第6話 理(ことわり)の鎖、 暴力の再封印
「アァァァァハハハハ!! 壊れろォォ!!」
鬼神化したセイユの咆哮は、物理的な衝撃波となって新宿の瓦礫をさらに細かく粉砕していた。
神楽坂冥が全呪力を込めて放った斬撃さえも、セイユの赤熱した筋肉に触れた瞬間、因果ごと殴り砕かれて霧散する。
「……ッ、冗談じゃないわね。特級の攻撃がかすりもしないなんて」
冥は血を吐き捨て、刀を構え直す。彼女の背後では、白城レンがステッキを掲げ、限界を超えた速度で戦場の演算を続けていた。
白城レン
「……待て。何か、計算が合わない」
レンの瞳が、セイユの全身で引きちぎられ、赤熱して弾け飛ぶ「鎖」の残骸を捉えた。
それはもともと、セイユの異常な暴力を封じるために、黒祓会が最上級の呪企を施して巻き付けていたものだ。
「……なるほど。そういうことか(Q.E.D.)!」
レンはステッキを虚空に突き立て、演算結果を叫んだ。
「みんな、聞け! セイユの鬼人化は、彼自身の力ではない。……本来、彼を封じていたあの鎖が引きちぎられ、その封印の呪力が逆流し、彼自身の『暴力の概念』と混ざり合って暴走している状態だ!」
「……つまり、どういうこと?」
ミオが青い炎を纏いながら尋ねる。
「あの引きちぎられた鎖の残骸をすべて回収し、再び彼の体に『繋ぎ合わせる』ことができれば、封印の理が再構築される。……鬼人化は解除され、彼は元の『ただの暴力男』に戻るはずだ!」
「鎖を……元に戻す?」
魁斗が、デッキブラシから黒いノイズを放電させながら目を見開く。
「そうだ。……理屈は分かった。だが、あいつに近づくこと自体が死を意味する」
冥が冷徹な瞳でセイユを見据えた。
「なら、話は単純よ。……私がアイツの前で、盛大に暴れてやるわ。あんたたちは、その隙にゴミ拾い(鎖の回収)を完了させなさい」
「冥! 危険すぎる!」
レンの制止を振り切り、冥は地を蹴った。
神楽坂冥の死地への突撃
「オォォ! 特級ォォ!! お前から潰してやるよォォ!!」
セイユのターゲットが冥に固定される。
冥は刀を逆手に持ち、全呪力を脚部に集中させた。真正面からの激突ではない。
セイユの視線を自身に釘付けにし、その攻撃をコンマ数秒の差で回避し続ける、命がけの特攻の舞だ。
セイユの巨拳が空を切り、空間を殴り砕くたび、冥の衣服が裂け、血が舞う。
「……っ、この筋肉ダルマ……! 掃除(封印)が終わるまで、その汚い顔を見せ続けなさいよ!!」
冥は血を流しながらも、セイユの目の前で不敵に笑い、彼を挑発し続ける。
冥が死地で時間を稼ぐ中、レン、ミオ、魁斗は瓦礫の海を駆け、赤熱した鎖の残骸を回収していった。
「理論構築、第28層。鎖の呪気残留成分を解析……、結合座標を特定!」
レンが回収した鎖をステッキの光で繋ぎ合わせ、封印の数式を再起動させる。
「ミサ姉ちゃんの……、仇!!」
ミオが自身の霊体を鎖に纏わせ、赤熱した鉄を自身の炎で冷却し、結合を強化する。
「……っ、ゴミ拾いは俺の専門だ!!」
魁斗がデッキブラシの闇の呪力で、離れた場所にある鎖を引き寄せ、レンのもとへ運ぶ。
不浄のバグ、復讐の幽霊、論理の理論家。
三人の異なる「不純物」たちが、かつてセイユを封じていた「理の鎖」を、今、奇跡的なコンビネーションで再構成していく。
「冥! 鎖の再構成、完了だ!!」
レンの叫びが、戦場に響いた。
冥はセイユの巨拳をギリギリで回避し、叫び返す。
「……遅いのよ、バカ!!」
冥がセイユの顔面へ向かって刀を投擲した。
セイユがそれを叩き落とそうと腕を上げた瞬間、彼の死角から、レン、ミオ、魁斗が、再構成された「理の鎖」を携えて突入した。
支配と反逆のクロスが、今、鬼神を捉える。




