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特級除霊師 神楽坂 冥は除霊に情け容赦がない  作者: 虫松
神楽坂 冥との出会い

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第11話 白の選別、赤の暴力

夕焼けの残光が、割れた硝子の破片のように街を刺していた。


すべてを見下ろす廃ビルの屋上。吹き荒れる強風の中でも、少年の纏う純白のスーツは、物理法則を拒絶するように一切の揺れを見せない。


ソルト。彼は「観測」などしていない。彼の瞳は、世界の構成要素を瞬時に仕分ける「選別ソーティング」によって対象を捉えていた。


「……やはり、未完成だ」


視線の先、数キロ離れた遊園地。


そこに立つ兄・魁斗の姿は、ソルトの視界では「人間」として映っていない。

白でも黒でもない、境界線が絶えず揺れ続けるノイズ。

存在そのものが濁り、輪郭がバグのように震えている。


「存在が濁っている。……気持ちが悪い」


感情の欠落した声。ソルトは指先を、ピアノの鍵盤を叩くように軽く動かした。

空間に、髪の毛よりも細い透明な「線」が奔る。


ピッ。


それは攻撃ですらない、ただの「選別ラインの試し切り」。


遠く離れた遊園地で、魁斗の足元のアスファルトが、音もなく円形に消失した。

切断されたのではない。破壊されたのでもない。


「そこだけ、最初から存在していなかったこと」に、世界が書き換えられたのだ。


「……耐えるのか。やはり、構造だけは同系統だな」


ソルトの瞳に、極小の「興味」が宿り、次の瞬間には霧散した。


「だが、不純だ」


掌を握り込む。空間が目に見えて圧縮され、魁斗の周囲の空気が悲鳴を上げる。


「今はいい。まだ、削除する段階じゃない。壊れる過程を確認したい」


ソルトは踵を返した。彼の背後で、夕日は完全に沈み、世界は闇に塗りつぶされた。




黒祓会・深淵


光も、音も、意味すらも存在しない地下。


巨大な黒石の円卓の中央で、ドロドロとした「霊の塊」がドクドクと脈動している。

そこへ、ソルトが静かに歩み寄る。


「報告」


円卓を囲む四人の視線が、ソルトに集まる。


「ぬらりひょんは?」


穏やかな、それゆえに空恐ろしい声。ミソスープが扇子を閉じる。


「戦闘不能。コアは回収後、破棄した」


「あらぁ、壊されちゃったのねぇ」


シュガリアがドレスの裾から砂糖を零し、その一粒を舌で転がした。「あれでも私の可愛いペットだったのに。……ねえ、どんな風に溶かされたの?」


「原因は?」


Nestの包帯に刻まれた無数の「目」が、一斉にソルトを見開く。


「イレギュラー。名称:四六死苦魁斗」


「はっ! またその“バグ”かよ」


セイユが鼻で笑い、円卓の縁を指先でなぞった。それだけで厚い石材が砂となって崩れ落ちる。


「ゴミがいくら集まったところで、ゴミ山ができるだけだ」


ソルトの瞳がわずかに動く。


「バグではない。未完成な、同系統だ。……無意識の消去能力。範囲不定。再現性なし。制御不能。だが――」


一拍置いて、ソルトは断言した。


「危険度は、我々と同等だ」


円卓が、軋むような不快な音を立てた。


シュガリアがクスクスと肩を揺らす。


「いいじゃない。壊しがいがありそう。幸せの絶頂で心を溶かして、甘い甘いお菓子にしてあげたいわぁ」


「……あ?」


地響きのような声が、シュガリアの笑いをかき消した。


ドンッ!!!


円卓に巨大なヒビが走り、激しい衝撃波が空間を震わせる。


セイユが立ち上がっていた。


全身に巻き付いた太い鎖が、怒りに呼応してガチャリと鳴る。


「めんどくせぇ話は終わりだ、理屈野郎ども」


セイユは歯を剥き出しにして、獣のような笑みを浮かべた。彼の周囲だけ重力が数倍に膨れ上がり、床がミシミシと沈み込んでいく。


「その“バグ”も、その除霊師の女も、キザな白スーツも……まとめて俺が潰す。ルール? 理屈? そんなもん殴れば割れるだろうが!!」


セイユの右拳が、爆発的な呪力を帯びる。


「冥の斬撃も、レンの理論も、その兄貴の“概念”すらも……俺の暴力の前では平等に塵だ。あいつらの人生ごと、まとめて更地にしてやるよ」


ミソスープが扇子で口元を隠し、冷徹な目でソルトとセイユを見た。


「……承認しますか。いいでしょう。状況を“煮込む”段階は終わりました。ここからは一気に火力を上げるとしましょう」


「ええ、“暴力”を投入しましょう」


シュガリアが快楽に酔ったように、自分の腕を抱きしめる。


「楽しみねぇ。誰が、どんな悲鳴を上げて壊れるのか」


「不純物の兄さんは、僕が処理する。それ以外は好きにしろ」


ソルトは無機質なまま言い放つ。


「できるならな、ガキが」


セイユが円卓を蹴り飛ばし、闇の中へと消えていく。


次の戦場は、もう決まっている。


暴力の権化・セイユ。

理屈を殺し、概念を砕くその拳が、魁斗たちの「日常」を粉砕するために放たれた。

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