸が爆発音と炎を上げた。
そして、飛び散った金属片が、警官の胸を貫く。
それを見た少女は、怯えるでも、悲しむでもなく。
「あーあ……」
と、落胆したような声を漏らした。
あまりに奇妙なその少女に、私はとてつもない好奇心を抱いてしまった。
「そこのアンタ、ちょっとこっち来なよ。」
「! あ、あなたも…!」
嫌がる少女の手を引き、路地裏へと連れ込む。
………
日も、火も。何も届かない暗い路地裏。
連れ込まれた少女は、というと……不思議そうにこちらを見ていた。
「怖がらないんだね、珍しい。もしかして、私を知らないの?」
尋ねると、少女はすぐ近くの張り紙を指さす。
【大量殺人 川崎 舞 懸賞金500万円】の文字とともに、私の顔写真が掲示されている。
「知ってはいると…それでなんで怯えないの?」
「だって、あなた。生きてる。」
「…は?」
「わたしがいるのに。生きてる。」
ふざけている。そう思った。
ホームレスのような薄汚い格好。抱えられた、ぼろぼろの犬のぬいぐるみ。見た目からして、教養はなさそうに思えた。
「これでも、わからない?」
そう言い、少女の喉元にナイフを突きつける。
すると、少女はゆっくりと目を閉じ、「お願い。」と呟いた。
バカにされているのか?
腹が立った私は、そのままナイフを喉に突き刺そうとした。
……しかし、それは叶わなかった。
ぱき、と音を立て、刃が折れてしまったのだ。
仕方ない。拳銃を取り出し、少女の額に突きつける。
「ふしぎな人……」
少女はそう言って、少し安心したような顔をする。
何処までも舐められている。そう感じた思いのまま、引き金を引く。
カチッ
発砲音の代わりに、乾いた音がした。弾は入っているはずだ。
しかし、何度引いても弾は放たれない。
使い物にならない。苛立ちのままに銃を地面に投げ捨てる。近くの花瓶に当たり、花瓶が倒れる。
「お花は、大切にしないとだめよ。」
少女は花瓶を立て直し、こちらを見る。
「あなたって、ふしぎね。」
「アンタも、十分に変わってるけど。…名前は?」
「……川橋 冥。パパは、メイって呼んでくれてた。」
数秒置いて、そう答えた。
「メイ、ね。私は舞。知ってるとは思うけど。」
「マイちゃん……」
マイちゃん、マイちゃん……と、何度もぶつぶつと繰り返す。
しばらくそうした後、覚えた。というように一度頷いてから、顔をあげて口を開いた。
「マイちゃんは、どうして死なないの?」
「あー、さっきの?よくわかんないんだけど、私、死なないんだよね。どんなことが起きても。」
「そうじゃない。」
彼女は、心底不思議そうな顔をして言った。
「なんで、わたしとかかわっても、死なないの?」




