第5話 狂乱の鬼神
「アァァァァハハハハ!! 壊せ、壊せ、壊せェェ!!」
鬼神化【オーガモード】へと変貌を遂げたセイユは、もはや理性のカケラもない「動く災害」と化していた。
全身の血管は赤熱した溶岩のように脈打ち、赤黒い筋肉が異常膨張して皮膚を裂かんばかりにうねっている。巻き付いた鎖が激しい熱を帯び、周囲のアスファルトをドロドロのマグマへと変えていく。
彼にとって、敵も味方も、正解も不正解も関係ない。
ただそこに「壊せるもの」がある。それが、今のセイユを動かす唯一の論理だった。
その狂気は、味方であるはずの、世界の管理者・ソルトにさえ牙を剥く。
「……オォ、ソルト! お前も、その澄ましたツラごと粉々に砕いてやるよォ!!」
セイユが地を蹴る。
爆発的な衝撃波。彼が踏み出したアスファルトが粉砕され、座標ごとへし折れる。
振り下ろされる巨拳。それは物理的な破壊ではない。触れたものの「存在理由」を殴り潰す、概念破砕の一撃。
「……不愉快だ」
ソルトは眉ひとつ動かさず、汚れ一つない顔で、掌をかざした。
「ターゲット修正。『不純物』の完全浄化を開始」
ドォォォォォン!!!
激突の瞬間、戦場は光と闇の特異点と化した。
ソルトの掌から放たれる白銀の光。それは触れたものを存在の根源から抹消する「無」の領域。
セイユの拳から放たれる赤黒い重力。それは触れたものを物理・霊体を問わず「瓦礫」へと変える「力」の領域。
光と力がせめぎ合い、虹色の因果の火花が戦場を覆う。
空気が爆ぜ、空間そのものが悲鳴を上げてメキメキと軋んだ。
「ハハ! 澄ましてんじゃねえよォォ!! 管理者だか何だか知らねえが、俺の『暴力』は、お前の『正解』すら殴り殺すんだよォォ!!」
セイユが咆哮し、さらなる熱量を放出する。
鬼神化したセイユの出力は、管理者の計算を上回り、ソルトの「浄化」の膜を無理やり押し潰し始めた。白銀の光が歪み、セイユの巨拳がソルトの顔面へ肉薄する。
「……チッ。計算外のバグだ。効率が最悪だね」
ソルトは初めて、微かな苛立ちを瞳に宿した。
彼は自身の浄化の領域を瞬時に爆縮させ、その反動を利用して、セイユの拳をわずかに受け流した。
拳はソルトを捉えなかったが、その風圧だけで、ソルトの後方にあった十数棟のビルが、瓦礫すら残らず「存在を消去された」更地へと変貌した。
「これでは掃除どころではない。ターゲットの選別が不可能だ」
ソルトは冷徹な瞳で、瓦礫の中の魁斗を射抜く。
「邪魔が入ったようだ。……兄さん、今回の対決はお預けだよ。その野蛮な男に潰されずに生き残れたら、また会おう」
「待てよ、ソルト!!」
魁斗の叫びも虚しく、ソルトの姿は白い光の塵となって夜の闇に溶け、消え去った。
「逃がさねぇえええ!! 全部だ! 全部壊すんだよォォ!!」
ターゲットを失ったセイユの矛先が、再び冥、レン、ミオ、そして魁斗へと向けられる。
鬼神の熱気が、四人の皮膚を焼く。
「……さて。あっちの『正解者』は逃げ出したけど、こっちの『暴力』はさらに面倒になったわね」
冥が刀を構え直し、荒い息を吐く。
「論理を超越したエネルギー体だ。単独では1秒も持たない。……だが、四人なら話は別だ」
レンがステッキを掲げ、残されたすべての呪力を振り絞り、広域演算を開始する。
「やるわよ、魁斗! 姉さんの仇は逃げたけど、あいつを野放しにしたら街が消えるわ!!」
ミオが青い炎を全身に纏い、魁斗の横に並び立つ。
「ああ……分かってる。あいつの『暴力』が正解だって言うなら、俺たち四人の『バグ』で、その正解を叩き壊してやる!!」
魁斗のデッキブラシが、黒いノイズを激しく放電させる。
特級除霊師・神楽坂冥
論理の求婚者・白城レン
復讐の幽霊・ミオ
不純のバグ・魁斗
奇跡の共闘。
鬼神と化したセイユを中心に、四つの異なる「力」が交錯し、夜を切り裂く反撃が始まった。




