第3話 不純物の防衛裁判 、ケツとプライドの境界線
「止まれ、不純なる魂よ。わしこそが二七日の審判者、初江王である」
巨大な石の門の前に、威厳に満ちた法衣を纏った巨人が立ち塞がった。その背後には、三途の川のほとりで亡者の衣類を剥ぎ取る奪衣婆と懸衣翁が、手ぐすねを引いて魁斗たちのリュック(荷物)を狙っている。
「カカカ! やれやれ、奪衣婆にケツを執拗に狙われながら、一万本の剣とダンスを踊るとは! 冥に見せてやりたい見苦しさじゃわい!」
空中に浮かぶホログラムの蓮禅が、ポップコーンを貪りながら爆笑している。
「笑ってる暇があったら助けろよ、このクソジジイ!!」
魁斗は絶叫しながら、右腕の黒いノイズを鞭のようにしならせた。
上空から降り注ぐのは、初江王の魔力によって「盗人の業」を付与された一万本の銀色の剣。
「オラァッ! 物理法則仕事しろォッ!!」
魁斗がデッキブラシを旋回させると、黒いバグの奔流が剣の雨と衝突し、派手な火花を散らす。
しかし、真の恐怖は背後にいた。
「ヒッヒッヒ……その『不純な魂』、衣服ごと、いや皮ごと剥ぎ取ってやるよォ!」
奪衣婆が、もはや残像すら残さないスピードで魁斗の背後に回り込む。その狙いはただ一つ、魁斗の「幽体のケツ」である!
「ちょっと魁斗! 剥ぎ取られるのは服だけじゃないわよ! 尊厳が、あんたの全裸待機が地獄のニュースになっちゃうわよ!!」
ミオが叫び、青い炎をバリアのように広げた。
「私を火鍋の具にするのは勝手だけど、全裸の相方と一緒に地獄巡りなんて、恥ずかしくて成仏できないんだからね!!」
「……っ、そうだ。全裸で冥師匠の前に引きずり出されるのだけは……それだけは、死んでも死にきれねえ!!」
恥じらいが極限を超えた瞬間、魁斗の右腕がこれまでになく激しく、かつ不気味に明滅した。
「論理崩壊……全方位デバッグ開始だ!!」
魁斗の放った黒いノイズが、空中で「エラー・ウィンドウ」のように分裂し、降り注ぐ剣を次々と受け止め、逆にそれを「ノイズのハリセン」へと書き換えていく。
「な……わしの剣を『ハリセン』に上書きしただと!?」
初江王が驚愕に目を見開く。
「ババア! 人のケツをフリー素材みたいに触んじゃねえッ!!」
魁斗は背後の気配すら見ずに、ノイズのハリセンで奪衣婆をスパーーン!!と叩き飛ばした。
「これは『盗んだ力』じゃねえ……俺がこの地獄で、あんたらに刻まれた『屈辱』そのものだ!!」
ドォォォォォン!!!
最後の一本、一万本目の巨大な大剣を魁斗がノイズのハリセンで真っ二つにした瞬間、等活地獄に静寂が訪れた。
奪衣婆は三途の川の向こうまで吹っ飛んでいき、魁斗の衣服(とケツの守り)は奇跡的に保たれた。
「……見事なり、不純なる者よ。もはや審判などどうでもよくなるほどのバカバカしさだ」
初江王が深いため息をつき、城門を開いた。
「己の恥部を守るために地獄の理すら上書きする執念。……そのしぶとさを持って、先へ進むがよい。……ただし、次の黒縄地獄は、服だけじゃなく骨まで刻まれるぞ」
「……はぁ、はぁ……。ケツは、無事か……?」
魁斗は全身から湯気を出しながら、その場に膝をついた。
「魁斗! やったわね、全裸回避よ! ……って、今度は頭に五本くらい剣が刺さって、見事な王冠状態になってるわよ!?」
「……いいんだ……ミオ。……死んでも、尊厳だけは守り抜くのが……不純物の流儀……なんだろ……?」
白目を剥いて倒れる魁斗を、ミオが半泣きで「それ王冠じゃなくてただの串刺しだから!」とツッコミながら揺さぶる。
地獄修行、第一関門突破。
しかし、彼らの「皮」と「骨」を狙う、さらなる過酷な黒縄の試練がすぐそこに迫っていた。




