転生妻と皇太子1
よろしければ、お読み下さい。
ある日の昼、クヴィエト帝国の城の前に、一台の馬車が停まった。降りて来たのは、アニエスと侍女のタチアナ。二人共、大きな鞄を持っている。
「お止まり下さい。お名前とご用件を伺いましょう」
城門の前にいた兵士がアニエスに向けて言葉を発した。アニエスの服装等から、それなりに身分が高い者だとはわかっている様子だ。
「レーヴ王国の第二王子エルネスト・アベラールの妻、アニエスと申します。外交に関わる方とお話をさせて頂きたいのですが」
「レーヴ王国……少々お待ち下さい」
兵士は、城の中に消えていった。しばらくすると兵士は戻ってきて、「どうぞお入り下さい」と言って、門を通してくれた。
城に入ると、文官らしき人が広間まで案内してくれた。しばらく待っていると、一人の男性が広間に入り、玉座に座った。
「アニエス・アベラールとその侍女だな。顔を上げろ」
顔を上げると、そこにいたのは二十代後半くらいの美しい青年で、白いショートヘアに赤い瞳をしていた。肌の色は褐色に近い。白いシャツに袖なしの黒いジャケットが良く似合っている。彼の顔には見覚えがあった。
彼の名前はヴァルトル・ベンディーク。クヴィエト帝国の皇太子で、ゲームの世界では攻略対象の一人だ。
「俺は皇太子のヴァルトル・ベンディーク。外交は俺が仕切っている。今回来たのは、レーヴ王国への資金援助に関する事だな?」
「はい。資金援助の条件として私との婚姻関係を提示頂いておりましたが、条件を変更して頂けないかと思い、参りました」
「具体的には?」
「私の他にも、魔術を使える者が一名おります。彼は罪を犯し服役中ですが、魔術の腕と知識は私以上でございます。彼が逃走したり、帝国で罪を犯す可能性も低いと考えます。私の代わりに、彼をこの国で魔術師として働かせる事を検討して頂けないでしょうか」
「罪人など信用できるか」
「この条件を呑んで頂けたら、資金援助は当初お願いしていた額の半分で構いません」
この交渉内容については、レオナールの了承を得ている。
「……妻がいた方が体裁を保てるから、お前を妻にする条件の方がいいんだがな……」
「では、皇帝であるお父様の病を治す薬を用意できると言ったら?」
ヴァルトルは、ピクリと眉を動かした。そして立ち上がると、跪くアニエスに歩み寄り、腰に差していた剣を抜いた。剣をアニエスの首にピタリと付けると、低い声で言った。
「何故父上が病に侵されていると知っている?」
「私の口からは申し上げられません」
しばらくの間沈黙が流れた。タチアナが、ハラハラした様子でアニエス達を見ている。
「……その薬は今持って来ているのか?」
ヴァルトルが沈黙を破った。
「はい、用意してございます」
「では、毒見をさせた後父上に飲ませよう。薬の効果は、飲んでからどれくらいの時間で現れる?」
「個人差もございますが、二~三日の内に効果が表れるかと」
「では、四日間この城に滞在しろ。薬の効果が認められたら、資金援助に関する先程の条件を呑んでやる。それと、ここに滞在している間領内に魔物が現れたら、討伐を手伝ってくれ」
「承知致しました。ご検討頂ける事、ありがたく思います」
ヴァルトルは、剣を腰に収めると、アニエスから薬を受け取った。そして、文官にアニエス達を客室まで案内するよう命じると、広間を後にした。
アニエスは、ホッとした。やはり、真剣を抜かれると緊張する。皇帝が病なのを知っていたのは、前世でゲームをやり込んでいたからなので、知っていた理由を深く追及されていたら厄介な事になっていた。
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